メイヨークリニックのGormanらのグループは、Ophthalmology(108; 1523-1534, 2001)とThyroid(12;
251-255, 2002)に甲状腺眼症の治療として球後照射を評価するために、前向き無作為2重盲験研究を行い報告している。眼症の症状が軽度〜中等度の症例(42名;女36名、男6名、平均年齢48歳)を対象としている。症状としては、眼痛、流涙、まぶしさ、物がゆがんで見えるなどである。そして次の症状のうち少なくとも3つがあること;結膜浮腫、眼瞼後退(まぶたがめくれ上がること)、鋭い眼光、20mm以上の眼球突出、眼球運動の制限あり。全ての患者で、眼窩CTにて外眼筋の肥厚がみられた。眼症の罹病期間は平均1.3年(0.2〜16年)であった。視神経症のある例や過去2週間以内に副腎皮質ホルモン剤を使用した例は除外した。19例では、以前に副腎皮質ホルモン剤を使用していた。ほとんどの患者は甲状腺機能亢進症の時期があったが、この研究を始めたときには、全員が甲状腺機能は正常であった。研究前、研究中もすべての患者で甲状腺刺激抗体(TSAb)は陽性であった。21名が喫煙者であった。
患者には無作為に選んだ片眼に一回2Gy、10回計20Gyを照射し、もう一方の眼には照射するが、実際には放射線ではないことの承諾を得た。照射の方向は、対側眼の照射量が2Gyを越さないように決めた。放射線照射しない眼では、同じやり方で照射したが、放射線源を遮断していた。6ヶ月後に最初に放射線照射しなかった眼に照射し、対側の眼には実際には放射線照射しなかった。
患者は治療前、3、6、9、12ヶ月後に診察を受けた:CTによる外眼筋と眼窩脂肪の体積や眼球突出度の測定。視野測定、複視検査、視力、色覚検査は放射線照射を受けたことを知らない検査技師によって行われた。2人が研究から脱落した。
放射線照射をした眼と放射線照射をしない眼を3ヶ月、6ヶ月後に比較したが、外眼筋や眼窩脂肪の体積、眼球突出度、複視、眼裂の広さなどにおいて差がみられなかった。例えば、放射線照射をしなかった外眼筋と眼窩脂肪の体積は、治療前22.8ml、6ヶ月後22.7mlと不変であった。放射線照射をした外眼筋と眼窩脂肪の体積も同様に、治療前23.3ml、6ヶ月後23.0mlと不変であった。放射線照射をしなかった群の眼球突出度は、治療前21.3mm、6ヶ月後21.3mmと不変であった。放射線照射をした群の眼球突出度も同様に、治療前21.8mm、6ヶ月後21.7mmと不変であった。甲状腺眼症の罹病期間(1.3年未満対1.3年以上)、以前の副腎皮質ホルモン剤治療の有無、喫煙、眼症症状の程度などについて分析したが、やはり放射線照射をした眼と放射線照射をしない眼の間には差はみられなかった。
12ヶ月後、治療を最初にした眼と2回目に治療した眼の外眼筋と眼窩脂肪の体積はともに22.9mlであり、眼球突出度は治療を最初にした眼では21.3mm、2回目に治療した眼では21.4mmであった。他の検査においても、最初にした眼と2回目に治療した眼の間には差はみられなかった。
結論として、彼らは球後照射は甲状腺眼症に対して無効であると結んでいる。 |