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脱毛と甲状腺疾患

毛髪細胞は体の中でもっとも成長の早い細胞の中に入るため、毛髪は健康のバロメーターと考えることができます。体が危機に陥った時、毛髪細胞は他の場所にエネルギーを振り向けるため、成長を止めることがあります。脱毛を起こすような状況には、ホルモンの変化や貧弱な食餌および栄養不良、様々な薬、手術、そして多くの医学的疾患が含まれますが、その中でも甲状腺疾患が目立って多いのです。

多くの人が、甲状腺機能亢進症または甲状腺機能低下症の症状として、急速に毛髪が抜けていくのに気付きます。甲状腺の病気の症状の中でこれが最悪だと実際に言う人もおります。髪がだんだん薄くなり、シャワールームやシンクの中に大量の脱毛が落ち、またぱさぱさして、荒くなり、もつれやすくなるなどの毛髪の質の変化を伴うことも多いのです。面白いことに、甲状腺の病気を最初に“診断”したのは、変化に気付いた行きつけの美容師だと実際に書いてくれた人がいるということです。

脱毛に対処するためには、まず甲状腺の問題を疑う前に、感染などの他の原因を除外するために、かならず皮膚科専門医に脱毛の診査を行なってもらうようにしてください。

脱毛があって、甲状腺機能亢進症または機能低下症の治療を始めたばかりであれば、ほとんどの人でおそらく脱毛は次第におさまり、ホルモンレベルが正常範囲内で安定すれば最終的に止まってしまいます。しかし、これには数ヶ月かかることがあります。でも、残りの人も安心してください。何千人もの人からEメールをいただきましたが、甲状腺の病気が原因で、毛髪がすべて抜けてしまってはげになったというようなことは誰からも聞いておりません。それでも、皆−私も含めてですが−相当な量の脱毛を経験しております。私の場合、たぶん半分近くの毛が抜けてしまったと思います。前は、長くて濃い髪だったのですが、だんだんと薄くなってきました。

脱毛のタイプ
脱毛には主に3つのタイプがあります。
  1. 一般的な髪の抜けかたは、普通頭全体の髪が抜けることです。排水口やシャワールーム、ヘアーブラシにたくさん抜けた毛のかたまりがあるのに気付くことが多く、またブラシをかける時にも毛がたくさん抜けますが、特別に毛が薄くなったところはなく、はげにもなりません。普通、このようなタイプの脱毛は甲状腺機能亢進症または甲状腺機能低下症の治療を行う前にいちばん多く見られます。時に、一部の人で甲状腺機能低下症の治療を行った後にもこのような脱毛が続くことがあり、後で述べますが、特にシントロイドを飲んでいる時によく起こります。

  2. 2番目のタイプの脱毛は、真菌類の感染、あるいは自己免疫性の脱毛症に伴って起こることが多く、円形の部分的な脱毛があり、一部のケースではこれらの小さな脱毛部の毛が完全になくなってしまいます。この種の脱毛は、皮膚科専門医に診査をしてもらう必要があり、甲状腺疾患とは特に関係ありません。

  3. 3番目のタイプの脱毛は、男性型の脱毛です。-男性の方が罹りやすいのですが、女性にも起こることがあります。男性型の脱毛は、主に側頭部と頭頂部に集中して起こります。これは、酵素が頭皮にあるホルモンのテストステロンをもっと利用しにくい形のジヒドロテストステロンに転換を始めることによって起こるものです。このために、毛嚢が小さくなり、やがて消えてしまいます。このテストステロンからジヒドロテストステロンへの転換は、甲状腺機能亢進症または甲状腺機能低下症の治療を受けた患者でスピードアップされるようで、これがおそらく治療をしても脱毛が続く原因ではないかと思われます。
毛髪はどのように成長するのでしょうか?
正常な場合、毛髪は約3年間、毎月約1.2cm程伸び、その後休止期に入ります。常に10分の1の毛髪が休止期にあり、約3ヶ月後に新しい毛髪が生えてきて、古い毛髪は押し出されて抜けます。休止期に入る毛髪の数が増えるか、生え変わりのスピードが速くなった場合、バランスが崩れ、脱毛が起こります。毛髪の成長についてもっと詳しくお知りになりたければ、Richard De Villez博士著 毛髪の成長と脱毛をご覧ください<注釈:リンク先が英語で申し訳ありません>。

甲状腺疾患に関連した脱毛への対処法
まず、あなたが甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモン剤のレボサイロキシン(すなわち、シントロイド)<注釈;日本ではチラージンS>を飲んでおり、まだ脱毛が続いている場合、何らかの処置が必要です。一部の人にはシントロイドの副作用で脱毛が長引いたり、あるいは過度の脱毛が起こります。シントロイドを服用している患者の副作用のことは文献に載っているにもかかわらず、医師の多くはこの事を知りません。したがってあなたがかかっている医師がこの事を知らなくても驚くようなことではありません<注釈:日本のチラージンSの副作用情報には脱毛は書いていません。同じ甲状腺ホルモン剤なのに不思議です。ただ、主成分は同じでも、シントロイドには他に何か違う成分が含まれている可能性はあります>。シントロイドに伴う脱毛に関する私自身の経験について、もっと詳しい情報をお伝えすることができますのでそれをお読みください。

