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[031]2002年4月1日
[031]
結節性甲状腺腫形成における妊娠の影響
田尻クリニック / 田尻淳一
香港のグループは、最新のアメリカ内分泌学会誌(JCEM 87: 1010-1014, 2002)に結節性甲状腺腫形成における妊娠の影響について報告している。結節性甲状腺は男性より女性の方が頻度が高いことはよく知られた事実である。高齢妊娠時に、結節性甲状腺の頻度が高くなるという報告はあるが、妊娠と結節性甲状腺の関係についての研究は未だかつて行われたことはない。このグループは妊娠と結節性甲状腺の関係について研究を行った。

妊娠初期の中国人妊婦(221人)を対象とした。甲状腺超音波、甲状腺機能検査、尿中ヨードを妊娠初期、中期、後期、産後6週、3ヶ月で行った。妊娠初期に超音波検査を行い、直径2mm以上の甲状腺結節は34人(15.3%)で認められた。12人(5.4%)では、複数の甲状腺結節がみられた。8人は触診で触れることができた。結節性甲状腺腫のある妊婦は結節性甲状腺腫のない妊婦に比べて年令が高く(p<0.01)、高齢妊娠の頻度も高かった(p<0.02)。単発性もしくは多発性の場合には一番大きい結節の体積は妊娠が進むに従って、大きくなった(p<0.02)【妊娠初期:平均60mm3(14〜344)、妊娠後期:平均65mm3(26〜472)】。結節の増大傾向は、産後もみられた【産後6週(p<0.005):平均103mm3(25〜461)、産後3ヶ月(p<0.05):平均73mm3(22〜344)】。結節性甲状腺腫のある妊婦は結節性甲状腺腫のない妊婦に比べて、妊娠中ずっと血清TSHが低く(p<0.03)、血清サイログロブリン(Tg)が高かった(p<0.05)。妊娠が進むにつれて、25人(11.3%)に新しい甲状腺結節が出現してきた。そこで、産後3ヶ月の結節性甲状腺の頻度は24.4%であった(p<0.02 :妊娠初期と比べて)。妊娠中に結節性甲状腺のみられなかった妊婦と比べると、新しく甲状腺結節が出現してきた妊婦では妊娠中期以降の尿中ヨードは多かった(p<0.05)。しかし、血清TSH、血清サイログロブリン(Tg)に差はなかった。産後に、直径5mm以上の結節に対して穿刺吸引細胞診を行い、ほとんどが結節性過形成の所見であった<注釈:日本では腺腫様甲状腺腫、欧米では多結節性甲状腺腫>。癌は一例もみられなかった。

結論として、妊娠によって甲状腺結節は増大し、新たに甲状腺結節ができる。これらの妊婦は、将来、多結節性甲状腺腫<注釈:日本では腺腫様甲状腺腫>になる素因をもっているのかもしれない。
. Dr.Tajiri's comment . .
. 今までに、妊娠を契機に甲状腺結節が増大する症例を何例か経験したことがあります。何故かなと思っていました。今回の研究で、なるほどと思いました。妊娠中に何故、甲状腺結節が増大するのかは今回の研究では分かっていません。しかし、このような事実が存在することが分かれば、今後はその原因についての研究がなされると思います。

現時点で医師が認識しておくべきことは、甲状腺結節を持っている人が妊娠した場合や妊婦に対しては、超音波で甲状腺結節を注意深くみていく必要があるということです。
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