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まず基本的な説明をします。遺伝子治療とは、日本の遺伝子治療ガイドライン【日本遺伝子治療学会(編):遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ、ティー、エス、1999】によりますと、「遺伝子治療とは、致死性の遺伝疾患・癌・AIDSなど生命を脅かす疾患および生活の質を著しく損なう難治性疾患に対し、疾病の治療を目的として遺伝子または遺伝子を導入した細胞をヒトの体内に投与することである」と定義されています。 シカゴ大学のDeGrootらは米国内分泌学会誌7月号(Gene therapy for Thyroid Cancer: Where do we stand' Leslie J DeGroot and Rusheng Zhang. J Clin Endocrinol Metab 86: 2923-2928, 2001)にて、甲状腺がんの遺伝子治療の将来性について述べています。 甲状腺がんが遺伝子治療に適している理由を「まず第一に、甲状腺がんにみられるサイログロブリン(Tg)、TSHレセプター抗体、カルシトニンなどの遺伝子は甲状腺以外の組織ではみられないこと、2番目にもし、正常甲状腺組織が破壊されたとしても、肝臓や肺の破壊から比べれば、取るにたらないものである」と述べています。そこで甲状腺癌に対する遺伝子治療は効くのか、また安全なのかという疑問が出てくる。彼らは、「どちらの質問に対しても答えはイエスだ」と自信をもって言っています。 いろいろな遺伝子治療が試みられていますが、「現在、一番よく行われている方法は単純ヘルペスウィルスのチミジンキナーゼを腫瘍内に発現させ、その後にガンシクロビル(ganciclovir)を投与する。この薬剤はチミジンキナーゼによって細胞壊死誘発物質に変化する。2番目に行われているのは、抗腫瘍免疫を促進する働きのあるサイトカイン遺伝子を腫瘍内に導入するためにウィルスを使うものである。インターフェロンγ、インターロイキン12、コロニー刺激因子(GM-CSF)、リンフォタクチンなどが腫瘍内に導入するサイトカインである。その他に、細胞死や抗血管増殖因子を利用する方法もある」と述べています。 「今までに、人間の甲状腺癌に対して行われた遺伝子治療の報告はない。しかし、他の癌では、現在、遺伝子治療の開発が進んでいる」と述べています。 最後に、「明らかに、遺伝子治療は胸腔内、腫瘍内への投与、または腫瘍内に直接投与することによって、ヒトの癌に安全にそして効果的に行える。試験的投与では、投与するウィルスの量によって、軽い副作用がみられる程度である。我々は、近い将来、現在行われている遺伝子治療のうち適切なものを用いて、甲状腺癌の治療に応用する。それは、従来の方法より優れていると思う」結んでいます。 甲状腺癌の遺伝子治療は夢のような話ですが、現在、世界中の研究者が精力的に研究している分野です。ヒトでは、まだ甲状腺癌の遺伝子治療は行われていませんが、将来期待できる治療法と思います。しかし、副作用などについて慎重に検討してから、臨床応用されるべきと考えます。それが、近い将来であることを祈ります。 |
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