トピック > 2002年
[022]2002年2月1日
[022]
メルカゾールによる副作用:P-ANCA関連腎炎
田尻クリニック / 田尻淳一
抗甲状腺薬の副作用としてのP-ANCA関連腎炎PTU(チウラジールまたはプロパジール)を長期間服用している人が稀に起こすと言われている。従来、メルカゾールではP-ANCA関連腎炎はほとんど起こらないと考えられていた(世界中で2例報告されているのみで、ほとんどはPTUによるものである)。最近、New England Journal of Medicine(NEJM:ニューイングランド医学雑誌;世界最高の臨床医学雑誌といわれています)に連載されているマサチューセッツ総合病院の症例呈示でメルカゾールによるP-ANCA関連腎炎の症例が紹介された(345: 981-986, 2001)
症例は22歳、男性でメルカゾールを2年間服用していた。検尿では蛋白尿が陽性であったが、血尿は陰性であった。P-ANCA 陽性であったが、どれくらいの値かは記載がない。バセドウ病に対してはアイソトープ治療で治った。討論の中で、メルカゾールによるP-ANCA関連腎炎は症例数があまりにも少ないので、本当にメルカゾールが原因でP-ANCA関連腎炎を起こしているかどうかの証拠はないと述べています。

最近、日本でもメルカゾールを製造発売している中外製薬が、厚生労働省医薬局安全対策課長通知(医薬安発第143号、2001年10月17日付)及び自主的に「使用上の注意」を改訂しました。その際に、6例のメルカゾールによるP-ANCA関連腎炎の症例を報告しています。そのうちの2例は詳細に記載してあります。

一例目は、63歳、男性で約19年間メルカゾールを服用していた。P-ANCA 398EU(正常10EU未満)と高値であった。症状は、発熱、関節炎、腎障害である。
ステロイド、免疫抑制剤の投与で症状改善した。

二例目は、26歳、女性で約5年間メルカゾールを服用していた。P-ANCA 698EU(正常10EU未満)と高値であった。症状は、感冒様症状、肉眼的血尿、腎機能低下である。ステロイド使用にて、腎機能は正常に戻った。腎生検では、糸球体に軽度の増殖性変化が認められたのみであった。

PTUによるP-ANCA関連腎炎と同様に、メルカゾールを服用開始して数年経ってから副作用が出ている。これは、我々、甲状腺専門医にとっては非常に心配の種である。今までは、抗甲状腺薬の副作用は服用開始2〜3ヶ月以内に起こるとされていたからである。だから、長期服用が安心して行われたわけである。
PTUだけでなく、メルカゾールでも頻度は稀であるが、P-ANCA関連腎炎が起こりうる、それも服用開始して数年後に起こるとなれば、気が抜けないことになる。少なくとも、メルカゾールを長期間服用している人で、P-ANCA関連腎炎を思わせる症状が出現したら、まずP-ANCAを測定するべきであろう。P-ANCAが高値を示していたら、即、メルカゾールを中止して、P-ANCA関連腎炎の治療を行うことが先決である。腎臓が落ち着いたら、手術かアイソトープ治療の適応になる。腎機能のことを考えるとアイソトープ治療の方が適していると思われる。
もどる