さる12月13日、医薬品・医療用具等安全性情報として厚生労働省がメルカゾールによる白血球の減少<注釈:無顆粒球症>などの副作用に関する注意を医療機関に呼びかけたことが、13日夕方のNHKニュースおよび14日の新聞各紙朝刊で報道されました。ただ、報道の際に、「バセドウ病の治療薬で死亡」というセンセーショナルな見出しを出したために、メルカゾールを服用している患者さんが不必要な不安を抱いたのではないかと危惧しています。
例えば、毎日新聞の記事によると
『甲状腺治療薬:バセドウ病「チアマゾール」で7人死亡』
バセドウ病など甲状腺機能障害の治療薬「チアマゾール」(商品名・メルカゾール錠)の服用後、白血球減少などから最近5年間で7人が死亡していたことが分かり、厚生労働省は13日、医薬品・医療用具等安全性情報で医療関係者などに注意を呼び掛けた。チアマゾールは1956年に発売され、錠剤で年間の使用患者数は約16万4000人と推定される。服用後、副作用の可能性がある白血球の減少などから、感染症を引き起こして死亡する例が相次いだため、定期的な血液検査などを行うよう「使用上の注意」に盛り込まれた。
と報道されています。
従来から、われわれ甲状腺専門医はこの副作用(無顆粒球症)にはもっとも注意しており、メルカゾールを服用する人には治療開始前によく説明しています。喉が痛くなって、熱が38度以上出たら、風邪と思わないで連絡してくださいと。白血球数や顆粒球数を測って、もし減っていればクスリを中止して、適切な治療をすれば、生命を脅かすことはありません。
誤解を招かないためにここで、抗甲状腺薬による副作用である無顆粒球症についてご説明します。抗甲状腺薬による無顆粒球症は、このクスリが発売されて以来、常に甲状腺専門医が最も気を付けている副作用です。まず最初に理解しておいていただきたいことは、抗甲状腺薬による無顆粒球症は服用開始2〜3ヶ月以内に起こるということです。基本的には、その後に起こることはありません。文献的には、服用数年後に無顆粒球症になったという報告はありますが、世界中で今までに1〜2例です。
抗甲状腺薬にはメルカゾールとプロピールチオウラシル(プロパジールまたはチウラジール)の2種類があります。今回の報道では、メルカゾールのみが取り上げられましたが、実際にはプロピールチオウラシルでも、同じ頻度で無顆粒球症がみられます。抗甲状腺薬による無顆粒球症の頻度は0.3〜0.4%です。
すなわち、1,000人に3〜4人という大変稀なものです。しかし、無顆粒球症になりますと白血球の一種である顆粒球数が0 近くまで減ることがあります(通常、白血球は4,000〜5,000/mm3、顆粒球は2,000〜3,000/mm3あります。顆粒球が500/mm3未満を無顆粒球症と呼びます)。顆粒球は細菌をやっつける働きをしていますので、顆粒球が減り細菌が喉などに付いて、扁桃腺炎などを起こすと喉が痛くなり、38〜39度以上の熱がでます。医師が、この副作用について説明していないと患者さんは風邪と思って、近くの医療機関で風邪薬をもらって治療を受けます。患者さん本人は抗甲状腺薬の副作用と思っていませんから、抗甲状腺薬を引き続き飲み続けます。そうすると、顆粒球が0近くまで減り、細菌が血液中に入り込んで敗血症というおそろしい病気になります。死亡している人たちは、この状態になった人たちです。本来なら、副作用についてちゃんと説明していれば、避けられたことです。ですから、わたしは抗甲状腺薬を投与する際、副作用について説明をしない医師は抗甲状腺薬を使用する資格がないと思っています。甲状腺専門医なら、必ず抗甲状腺薬を投与する際、副作用について説明をするはずです。 |