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[037]2002年5月17日
[037]
バセドウ病眼症に対する球後照射
田尻クリニック / 田尻淳一
イタリアのグループは、最新のアメリカ甲状腺学会誌に「バセドウ病眼症に対する球後照射は有効である」と報告している(Thyroid 12: 245-250, 2002)
この結論は、以前、紹介したトピック[035]とは正反対の結論です。

バセドウ病に対する球後照射は60年前から行われている。球後照射は抗炎症作用や局所の免疫抑制作用があるため、重症のバセドウ病眼症に対する確立した治療法になっている。現在は、リニアック照射であり、従来のX線照射やコバルト照射は行われていない。通常は、2週間で計20Gy照射する。治療効果を左右するのは、どのような患者を治療するかに因るところが大きい。すなわち、最近発症した例、活動性のある症例は球後照射が効きやすく、眼症が出現して時間が経っている例や活動性のない症例は球後照射が効きにくい。炎症症状、最近出現した複視、視神経障害は球後照射が効きやすいが、眼球突出や長期間経過した複視は球後照射の効果は期待できない。一般的には、60%の症例で球後照射が効くと言われている。球後照射と副腎皮質ホルモン剤全身投与の併用が、各々単独で治療するより効果的である。球後照射は特に問題も起きないし、安全である。糖尿病性網膜症などの網膜疾患がある場合には、球後照射は禁忌である。バセドウ病眼症に対して球後照射を行った例で、放射線照射が原因で腫瘍ができたという報告は今のところない。
. Dr.Tajiri's comment . .
. トピック[035]で紹介したGormanの論文は、軽症〜中等症のバセドウ病眼症を対象としている。この研究者たちは、中等症〜重症のバセドウ病眼症を対象としているので、結論が正反対になったのかもしれない。経験的に、副腎皮質ホルモン剤全身投与で効きが悪い症例に対して、球後照射を併用すると劇的に改善することはよくあります。このような症例は、中等症〜重症のバセドウ病眼症と考えられます。副腎皮質ホルモン剤全身投与で効くような症例は軽症〜中等症のバセドウ病眼症でしょう。このような症例には、そもそも球後照射は必要でないのは自明の理であると思います。

個人的な意見を言わせてもらいますと、トピック[035]の結論も正しいし、今回の結論やトピック[013]の結論も正しいわけです。対象とする症例の重症度によって、結論が違うのは当然のことです。
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