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[030]2002年4月1日
[030]
先天性甲状腺機能低下症児の4歳時における成長および知能発達に及ぼす治療開始時の異なるサイロキシン投与量の効果について
田尻クリニック / 田尻淳一
イタリアのグループは、最近のアメリカ甲状腺学会誌(Thyroid 12: 45-52, 2002)先天性甲状腺機能低下症に対するサイロキシン初期投与量の成長および知能発達に及ぼす影響について報告している。マススクリーニングで見つかった先天性甲状腺機能低下症83人を対象としている。サイロキシン初期投与量により3つのグループに分けた。グループ1(42人):従来推奨されていた投与量、6.0〜8.0μg/kg/日、グループ2(21人):8.1〜10.0μg/kg/日、グループ3(20人):10.1〜15.0μg/kg/日。4歳時におけるグループ3の知能指数(IQ: 98±9)はグループ1(IQ: 88±13,p<0.05)に比べて有意に高かったが、グループ2(IQ: 94±13)とは差がなかった。しかし、グループ2では知能指数が正常以下の症例は6人(28%)であったのに対し、グループ3では知能指数が正常以下の症例は一人もいなかった(p=0.03)。グループ3において、診断時に重症であった症例の4歳時の知能指数(97±9)は、診断時に中等症であった症例のそれ(99±12)と比べても差はみられなかった。グループ2も、診断時に重症であった症例と診断時に中等症であった症例の間には同じような傾向がみられた。治療開始1ヶ月後には、3つのグループとも総T4、フリーT4値は正常になったが、TSHが正常になったのはグループ3のみであった(グループ1:16.0±12.0、グループ2:9.2±10.0、グループ3:2.4±3.3mU/L; p<0.0001)。グループ2のうち、サイロキシン初期投与量が9μg/kg/日以上であった12人は最初の3ヶ月でTSH値が正常になった。その結果、この子たちの知能指数(97±16)は、残りのグループ2の子供の知能指数(90±9)より高かった。3つのグループ間で、身長、体重、頭囲、骨年令には差がみられなかった。一番多い量を投与されていた子供でも、サイロキシン過剰投与の症状はみられなかった。

結論として、高用量のサイロキシン投与は、TSHを早く正常化し、知能の発達遅延を予防することができることが分かった。しかし、成長や骨年齢には影響を与えなかった。
. Dr.Tajiri's comment . .
. 日本でも、1998年に最新のガイドラインが作成された(日本小児科学会雑誌 102, 1998)。それによると「10μg/kg/日から開始する。重症例には12〜15μg/kg/日から開始してもよい」というものである。世界的には10〜15μg/kg/日から開始することが、推奨されている。今回の研究は、このガイドラインが妥当であることを示したものである。以下に諸外国のガイドラインを示します。
諸ガイドラインによる初期治療方法
_1_ 【1980年版の日本のガイドライン(日本小児科学会雑誌 84, 1980)】
一般に5μg/kgにて治療を開始し、8日目より10μg/kgを投与する。最初から10μg/kgを投与する方法もある。
2 【1998年版の日本のガイドライン(日本小児科学会雑誌 102, 1998)】
10μg/kg/日から開始する.重症例には12〜15μg/kg/日から開始してもよい。
3 【アメリカ小児科学会等のガイドライン(Pediatrics 91, 1993)】
平均10〜15μg/kg/日、T4が著明低値例には50μg/日。
4 【ヨーロッパ小児内分泌学会ガイドライン(Horm Res 52, 1999)】
10〜15μg/kg/日
5 【Nelson Textbook of Pediatrics(16版)<注釈:アメリカのスタンダードな小児科教科書>】
10〜15μg/kg/日(37.5または50μg/日)
(小児科 42:1897-1903, 2001より引用)
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)に関しては、原田正平先生のホームページが一番情報が豊富で、充実しています。参考にしてください。
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