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甲状腺の針生検(穿刺吸引細胞診)

このページはすでに甲状腺結節に関する入門編(甲状腺結節の基礎知識)をお読みになったことを前提として書かれております。もしお読みになっていなければ、このページの内容がもっとよくわかるようになりますので、まずそちらの方からお読みになってください。

癌ですか… …ただの良性のシコリですか?
.甲状腺結節は年齢とともに増加し、成人のほぼ10%に存在します。検死で調べたところ、50%の人に甲状腺結節があり、かなりありふれたものであることがわかりました。孤立性甲状腺結節の95%は良性です。すなわち、悪性の甲状腺結節は5%しかないということです。良性の甲状腺結節で多いタイプは、腺腫(“正常な”甲状腺組織が発育し過ぎたもの)や甲状腺嚢胞、そして橋本甲状腺炎です。良性の甲状腺結節で希なタイプは、亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎、片側の葉の非形成またはリーデル甲状腺腫によるものです。前の頁で述べたように、数少ない癌性の結節は大体において“分化度の高い”甲状腺癌によるもので、これが甲状腺癌の中で一番多いタイプです。乳頭癌が約60%、濾胞癌は12%、そして乳頭癌の濾胞変異があるものが6%を占めています<注釈:日本では乳頭癌が90%、濾胞癌は4〜5%です>。これらの分化度の高い甲状腺癌は大体治りますが、まず最初に見つけなければなりません。細針生検(穿刺吸引細胞診)は、甲状腺の結節が癌性のものであるかどうかを確かめる安全で、効果的かつ簡単な方法です。

甲状腺癌は、普通、目立った孤立性の結節として存在し、患者が自分で触れたり、家族や友人が首にしこりがあるのに気付く場合もあります。これは上の図に示してあります。
甲状腺結節の入門編で指摘したように、良性の結節と癌性の孤立性甲状腺結節とを見分ける必要があります。
.病歴や医師による診察、検査室検査、超音波、そして甲状腺スキャンは、どれも孤立性の結節に関する情報を与えてくれるものですが、甲状腺結節が良性か悪性かを見分けることができる唯一の検査は、細針生検(穿刺吸引細胞診)です(生検とは組織のサンプルを採取して、その細胞に癌の特徴があるかどうかを顕微鏡で見て調べる検査のことです)。
このような状況では、甲状腺癌は体の他のあらゆる組織から生じたものと何ら違いはありません。…何かが癌性であるかどうかを見る唯一の方法が生検を行うことなのです。しかし、甲状腺は針を使って簡単にアクセスでき、そのためナイフで切り開いて組織の一部を採ることはせずとも、非常に細い針を甲状腺に刺して、顕微鏡検査用の細胞を採ることができます。この生検の方法は細針吸引生検(穿刺吸引細胞診)または“FNA”と呼ばれます。

コールド結節とは何でしょうか?甲状腺細胞はヨードを取り込み、そのためヨードを原料として甲状腺ホルモンを作ることができます。放射性ヨードを与えると、甲状腺の外形を示すチョウチョのような形の画像がX線フィルム上に得られます。結節が甲状腺ホルモンを作らない細胞(ヨードを取り込まない)からなっていれば、X線フィルム上に“コールド”として現れます。甲状腺ホルモンを作り過ぎている結節は、まわりより暗い領域として現れ、“ホット”と呼ばれます<注釈:ホット結節はわたしの次のページを参考にしてください>。

孤立性結節の評価には、かならず病歴と医師による診察を含めるべきです。病歴や医師の診察のある側面から良性か悪性かを窺い知ることができます。ただし、何らかの形の生検が、確定診断を下す唯一の方法であることを覚えておいてください。
次のような特徴があれば、良性の甲状腺結節である可能性が高くなります
  • 橋本甲状腺炎の家族歴
  • 良性の甲状腺結節または甲状腺腫の家族歴
  • 甲状腺機能亢進症または甲状腺機能低下症の症状
  • 結節に痛みや圧痛がある。
  • やわらかく、滑らかで可動性の結節
  • 特に大きな結節がない多結節性甲状腺腫(結節がたくさんあるが主要なものがない)
  • 甲状腺スキャン上で、“ウォーム”な結節として現れる(正常な量の甲状腺ホルモンを作り出している)。
  • 超音波診断では単純な嚢胞である。
次のような特徴があれば、悪性である疑いが高くなります
  • 20歳以下である。
  • 70歳以上である。
  • 男性である。
  • 急にものが飲み込みにくくなった。
  • 急に声がしゃがれてきた。
  • 子供の頃に放射線外部照射歴がある。
  • 固く、でこぼこした動かない結節
  • 頚部リンパ節腫脹がある(首のリンパ節が固く腫れている)。
  • 甲状腺癌の既往歴がある。
  • スキャン上で結節が“コールド”である(上の写真に見られるように、結節がホルモンを作っていないことを意味しています)。
  • 超音波診断では、充実性または複合性である。
普通、甲状腺ホルモンレベルは、結節があっても正常で、正常な甲状腺ホルモンレベルから癌性の結節と良性の結節を区別することはできません。しかし、甲状腺機能亢進症または甲状腺機能低下症が存在すれば、良性の結節だと思われます(このため、“ウォーム”あるいは“ホット”結節が良性疾患である可能性が高いのです)。悪性であるという診断がつけば、サイログロブリンが腫瘍マーカーとして役立ちますが、癌性の甲状腺結節と良性のものを区別するだけの特異性はありません。超音波診断では、甲状腺の大きさや結節の数とサイズの正確な測定や甲状腺由来のしこりとそうでないものを分けること、必要な場合、細針生検(穿刺吸引細胞診)のガイドとなること、そして3mmまでの充実性の結節と2mmまでの嚢胞性結節を見分けることができます。超音波診断の特徴のいくつかは良性の結節が存在する可能性を示しますが、他のものは癌性結節の存在の可能性を示唆するものです。超音波診断だけでは悪性の結節と良性のものを見分けることはできません。これに関しては、甲状腺結節の超音波検査に詳しく述べております。そして、嚢胞性の結節の15%が悪性であることから、超音波診断で結節が嚢胞性であることがはっきりしても、甲状腺癌でないとは言い切れません。

