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以前に行なわれたいくつかの前向き研究では、甲状腺切除や抗甲状腺剤治療を受けた患者よりも放射性ヨード(131-I)で治療した患者に甲状腺性眼症が悪化する者が多いことが示唆されていた(5,6)
。軽度の甲状腺眼症の経過中に、3ヶ月間のグルココルチコイド(副腎皮質ホルモン)治療を行なった場合と行なわなかった場合で、メチマゾールと放射性ヨード治療の効果を比較した最近の無作為試験(7)では、放射性ヨードだけで治療を受けた患者150名の中で、前から軽度の甲状腺眼症のあった患者72名のうち17名に悪化がみられ(24%,
[CI; 14〜35%])、最初に軽度の甲状腺眼症のなかった患者78名のうち6名に眼症が発症した(8%, [CI; 3〜16%])。甲状腺眼症が発症または悪化した23名の患者のうち、15名ではその変化が2〜3ヶ月続く一過性のものであった。放射性ヨードで治療を受けた後に3ヶ月間のプレドニゾン治療(最初の1ヶ月間は0.4〜0.5mg/kgで放射性ヨード治療後2〜3日して開始し、その後2ヶ月かけて徐々に量を減らしていく)を受けた
145名の患者の中で、前から軽度の甲状腺眼症のあった患者70名には悪化がみられず、また最初から眼症のなかった患者70名には発症がなかった。メチマゾールで治療を受けた148名の患者では、前から軽度の甲状腺眼症のあった患者74名のうち3名が悪化し、眼症のなかった74名のうち1名が発症した(3%,
[CI; 1〜7%])。
2番目の研究では、同じ研究者が放射性ヨード治療後に喫煙が眼症悪化の危険性を増加させることを明らかにした。最初の研究の患者150名を喫煙者と非喫煙者に分けたところ、82名の喫煙者のうち19名で甲状腺眼症が悪化した(23%,
[CI; 13〜33%])が、非喫煙者68名のうち悪化したのは4名(6%, [CI; 3〜9%])であった(8)。この研究では重症の甲状腺眼症患者で喫煙が眼窩への放射線照射治療やグルココルチコイド治療の効果が減少することも示された。
上述の情報からバセドウ病による甲状腺機能亢進症の治療選択に関し、どのようなことが勧められるのだろうか。活動性の甲状腺眼症のある患者では喫煙者の場合、放射性ヨード治療を避けた方が賢明であると思われる。他に理由があって、そのような患者が放射性ヨード治療しか選択できないような場合、完全に根治できる線量を照射し、その後3ヶ月間のプレドニゾン治療を行なうべきである。一方、軽度の甲状腺眼症がある患者が非喫煙者であれば、軽度の甲状腺眼症の悪化は大抵一過性のものであり、プレドニゾンがすでに骨密度減少の危険がある患者の骨密度減少をさらに悪化させる恐れがあるため、このデータは放射性ヨード治療後のルーチンなプレドニゾン使用の裏づけとはならない。
どのようなメカニズムで放射性ヨードと喫煙により甲状腺眼症が悪化するのであろうか?放射性ヨードによる甲状腺の破壊は甲状腺抗原の放出とTリンパ球の活性化を引き起こす。活性化されたTリンパ球が甲状腺組織と共通な発現抗原を持つ眼窩の線維芽細胞と結び付き、向炎症性サイトカインが放出されると考えられる。同様に、相対的低酸素症を誘発することにより、喫煙も眼窩後部スペースにサイトカインを放出させるような刺激を加えるのだと思われる。 |
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