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第3部
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甲状腺機能亢進症に関してよく聞かれる質問

第3部:甲状腺機能亢進症の治療
第1部第2部では甲状腺機能亢進症のいろいろなタイプとその診断法についてお話いたしました。今回は、以下のような質問を含め、甲状腺機能亢進症と戦うために現在使われている治療法についての質問にお答えいたします。
01 甲状腺機能亢進症の危険な症状を素早くコントロールする方法が何かありますか?
02 グレーブス病の初期治療はどのようなものですか?
03 この薬を使ったグレーブス病の治療はどの程度うまくいくのですか?
04 抗甲状腺剤には副作用がありますか?
05 薬が効かない場合は、次に選択される治療法はどんなものですか?
06 放射性ヨード治療で体にどのようなことが起こるのでしょうか?
07 医療関係者はなぜRAIを私に投与した後、ドアの方に走って行くのでしょうか?
08 また、放射性ヨード治療はどの程度安全なものでしょうか?
09 RAIはどの程度効き目が早いのでしょうか?
10 放射性ヨード治療の副作用はありますか?
11 薬剤や放射性ヨード治療の他に治療法はありますか?
12 手術の後どのようになりますか?
13 薬や手術、放射性ヨード治療のどれも受けたくないのですが、他に方法がありますか?

[01]甲状腺機能亢進症の危険な症状を素早くコントロールする方法が何かありますか?
最終的に使われる治療法には関係なく、医師はまずアテノロール(テノルミン)やナドロール(コルガード)、メトプロロール(レプレッサー)あるいはプロプラノロール(インデラール)などのベータ遮断薬(ベータ・ブロッカーとしても知られています)を使って、循環している甲状腺ホルモンの体の組織に及ぼす作用を遮断し、心拍を遅くしたり神経の過敏状態を減少させるようにします。これらの薬剤は、受けている治療の効果が現れるまで、このような危険を及ぼす可能性のある症状を素早く減少させるのに役立てることができます。

しかし、喘息や心不全のある人には、病気を悪化させることがあるので使ってはなりません。インスリンを使っている糖尿病患者も、ベータ遮断剤が低血糖の警告症状を隠してしまうため、注意が必要です。

最後に、これらの薬剤は治療の代わりにはなりませんが、普通は気分がよくなり、時にほんの2〜3時間の内に効果が現れることもあります。

[02]グレーブス病の初期治療はどのようなものですか?
病気が軽いか、小児または若い人に起こった場合、あるいは迅速なコントロールが必要な場合(高齢者の心臓病がバセドウ病に伴う心拍増加で危険な状態になるような場合です)、まず最初に行われるのは、プロピルチオウラシル(PTU<注釈:日本ではチウラジールまたはプロパジール>)やメチマゾール(タパゾール<注釈:日本ではメルカゾール>)のような一連の抗甲状腺剤の投与です。

これらの薬は、甲状腺が甲状腺ホルモンを作るのに必要なヨードを取り込みにくくすることで甲状腺ホルモンの産生を減少させるのです。どちらの薬も妊娠中に使うことができますが、PTUの方が好んで使われます。

約5%のケースで、皮膚の発疹が出ます。約0.05%のケースで、患者の白血球が減少し、そのため重篤な感染を起こすリスクが高くなります。

[03]この薬を使ったグレーブス病の治療はどの程度うまくいくのですか?
この薬が効くのは患者の20〜30%だけです。これらの患者では、抗甲状腺剤による治療で、病気の寛解期が長くなります。特に治療を始めた時に病気が比較的軽かった場合そうなります。

これが、この病気が疑われる場合、早いうちに医師に見せた方がよいもう一つの理由です。

[04]抗甲状腺剤には副作用がありますか?
約5%のケースで、抗甲状腺剤は皮膚の発疹や蕁麻疹、また時に発熱や関節の痛みなどのアレルギー反応を引き起こします。もっと重篤な副作用としては、免疫系の一部である白血球の減少が起きる可能性があり、この結果感染に対する抵抗力が弱くなります。非常に希ですが、これらの細胞が完全に消失してしまうことがあります(これは無顆粒球症と呼ばれます)。この状態になると、重篤な感染があれば死につながる可能性があります。これらの抗甲状腺剤を飲んでいる間に感染症に罹った場合、薬の服用を直ちに中止し、その日のうちに白血球数を調べてもらわなければなりません。白血球数が減ってきているのに薬を飲み続けた場合、感染で死に至ることもあるのです。しかし、減少した白血球は、薬を中止するともとの正常値に戻ります。手術や放射性ヨード治療に起因するものよりはるかに可能性は低いのですが、抗甲状腺剤による甲状腺機能低下症が起こることもあります。

[05]薬が効かない場合は、次に選択される治療法はどんなものですか?
ほとんどの甲状腺機能亢進症患者は、最終的にRAIとしても知られていますが、放射性ヨードで治療されることになります。このRAIはカプセルまたは液剤の形で、経口投与されます。その後に起こることは、RAIが胃から血液中に入り、その内に甲状腺に入っていきます。甲状腺は甲状腺ホルモンを作るのにヨードを必要とするので、RAIはそこに留まります。そこで、甲状腺は血液の中からすぐにヨードを取り込みます。
甲状腺の中では、放射線により甲状腺細胞の一部が破壊されます。それによって甲状腺ホルモンの産生が減るのです。

