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機能性甲状腺結節に対する外来での放射性ヨード治療
田尻淳一 田尻クリニック 熊本

機能性甲状腺結節とは、甲状腺のシコリが甲状腺ホルモンを過剰に産生することによって甲状腺機能亢進症を起こしてくる病気です。この病気は欧米、特にヨーロッパで多いのが特徴です。ヨード摂取が少ない国で多い傾向にあります。しかし、他の甲状腺の病気と同様、原因は不明です。シコリが1つのときは腺腫によるものでプランマー病と言われます。シコリが2つ以上のときは腺腫様甲状腺腫(中毒性多結節性甲状腺腫)によるものです。基本的には「がん」ではありませんので、心配ありません。甲状腺ホルモンが高くなる病気といえば、日本ではバセドウ病をすぐ思い浮かべますが、ヨーロッパではバセドウ病より機能性甲状腺結節による甲状腺機能亢進症が多いのです。所変われば、品変わるとはよく言ったものです。従来、日本では機能性甲状腺結節に対して手術をしてきました。諸外国の報告から、機能性甲状腺結節に対してはアイソトープ治療(放射性ヨード治療)でも手術と同じ治療成績であることは分かっています。入院もしなくて、首に傷も残さないで治せる治療法として、今後、日本でも普及していくことを望みます。平成11年7月から16例に対して、外来で放射性ヨード治療を行い、良好な治療成績を得ていますので、ご紹介します。

対象および方法
平成11年7月から平成13年5月までに当院を訪れた機能性甲状腺結節患者16例を対象としました。甲状腺機能検査は【表1】の如くで、全例血清TSHが抑制されていました。画像診断は15例で99m-Tcシンチ、1例で123-Iシンチにて行いました。超音波を行い、単発性結節か多発性結節かを確認した。一部の症例では、甲状機能が正常になって、穿刺吸引細胞診を行い、すべて良性でした。

内訳は単発性機能結節(STN: single toxic thyroid nodule)11例と中毒性多結節性甲状腺腫(TMNG: toxic multinodular goiter)5例です。放射性ヨードは検定日最高量の13.3mCiを投与しました。血清TSHが正常値になるまで3〜4ヶ月間隔で投与しました。詳細は以下に記します。
単発性機能結節(STN)
  1. 対象11例
  2. 男:女=1:10
  3. 年令67.4歳(46〜92歳)
  4. 以前の治療6例でメルカゾール使用
  5. 治療回数1.7回(1〜4回)
  6. 総投与量26.6mCi(13〜55.2mCi)
中毒性多結節性甲状腺腫(TMNG)
  1. 対象5例
  2. 男:女=1:4
  3. 年令59.4歳(38〜82歳)
  4. 以前の治療3例でメルカゾール使用
  5. 治療回数2.8回(1〜6回)
  6. 総投与量43.0mCi(15.5〜95.5mCi)

結 果
治療結果のサマリーは【表1】に、各症例の詳細は【表2】に示した如くです。全例で甲状腺機能は改善され、結節の重量も縮小しました。単発性機能結節(STN)7例で、アイソトープ治療前後で99m-Tcシンチの比較ができました。アイソトープ治療後にホット結節が消失したのは2例のみでした【図1】。残り5例では、アイソトープ治療後にもホット結節がみられました【図2】。アイソトープ治療前にメルカゾールを使用した症例でアイソトープ治療後にもホット結節がみられる傾向がみられました。

考 察
欧米では、単発性機能結節(STN)中毒性多結節性甲状腺腫(TMNG)の治療法としてはアイソトープ治療がファーストチョイスになってきています。日本では、いまだに手術が主体です。バセドウ病と比べると、多めの131-I投与量が必要で、入院しなくてはならないため、普及しないのかもしれません。唯一の被爆国であるという特殊な事情もあるかもしれません。しかし、今回のわたしが経験した症例でも分かるように、これらの疾患はバセドウ病に比べると平均年齢が高い傾向にあります。高齢者は手術よりアイソトープ治療の方が安全であると思います。諸外国の成績をみても、単発性機能結節(STN)や中毒性多結節性甲状腺腫(TMNG)に対して手術もアイソトープ治療も治療成績は変わりありません。

今回、わたしは外来で131-I投与量を分割投与しました。治療間隔は3〜4ヶ月で、血清TSHの抑制がなくなるまで投与しました。1回投与で治った症例もあれば、6回投与を要した症例もあります。しかし、すべての症例で甲状腺機能亢進症は是正され、腫瘍サイズの縮小もみられました。このやり方のメリットは入院しなくていいということです。誰しも入院は嫌です。また、入院すると医療費が高くつきます。現在、日本で認められている外来投与量は検定日で13.3mCi(500MBq)までです。この量では、単発性機能結節(STN)で結節が大きいものや中毒性多結節性甲状腺腫(TMNG)はアイソトープ一回投与では効きません。今回の研究では、単発性機能結節(STN)11例中6例、中毒性多結節性甲状腺腫(TMNG)5例中1例がアイソトープ一回投与で治りました。予想通り、単発性機能結節(STN)では、腫瘍サイズが小さいものほど一回投与で治りやすい傾向にありました【表2】。中毒性多結節性甲状腺腫(TMNG)では、甲状腺腫の重量が大きいために、一回投与では治りにくいことも予想通りでした【表2】

アイソトープ治療後にもホット結節がみられたことに対する説明は、他の文献などを調べて以下のように推論しています。メルカゾール(MMI)を放射性ヨード(RAI)治療前に使うと、治療時に結節以外の甲状腺組織にも放射性ヨード(RAI)が取り込むことが予想されます【図3】。すなわち、甲状腺機能が正常になり、血清TSHが正常になりますと正常組織も放射性ヨードを取り込むようになります。結果として正常甲状腺組織が破壊されます。すると、破壊された結節以外の部分がシンチで描出されないわけです。ヨーロッパのある研究では、MMIで前処置した場合、24例中20例でホット結節(Hot nodule)が残るという(Nygaard B 1998 Thyroid 8: 223-227)

正常甲状腺組織が破壊されますので、結果として甲状腺機能低下症になる可能性が出てきます。現に、今回の研究でも、単発性機能結節(STN)の患者4例でアイソトープ治療後に甲状腺機能低下症になり、チラージンSを服用しています。それでは、アイソトープ治療前にメルカゾールを使用すべきではないのかという問題が出てきます。若い人は、心臓などに問題がありませんからメルカゾールを使用する必要はないでしょう。しかし、高齢者はメルカゾールで前処置しない場合、心臓に負担がかかり心房細動になる可能性もあります。以上の理由から、高齢者にはアイソトープ治療前にメルカゾールを使用することは医学的に正当化できると思います。

日本では、機能性甲状腺結節に対して手術が行われてきました。最近では、エタノール局注治療(PEIT: Percutaneous Etanol Injection Therapy)が行われるようになってきています。しかし、もう一つの治療法として、外来で行うアイソトープ治療を考慮すべきときがきているのではないでしょうか。

. Dr.Tajiri's comment . .
. 日本では、機能性甲状腺結節に対して、アイソトープ治療を受ける症例は驚くほど少ないように思います。この病気は、シコリがあるので内科医が外科医に紹介するためでしょう。投与量が比較的多いために、入院の必要性があることも患者さんが嫌がる原因かも知れません。今回の研究から分かりますように、分割投与をすれば外来治療で事足ります。

もっと多くの医師に機能性甲状腺結節に対するアイソトープ治療の有用性を知ってもらい、多くの患者さんがその恩恵に与れる日が遠くないことを切望します。
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