甲状腺スキャンで検知される結節は、コールドとホットまたはウォームに分類されます。甲状腺結節の85%はコールドで、10%がウォーム、そして5%がホットです。上にスキャンで見た素晴らしいコールド結節の例を示しておりますが、コールド結節の85%、ウォーム結節の90%、そしてホット結節の95%が良性であることを覚えておいてください(全部頭に入りましたか???)。甲状腺スキャンでは結節が良性または悪性である可能性を知ることはできますが、良性と悪性の結節を本当に見分けることはできません。そして、これだけをもとにして、甲状腺の手術を含む特定の結節の治療法を勧めるべきではありません。

情報とうまいやり方
すべてではありませんが、ほとんどのケースで、甲状腺細針生検(FNA、穿刺吸引細胞診)が手術をしないで悪性と良性の結節を区別できる唯一の方法です。針を結節に数回刺し込んで、注射針の中に細胞を吸い込みます。細胞を顕微鏡のスライドの上に置いて、染色してから病理学者が調べます。そうやって、結節を診断不能良性疑わしい、あるいは悪性と分類します。
  • 診断不能とは、吸引した甲状腺細胞の数が不十分であり、診断を下すことが不可能であることを示唆しています。診断不能であった場合は、生検をもう一度行う必要があります。吸引を再度行った場合、約50%で診断が可能な量の吸引標本が得られます。全体的には、生検の5〜10%が診断不能であり、患者はさらに詳しく調べるため、超音波診断または甲状腺スキャンを受ける必要があります。
  • 良性のものが甲状腺吸引標本の中では、いちばん多く(ほとんどの結節は良性であるため、予想通りです)、様々な量の甲状腺ホルモンタンパク(コロイド)を一緒に含む良性の濾胞性上皮から成っています。
  • 悪性の吸引標本では、次のような甲状腺癌のタイプの診断ができます。乳頭癌、乳頭状の変異である濾胞癌、髄様癌、未分化癌、甲状腺リンパ腫、そして甲状腺に転移した癌です。濾胞性癌とヒュルトレ細胞癌はFNA生検では診断できません。これは大事なポイントです。良性の濾胞性腺腫と濾胞性癌(全甲状腺癌の12%)は区別できないため、これらの患者は結局、正式な手術による生検が必要になることが多く、その際結節がある側の葉を取ってしまうのが普通です<(注釈:日本では濾胞癌は全甲状腺癌の3〜5%程度と少ないです>。
  • 細胞学的に疑わしいものはFNA(穿刺吸引細胞診)の約10%を占めます。これらの吸引標本中の甲状腺細胞は、明らかな良性でも悪性でもありません。疑わしい病変の25%は、患者が甲状腺の手術を受けた時に悪性であることがわかります。これらは大体において、濾胞性癌かヒュルトレ細胞癌です。したがって、疑わしい吸引標本が得られた甲状腺結節の治療としては、手術が勧められます。
FNA(穿刺吸引細胞診)は大多数のケースで、孤立性甲状腺結節の評価に真っ先に必要な唯一の検査です(TSH値も甲状腺機能を評価するために調べるべきです)。孤立性甲状腺結節の評価に、超音波診断や甲状腺スキャンは必要ないのが普通です。FNAで甲状腺結節の評価と治療にかかる費用を減らすことができますし、甲状腺の手術時に 見つかる癌の率が改善されます。孤立性の甲状腺結節は時間の経過とともに大きくなったり、小さくなったりすることはありますが、孤立性結節の自然経過から、ほとんどの結節は時間の経過とともに変化することはまずないということがはっきりしています<注釈:この記載もおかしいと思います。日本の隈病院の良性甲状腺結節の自然経過についての研究を紹介します。この研究は国際的にも高く評価されています>。

甲状腺ホルモン剤を飲めば結節はなくなりますか(押え込むことができますか)?
いくつかの研究で、甲状腺ホルモン剤を使った抑制療法では、甲状腺結節のサイズが小さくならないことが明らかになっています。したがって、結節が大きくなり続けるか、症状が出てきたというようなことがなければ、結節を薬で抑える必要はありません。さらに、甲状腺結節の抑制には長期にわたるTSHの抑制が必要になることから、これらの患者に骨粗鬆症が起きるリスクが高くなる可能性があります。従来から孤立性の結節のある甲状腺と多結節性甲状腺腫は区別されておりますが、診察で孤立性結節であると認められた患者の約50%に、超音波検査で他にも結節が見つかります。したがって、孤立性結節と多結節性甲状腺腫の違いはあいまいになってきています。また、長年の間多結節性甲状腺腫があれば甲状腺癌である可能性は低くなると信じられておりましたが、最近の研究で多結節性甲状腺腫に癌が生じる可能性は、孤立性結節のものと変わりはないらしいということが示唆されています。多結節性甲状腺腫の中に、目立って大きな結節があれば、その結節の生検を行う必要があります。

結論として、甲状腺のFNA(穿刺吸引細胞診)は、良性と悪性の結節を区別する安全で、費用が安く、しかも効果の高い方法であり、通常、診断のために真っ先に行われるべき検査です。

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