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カウナス医科大学病院内分泌科(カウナス、リトアニア)で診療を受けている慢性甲状腺炎もしくは甲状腺癌で甲状腺全摘術後の患者で、甲状腺の働きがほとんどないために甲状腺ホルモン療法を受けている人を対象とした。慢性甲状腺炎患者は、甲状腺ホルモン補充療法(TSHを正常にする治療)であり、甲状腺全摘術後の患者は甲状腺ホルモン剤によるTSH抑制療法である。甲状腺以外の重篤な疾患を持っている患者は除外した。
33人の患者がこの研究に同意を得てくれた。そして33人(女性31人、男性2人:平均年齢46歳【表1】)が最後まで研究に協力できた。内訳は16人が慢性甲状腺炎患者で、17人が甲状腺癌の甲状腺全摘術後患者である。サイロキシン(T4)の一日平均投与量は175±53マイクログラム(100〜300マイクログラム)である。平均投与期間は73±72ヶ月である。すべての患者で、少なくとも3ヶ月間は甲状腺ホルモンの投与量は変わっていない。うつ病に対するHamiltonスケール(21項目のもの)の平均スコアーは9.8±5.4であった。スコアーは0(うつ病なし)から69(最高の症状)までである(4)。4人の女性が大うつ病を持っていた。うつ病の診断は標準の診断基準(5,6)で診断した。一人は妊娠したために、もう一人は不安症のために途中で、研究から除外した。この研究はカウナス大学病院の倫理委員会から承認され、患者からもインフォームドコンセントを得て、行われた。 |
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患者は研究開始日までは、いつもの量のサイロキシンを服用してもらった。それぞれの患者には、研究の内容を読んでもらって、同意を得た。すなわち、無作為的に、最初の5週間はサイロキシン単独を服用し、その後5週間はサイロキシンとトリヨードサイロニンの併用をするか、最初の5週間はサイロキシンとトリヨードサイロニンの併用を、その後5週間はサイロキシン単独を服用するかに振り分けた。サイロキシン(Berlin-Chemie、ベルリン、ドイツ)は50マイクログラムの錠剤を使用した。そのうちのサイロキシン50マイクログラム錠の一つはカプセルに替えた。このカプセルには50マイクログラムのサイロキシンか、12.5マイクログラムのトリヨードサイロニンが含まれている。この調剤は薬剤師が行い、2つのカプセルは区別がつかないように外見は同じにした。例えば、一日サイロキシン200マイクログラムを服用している場合には、普通のサイロキシン50マイクログラム錠を3錠と1カプセルを飲むことになる。サイロキシン単独では、カプセルはサイロキシン50マイクログラムであり、サイロキシンとトリヨードサイロニンの併用では、カプセルはトリヨードサイロニン12.5マイクログラムである。クスリの服用は一日一回で、朝食30分前にしてもらった。
5週間後、研究の終了時に患者はまた5週間分の錠剤とカプセルをもらう。薬剤師だけがカプセルの内容を知ってて、医師も患者もカプセルの内容は分からない。 |
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患者は各5週間の治療後に検査を受ける。朝食抜きで2時間前に甲状腺ホルモン剤を服用して、午前9時に来てもらう。採血にて、TSH、甲状腺ホルモン、コレステロール、中性脂肪、性ホルモン結合グロブリン(7)を測定した。生理学的試験が行われた。結果は認知能力と精神状態から評価された。患者を検査する場合には、その患者においては全ての検査を同じ医師が行った。それぞれの医師は、その患者がどちらのカプセルを飲んでいるのかは知らされていない。 |
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血清は冷凍保存され、同時に測定した。以下の細かい部分は省略する。興味のある人はオリジナルを参照して欲しい。 |
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[心血管系] |
脈拍数は5分間安静臥床後に測定した。血圧は座位にて測定した。心電図は各治療後に取ったが、正常であった。 |
[末梢神経系] |
感覚試験は振動覚にて評価した。手と足のクスリ指の先端にセンサーをつけて測定した。アキレス腱反射は電気学的神経筋測定器(9)にて測定した。 |
[精神神経学的検査] |
精神神経学的検査の結果の評価はDSM-III-R(5)により行った。非精神疾患の評価(リトアニア版)(6)としてDSM-III-Rの臨床面談に従って、症状は記録した。 |
認知能力はスタンダードの方法で行った。Digit Symbol Test(10)、Digit
Span Test of the Wechsler Adult Intelligence Scale(10)、Visual
Scanning Test(11)である。Digit Symbol Testでは、意味のない記号をもつ1から9までの鍵が一対用意される。一対の立方体を下に並べて置く。上の面に番号が打ってあり、下の面には何も書いていない。鍵が正しければ、90秒以内に同じ番号の立方体にそれに相当する記号を記入して検査は終了する。スコアーは90秒以内に完了した立方体の数か3列目の完了までにおわったもので計算した。スコアーは精神運動能力を表す。鍵が正しくなければ、数字に合った記号を再確認させる。再確認させた記号の数は、二次的な学習の測定になる。それから、70の記号を紙に写させる。検査の完了時間が短ければ、精神運動能力が優れていることになる。
Digit Span Testの最初の試験は、指の数を増やしながら数えた数を繰り返してもらう。これは聞き取り能力をみるものである。2番目の試験は、数を反対から言ってもらう。これは、知能の柔軟性をみるものである。
Visual Scanning Testは注意力散漫と視覚集中力を評価する。目的とする記号を示して、60の記号を書いてある紙を渡して、目的の記号に丸をつけてもらう。試験を完了できた時間、脱落、間違いをスコアー化した。
うつ病に対するHamiltonスケール(21項目のもの)(4)は、うつ状態の評価に使用した。臨床的に問題になるうつ病はスコアーが20以上である。患者は3つのスケールをこなす。Beckの調査票(12)、Spielbergerの不安気質調査票(13)、気分状態の調査票(14)である。Beckの調査票は自分でスコアーを付ける。10以下の場合は、感情は落ち着いていると判断する。スコアーが10以上の場合は、うつ状態と判断する。Spielbergerの不安気質調査票も自分で20項目からなるスコアーを付けてもらう。スコアーが50以下の場合は、正常である。気分状態の調査票は感情の状態を評価するものである。スコアーを0〜4までに分けて、65項目についてスコアーをつけてもらう。それぞれの項目のスコアーを足して6つの感情状態のカテゴリーに分類する。そして、全体としてのスコアーを出す。15の見た目に類似したものを用意して、感情や身体症状のより詳しいランク付けをする。各々のスケールは、例えば「できる限り悲しく」とか「できる限り楽しく」などの一対の文句から成り立つ。患者は、そのときの自分の感情の状態に合ったものに、10cmの線の中にマークを付ける。線の始まりからマークまでがスコアーになる。検査終了時に、患者はどちらの治療がより快適であったかを質問される。 |
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paired t testおよびnon-paired t testを用いた。他の細かい点についてはオリジナルを参照してください。 |