脱毛は、また治療中であるという理由でも起こることがあります。... TSHの値が正しくないとか、自分に合った薬を飲んでいないためではありません。私がかかっている先生は、1〜2くらいのTSHがほとんどの人がいちばん気分よく感じる最適レベルであり、脱毛のような甲状腺機能亢進症または甲状腺機能低下症の症状を避けることができると信じています(ただし、このレベルは癌患者では癌の再発を予防するため、もっと低く保たれます)。これは最近、研究者が2mU/L以上のTSH値は異常なレベルである可能性があると報告するまで、隠れた情報でした。
この医学論文については、British Medical Journal(イギリス医学雑誌)をご覧ください<注釈:リンク先が英語で申し訳ありません。しかし、これはそのうち日本語訳で公開します>。治療中の甲状腺機能低下症をもっとよく理解するために、「助けて!TSHは“正常”なのに、まだ甲状腺機能低下症みたいなんです」をお読みになるとよいかもしれません。これは次のステップ-主治医との“正常”範囲の定め方、抗体検査、TSH検査、そしてT4療法を超える薬を含みます-を考え、手を貸してくれる医師をどこで見付けるかについて書かれたものです。

私自身もT4/T3薬を飲んだ方が純粋な合成T4(シントロイドのような)だけよりも気分がよくなり、脱毛も少なかった患者の1人です。私はサイローラーを飲んでいますが、シントロイドよりはるかによく効きます。他の人は、天然の甲状腺ホルモン剤であるアーモールでうまくいっています。多くの患者がT4単剤(シントロイド)ではなく、T4とT3の合剤を飲んだ方が気分がよくなるという研究報告が1999年2月11日のNew England Journal of Medicine(ニューイングランド医学雑誌)に発表されたばかりです<注釈:この論文についてはわたしのHPの中で紹介されていますので、参考にしてください>。T3を加えることで、うつ状態や頭がぼんやりする、疲労その他の症状の緩和に効果があります。このT3についての情報はまったく新しいものであり、現在の甲状腺ホルモン療法では気分がよくならない人達にとっては大きな意味を持つものです。脱毛とその回復はこの研究で調べたよりも長い時間枠で起こるもので、T3を加えることにより、それにもプラスの影響が出たとしても驚くにはあたらないでしょう。私個人に関しては、そのことが間違いなく証明されました。もっと情報が欲しい方は、この詳しい記事をご覧ください。

TSHの低い方の正常値で、T4/T3の合剤を飲んでいるにもかかわらず、私は最近急に脱毛がひどくなった時期がありますが、新しく出版する本のためにインタビューをした医師からアドバイスを受けました。この本のタイトルは「甲状腺機能低下症とうまく付き合う方法:医師が言わないことで、知っておく必要があること」というもので、Avon/Heart社の総合健康部門から1999年の末頃に出る予定です。
ここにその本の抜粋を挙げます。
…メマツヨイグサ油(EPOとしても知られています)はよく聞く栄養補助食品です。Stephen Langer, M.D. 著『病気のなぞとき』の中で必須脂肪酸欠乏症の症状が甲状腺機能低下症の症状と同じであることが指摘されており、博士は優れた必須脂肪酸源であるメマツヨイグサ油を甲状腺機能低下症の人に効果があるとして勧めております。メマツヨイグサ油の効果、特に甲状腺機能低下症に伴うひどい脱毛に対する効果は、内分泌病専門医であるKenneth Blanchard博士によっても裏付けられております。Blanchard博士によれば…
脱毛に対して、総合ビタミン剤と、特にメマツヨイグサ油をかならず勧めるようにしています。脱毛に性別に関係したパターンがある場合(女性に部分的な男性型の脱毛をみる場合などですが)、このような問題には毛嚢のところでテストステロンからジハイドロテストステロンへの過剰転換があります。メマツヨイグサ油にはこの転換を妨げる働きがあります。したがって、おそらく脱毛があるほとんどすべての人にメマツヨイグサ油は効果があると思われます。

甲状腺機能低下症になってから、何度かひどい脱毛が起こったことのある者として、私はEPOを飲むことが脱毛を抑える唯一の手段であると断言できます。それで私の脱毛がおさまり、2ヶ月ほどで完全に止まっただけでなく、新しく髪の毛が生えてきて、その毛は前のようにわらみたいに乾燥してもおらず、簡単にもつれることもありませんでした。

最近の研究では、Portmouth大学教授であるHugh Ruston博士も髪が薄くなっている女性の90%に鉄とアミノ酸の一つであるリジンの欠乏があることを見出しております。リジンは食餌から十分に摂取することがもっとも難しいアミノ酸です。
リジンは、体の中でもっとも重要な元素であり、多くの代謝プロセスに欠かせない鉄を運ぶ手助けをします。リジンと鉄のレベルが低ければ、おそらく体は他のところのエネルギーレベルを上げるために毛嚢の一部の活動を止めてしまうのではないかと思われます。肉や魚、卵はリジン源となる唯一の食べ物ですが、リジンを含んだ栄養剤もあります。

また、頭皮への注射やロゲイン(ミノキシディール)やプロペチアを含む薬剤治療や、甲状腺とは無関係の脱毛に効果のある他の治療に関して相談にのってくれる皮膚科専門医の診察を受けることもできます。脱毛治療を専門にしている医師を捜すには、アメリカ脱毛協議会をお訪ねになるとよいでしょう。

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