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髄様癌:3番目に多い甲状腺癌

このページは特定のタイプの甲状腺癌について、さらに詳しい情報を述べたものです。

さらに理解しやすくなりますので、まず、甲状腺癌:概説を先に読むようにしてください。

髄様癌は全甲状腺癌の中で、3番目に多い癌です(約5から8%)。甲状腺ホルモン産生細胞から生じる乳頭癌や濾胞癌とは異なり、髄様癌は甲状腺の濾胞周縁細胞(C細胞とも呼ばれます)から生じてきます。これらのC細胞はカルシトニンと呼ばれる違う種類のホルモンを作ります(このためC細胞という名前が付いたのです)。このカルシトニンは甲状腺ホルモンが行うような代謝のコントロールには関与していません。後で述べますが、このホルモンの産生を術後に測定して、癌がまだ存在しているかどうか、またそれが発育を続けているかどうかを確かめることができます。この癌は“分化度の高い”甲状腺癌(乳頭癌と濾胞癌)に比べ、治癒率はずっと低くなっていますが、未分化細胞癌よりも高くなっています。全体的な10年生存率は、病変が甲状腺内にとどまっている場合は90%ですが、頚部リンパ節に広がったものでは70%、また離れた場所に転移があるものでは20%です。

髄様癌の特徴
  • その発生には4種類の臨床状況(以下参照)があり、他の内分泌腺腫瘍を伴っていることがある。
  • 男性より女性に多い(遺伝性の癌を除く)。
  • 局所転移(頚部リンパ節に広がること)が早くから生じる。
  • 離れた器官へ広がる(転移)のは後期に起こり、肝臓や骨、脳および副腎髄質に転移することがある。
  • 放射線被爆には関係がない。
  • 普通、甲状腺葉の上中央部から生じる。
  • 予後不良のファクターとしては、年齢が50歳以上、男性、遠隔転移、およびMEN2-Bがある。
  • 残存病変(術後)または再発は、カルシトニンの測定によって検知することができる。

髄様癌が発生する4種類の臨床状況
[1]散発性
全髄様癌のケースの80%を占めています。通常は片側性で、内分泌障害を伴いません。他の内分泌腺の病気を伴っておらず、発病のピークは40から60歳。3対2の比率で女性が男性を上回っています。3分の1に難治性下痢が存在します。下痢は腫瘍が分泌するホルモン(カルシトニン、プロスタグランジンまたはVIP)によって消化管の分泌液が増し、過剰運動が起きるために生じます。
[2]MEN 2-A(シップル症候群)
多発性内分泌腺新生物症候群(“MEN”と略され、エム、イー、エヌと発音します)は同じ患者に起こる1群の内分泌障害で、遺伝するため家族内に見つかるのが普通です。“症候群”とは3つのグループに起こる医学的疾患のことです。シップル症候群には、1]両側性髄様癌またはC細胞の過形成、]]褐色細胞腫、そして、3]副甲状腺機能亢進症があります。この症候群は遺伝性で、内分泌腺の正常な発育のコントロールを助ける遺伝子(DNA)の欠陥によるものです。この遺伝性の症候群はこの遺伝子を貰った子供すべてに伝わり(常染色体優性として遺伝します)、理論的にはこの欠陥遺伝子を持った人の子供の50%にこの遺伝子が受け継がれることになります。したがって、男性と女性は同じように冒され、これらの患者の髄様癌発生のピークは30歳代です。
[3]MEN 2-B
この症候群にも、1]髄様癌と、2]褐色細胞腫がありますが、副甲状腺機能亢進症はめったに起こりません。その代わり、これらの患者は[3]粘膜神経節細胞腫(口腔内の腫瘍)とマルファン様体型で特徴づけられる異常な外見をしています。遺伝はMEN 2-Aと同じ常染色体優性遺伝ですが、散発性に起こることもあります(遺伝せずに) 。MEN 2-Bの患者は、通常30代で髄様癌が生じ、男性と女性は同じように冒されます。MEN 2-Aの場合と同様に、手術に先立ち、まず褐色細胞腫を検知しなければなりません。これは、甲状腺または副甲状腺の手術中に重篤な高血圧の症状が発現するリスクを除くため、まず最初に褐色細胞腫を除去しておくということです。
[4]内分泌腺異常を伴わない遺伝性髄様癌
この形の髄様癌はもっとも悪性度が低く、他のタイプの甲状腺癌と同様に、発生のピークは40〜50歳です。

髄様癌が発生する4種類の臨床状況
手がけた手術では反回神経の損傷や永久的な副甲状腺機能低下症の発生率がきわめて低い(約2%)ことを示すでは見られません。
これらの研究や先に述べた濾胞癌の自然経過や疫学に基づいた、代表的な治療計画は以下の通りです。放射線被爆歴がない若い患者(<40歳)で、限局的かつ孤立している、1cm以下の濾胞癌は、片側甲状腺葉切除と峡部切除により治療できる場合があります。それ以外のものはすべて、おそらく甲状腺全摘を行い、頚部中央部および側方部の肥大したリンパ節を全部取り除くことにより治療されることになります。手術の選択肢にもっと詳しく述べております。

濾胞癌の治療
.乳頭癌や濾胞癌とは対照的に、髄様癌の管理についてはほとんど異論がありません。内分泌病専門医による付随内分泌腺疾患(褐色細胞腫のようなものがあれば)の評価と治療の後で、患者はすべて甲状腺全摘と頚部中央部の徹底的な郭清(首の中央部のリンパ節と脂肪組織をすべて取り除くこと)を受け、および腫瘍がある側の頚部のリンパ節と脂肪組織をすべて取り除く必要があります。手術の選択肢にもっと詳しいことが載っています。

術後の放射性ヨード治療の使用
甲状腺細胞はヨードを吸収する細胞メカニズムを持っていますが(乳頭癌の頁参照)、髄様癌はこのタイプの細胞から発生するものではありません。したがって、放射性ヨードによる治療は髄様癌に対しては効果がありません。同様に、髄様癌が離れた場所に転移しても、乳頭癌や濾胞癌の遠隔転移の際に行うように、ヨードスキャンニングで発見することはできません<注釈:髄様癌に取り込まれるMIBGという物質に放射性ヨードを付加して投与して、治療効果があることが、最近分かってきています>。

どのような長期的フォローアップが必要ですか?
通常の癌のフォローアップに加え、毎年胸部レントゲン写真の撮影とカルシトニンレベルの検査を受ける必要があります。血清カルシトニンは、体の他の細胞でこのホルモンを作るものがないため、髄様癌のフォローアップには非常に役に立ちます。甲状腺全摘後には低かった血清カルシトニンレベルが高くなっていれば、再発が疑われます。いちばんうまく行った場合、手術で甲状腺と転移腫瘍のある側の頚部リンパ節はすべて取り除かれます。この場合、術後のカルシトニンレベルはゼロになります。しかし、こういうことはめったになく、カルシトニンレベルは上がったままですが、それでも術前より低くなります。このレベルは6ヶ月毎にチェックするようにし、上がりはじ めたらその源を見つけるため、もっと念入りな検査を行わなければなりません。

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