Murrayらは英国医学雑誌(British Medical Journal [BMJ])にて、「甲状腺ホルモン補充療法を開始後の症状悪化」について発表している(BMJ
323: 332-333, 2001 [11 August])。Murray は医学生であり、指導教官との共著である。学生でも、患者さんをしっかり診ていれば論文が書けるのである。
彼らは、冒頭で「潜在性甲状腺機能低下症の患者に甲状腺ホルモン剤の治療を始めても、症状が改善しない場合がある。甲状腺ホルモン補充療法を開始後の症状悪化は、隠れた重大な病気によるものかもしれない」と述べています。
2例の患者さんの報告をしている。
■1例目:
26歳、女性。インスリン依存性糖尿病で治療中に甲状腺機能低下症と診断され(TSH=37.3mU/L[正常0.5〜5.7mU/L],
フリーT4=12.7pmol/L[正常9〜22pmol/L])、サイロキシン<注釈:日本ではチラージンS>0.025mg/日の治療を開始。サイロキシン治療を開始したら、具合が悪くなったために内分泌医に紹介され、副腎皮質機能低下症(アジソン病)と診断された。副腎皮質ホルモン剤の投与で見違えるように元気になった。4週間後から甲状腺ホルモン剤を服用したが、今回は問題は起こらなかった。 |
■2例目:
251歳、女性。寒がり、体重増加、便秘を主訴として来院。医師は甲状腺機能低下症と診断し(このときの甲状腺機能検査の結果は不明)、サイロキシン0.05mg/日の治療を開始。数週間後、甲状腺機能が正常化しないために(TSH=6.59mU/L[正常0.5〜5.7mU/L],
フリーT4=16pmol/L[正常9〜22pmol/L])、サイロキシン0.1mg/日に増量された。その後、症状が悪化したために、内分泌医に紹介された。副腎皮質機能低下症(アジソン病)と診断され、副腎皮質ホルモン剤の投与を始めると元気になった。甲状腺ホルモン剤は続けて服用した。6週間後、甲状腺ホルモン剤を服用中にもかかわらず、血中TSHは8.1mU/Lと高値であったので、甲状腺機能低下症も合併していると判断し、甲状腺ホルモン剤はそのまま続けた。 |
彼らは、「甲状腺機能低下症はよく遭遇する疾患であるが、アジソン病は100万人に60人という稀な疾患である。甲状腺機能低下症と副腎皮質機能低下症の合併は下垂体機能低下症でもみられる。この場合には、フリーT4は低値、TSHは正常または低値を示すので、下垂体機能低下症を疑う。しかし、副腎皮質機能低下症になると、TSHが少し高値を示す。このようなことを考慮すると、甲状腺機能低下症と副腎皮質機能低下症の合併は想像するよりは、多いと考えられる」と述べている。
また、「TSHが高い患者を全員、アジソン病のスクリーニング検査をする必要はない。アジソン病は、皮膚や粘膜の色素沈着、起立性低血圧、体重減少、高カリウム血症、低ナトリウム血症などの特徴的な症状を示すので、診断しやすいからだ」と述べている。「甲状腺ホルモン剤の治療を開始して、具合が悪くなったときにはアジソン病を除外することは重要なことである」と結んでいる。 |