[06]放射性ヨード治療で体にどのようなことが起こるのでしょうか?
最終的に、体は尿を通じてほとんどのRAIを体外に出してしまいます。RAIが残っていても、やがて放射能はなくなってしまいます。

[07]医療関係者はなぜRAIを私に投与した後、ドアの方に走って行くのでしょうか?
RAI(放射性ヨード)の放射線に長くさらされると危険な場合があるからです。RAIを飲む側は1回か2回なので危険な被爆量になることはありませんが、医療現場で働いている人は1日中この治療を外来患者に行っているので、危険なほど長く被爆を受けるリスクがあるのです。そのため、RAIの近くにあまり長く止まっていたくないのです。

[08]また、放射性ヨード治療はどの程度安全なものでしょうか?
この治療は1940年から使われており、50年近く経っていますがRAI治療による重大な合併症は出ておりません。しかし、妊娠中や授乳中にRAIを飲むべきではありません。

[09]RAIはどの程度効き目が早いのでしょうか?
ほとんどの患者は3ヶ月から6ヶ月のうちに寛解します。しかし、最初の線量が小さすぎた場合、治療を再度繰り返す必要があることもあります。

[10]放射性ヨード治療の副作用はありますか?
主な副作用は、甲状腺の損傷をコントロールできないため、RAIの後にほとんどの患者で甲状腺が不活発になることです(甲状腺機能低下症)。もしそうなれば、甲状腺ホルモンを補って治療します。これはばかげたことに見えるかもしれません。一つの甲状腺の病気から別の病気へと入れ替わるわけですから。しかし、甲状腺機能亢進症の方がはるかに危険なものであり、甲状腺機能低下症よりコントロールが難しいのです。そのため、甲状腺機能低下症になることは完全な結果ではないかもしれませんが、甲状腺機能亢進症のままでいるよりもずっとましなのです。

[11]薬剤や放射性ヨード治療の他に治療法はありますか?
甲状腺の全部、あるいは一部を取ってしまう手術(甲状腺切除術として知られています)で、永久的に甲状腺機能亢進症が治ります。しかし、手術を行う前にいくつかのことをしておく必要があります。
  1. まず、後で述べる抗甲状腺剤やベータ・ブロッカーで甲状腺機能亢進症のコン トロールがなされていなければ、手術が危険な場合があります。したがって、プロピルチオウラシルまたはタパゾール<注釈:日本ではメルカゾール>のどちらかを飲んで、甲状腺ホルモンのレベルを下げるようにします。約6週間で正常な ホルモンのレベルになるはずです。
  2. 手術の数日前に非放射性ヨード(ルゴールのヨードか過飽和ヨードカリのどちらか)も飲むようになることがよくあります。これは甲状腺への血流を減らす 効果があり、手術をより安全に行いやすくするものです。
手術の目的は、必要なだけの甲状腺を取り除き、甲状腺ホルモンの産生を正常に戻すことです。医学では多くのことがそうであるように、甲状腺をどの程度とるかを定めるのには、科学的な部分と技術的な部分があります。取り過ぎると患者が甲状腺機能低下症になる可能性があります。

また他にも手術が原因で起こることがある合併症があります。その一つは声帯麻痺です。もう一つは、誤って副甲状腺を取ってしまうことです。副甲状腺は頚部の甲状腺の後ろにあり、体のカルシウムの量を制御しているため、これを取ってしまうとカルシウムのレベルが低くなってしまいます。

今では、手術は次のような特別なケースのためのものとなっています。
  • 抗甲状腺剤に耐性のない妊娠中の女性
  • RAIは使いたくないが、永久に治るような治療を望んでいる人

[12]手術の後どのようになりますか?
甲状腺が十分に取り除かれたとすれば、甲状腺機能亢進症は永久に治ってしまいます。しかし、甲状腺機能低下症になるかならないかは、ここでもまた手術の後でどの程度甲状腺組織が残っているかによります。甲状腺機能低下症になる可能性の方が高いので、甲状腺機能亢進症になり、先に述べたような方法で治療を受けた人は、最低年1回の血液検査を受け、甲状腺の機能を調べるようにしなくてはなりません。もちろんこれらの検査には血液中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の量を調べる検査も入っています。甲状腺の機能が低い場合、脳下垂体が作るTSHの量が増えます。したがって、血液中のTSHレベルが高いということが、甲状腺機能低下症のいちばんよい指標となります。

[13]薬や手術、放射性ヨード治療のどれも受けたくないのですが、他に方法がありますか?
残念ながら、一般的に体の治癒力を助ける他の手段をとることもできるのですが、どのような形のものであっても甲状腺機能亢進症は自然に治ることはありません(例外は甲状腺炎で、これはひとりでに治ります)。しかし、お考えのように食餌を改善したり、運動を増やしたり、またストレスを減らすことで、治療が必要となる様々な感染症だけでなく、これらの甲状腺の病気と体が闘いやすくなりますが、それでも先に述べた治療のどれかが、甲状腺機能亢進症の問題を解決するために必要となります。

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