Auerらは、Am Heart J誌に「心房細動は顕性甲状腺機能亢進症と同様に潜在性甲状腺機能亢進症でも同じ頻度でみられる」という内容の論文を発表した(2001;
142: 838-842)。心房細動は顕性甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンは高値でTSHは低値)の患者では、よくみられる合併症である<注釈:日本人は欧米人に比べて、心房細動になる頻度はバセドウ病の1〜2%程度と低い>。潜在性甲状腺機能亢進症<注釈:甲状腺ホルモンは正常でTSHのみ抑制された状態>の患者でも、心房細動の頻度が増していることも考えられるが、あまり研究されていない。
研究者によって異なるが、原因不明の心房細動のうち0〜15%が甲状腺機能亢進症によるものと考えられている<注釈:わたしが以前、65歳以上の原因不明の心房細動患者76名について検討したところ、5名(6.6%)に甲状腺機能亢進症患者がみつかった。年令をマッチさせた30名の心房細動のないコントロール群では、甲状腺機能亢進症は一人もいなかった>。
顕性甲状腺機能亢進症と潜在性甲状腺機能亢進症では、心房細動の頻度に差がみられるかどうかを検討した研究である。1989年〜1994年までに研究が行われた病院を訪れた甲状腺機能正常患者(平均年令66歳)22,300人中513人(2.3%)に心房細動がみられたのに対し、1986年〜1995年までに同病院を訪れた顕性甲状腺機能亢進症患者(平均年令67歳)725人中100人(13.8%)、潜在性甲状腺機能亢進症患者(平均年令68歳)613人中78人(12.7%)であった。
心房細動がみられた甲状腺機能正常患者、顕性甲状腺機能亢進症患者、潜在性甲状腺機能亢進症患者の間で、高血圧(甲状腺機能正常患者25%、顕性甲状腺機能亢進症患者29%、潜在性甲状腺機能亢進症患者13%)、左室肥大(甲状腺機能正常患者29%、顕性甲状腺機能亢進症患者24%、潜在性甲状腺機能亢進症患者29%)、心臓疾患冠[動脈疾患、心筋症、心臓弁膜症](甲状腺機能正常患者61%、顕性甲状腺機能亢進症患者65%、潜在性甲状腺機能亢進症患者57%)に差はみられなかった。
甲状腺の治療をしたところ、顕性甲状腺機能亢進症患者100人のうち24人(24%)、潜在性甲状腺機能亢進症患者78人のうち15人(19%)で心房細動が消失した(治療期間は記載されていない)。心臓疾患を持っていない患者の方が心房細動が消失しやすい傾向にあった。潜在性甲状腺機能亢進症患者で心疾患のない患者のうち77%は甲状腺の治療により心房細動が消失した。
以上の結果から、Auerらは、「心房細動は顕性甲状腺機能亢進症と同様に潜在性甲状腺機能亢進症でも同じ頻度でみられる」と結論づけた。 |