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[009]2002年11月1日
[009]
妊婦のヨード過剰摂取による一過性先天性甲状腺機能低下症について
田尻クリニック / 田尻淳一
平成13年10月3日〜10月5日に開かれた第35回日本小児内分泌学会で、熊本大学医学部小児科のグループが「妊婦のヨード過剰摂取による一過性クレチン症の検討」というタイトルの研究発表を行った。「10名の一過性クレチン症(一過性先天性甲状腺機能低下症)のうち、3名の妊婦は1日平均3mg以上のヨードを摂取していた。妊娠中のヨード摂取量と新生児の血中ヨードの間に強い正の相関が認められた。また、新生児の血中ヨードと血中TSHおよびフリーT4の間にも強い正と負の相関が認められた。ちなみに妊婦のヨード摂取源は昆布類が約40%、インスタント昆布だしが約30%、外食うどん類が約15%、インスタント食品が約15%であった」と述べている。

また、かれらは「最近の日本では昆布類、インスタント昆布だし、外食うどん、インスタント食品から5〜8mgの多量のヨードを摂取していることが分かった。妊婦が多量のヨードを摂取した場合、胎児が一過性甲状腺機能低下症に陥ることもあり得る」と結んでいる。

この研究で重要なことは、妊婦が健康食品として昆布などを多量に摂取した場合に、新生児が一過性クレチン症になる可能性を示したことである。ヨードは必要な成分であり、極端に控えることはないが、過剰に取りすぎないようにした方がよいと思われる。具体的には、一日3mg以上のヨードを摂取しないように気を付けることである。東京・伊藤病院のHPにヨード制限食お勧めヨード制限食ヨードを含む薬剤について詳しく載っています。参考にしてください。

昆布類インスタント昆布だしインスタント食品・外食うどんなどのヨード含有量をお示しします。参考にしてください。尚、この測定値は熊本大学医学部小児科・西山宗六先生の許可を得て公開しました。
. Dr.Tajiri's comment . .
. ヨード過剰摂取による一過性クレチン症(一過性先天性甲状腺機能低下症)は、妊娠中にヨードを過剰に取らないことで防ぐことができます。それによって生後4日目に行う新生児スクリーニングにも引っかからなくなると思います。そうすれば、赤ちゃんも無駄な検査をしないで済むと思うのです。新生児の採血は難しいのです。小児科の先生でさえ、苦労します。一番、辛いのは赤ちゃんでしょう。そして、親御さんでしょう。このようなことにならないためにも、妊婦のみなさんに正しい情報を知って欲しかったわけです。

『一過性』というのは一時的という意味です。すなわち、自然に甲状腺の働きは正常に戻ります。場合によっては一時的に甲状腺ホルモンを飲むことはあるかもしれませんが、そのうち甲状腺ホルモン剤の服用も中止できます。ここが、クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)と違う点です。子供さんには知能障害など出ませんから、安心してください。産後に気を付けていただきたいことは、ヨードは乳汁中に出ますから授乳中もヨードを過剰に摂らないことです。これはあくまでも、ヨード過剰摂取による一過性クレチン症(一過性先天性甲状腺機能低下症)のお子さんを出産された母親の場合のみです。それ以外のお母さん方はヨードの摂取は普通にされても問題ありません。

同じ量のヨードを妊娠中に摂取しても、ほとんどの新生児は甲状腺機能は正常で生まれてきます。ヨード過剰摂取による一過性クレチン症を起こしてくるお子さんの甲状腺では、ヨードが甲状腺ホルモンを作る過程を邪魔している可能性があります。このことについては、今後の研究が必要でしょう。ただ、現在、分かっていることは、ヨード過剰摂取による一過性クレチン症(一過性先天性甲状腺機能低下症)は、1]妊娠中にヨードを過剰に摂らないことで予防が可能なこと、2]産後に母親がヨードを制限することで母乳からヨードが過剰に入らないため甲状腺機能は正常に戻ること、3]知能障害は起こらないことです。
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