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[038]2002年6月17日
[038]
心房細動は顕性甲状腺機能亢進症と同様に潜在性甲状腺機能亢進症でも同じ頻度でみられる
田尻クリニック / 田尻淳一
Auerらは、Am Heart J誌に「心房細動は顕性甲状腺機能亢進症と同様に潜在性甲状腺機能亢進症でも同じ頻度でみられる」という内容の論文を発表した(2001; 142: 838-842)心房細動顕性甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンは高値でTSHは低値)の患者では、よくみられる合併症である<注釈:日本人は欧米人に比べて、心房細動になる頻度はバセドウ病の1〜2%程度と低い>。潜在性甲状腺機能亢進症<注釈:甲状腺ホルモンは正常でTSHのみ抑制された状態>の患者でも、心房細動の頻度が増していることも考えられるが、あまり研究されていない。

研究者によって異なるが、原因不明の心房細動のうち0〜15%が甲状腺機能亢進症によるものと考えられている<注釈:わたしが以前、65歳以上の原因不明の心房細動患者76名について検討したところ、5名(6.6%)に甲状腺機能亢進症患者がみつかった。年令をマッチさせた30名の心房細動のないコントロール群では、甲状腺機能亢進症は一人もいなかった>。

顕性甲状腺機能亢進症と潜在性甲状腺機能亢進症では、心房細動の頻度に差がみられるかどうかを検討した研究である。1989年〜1994年までに研究が行われた病院を訪れた甲状腺機能正常患者(平均年令66歳)22,300人中513人(2.3%)に心房細動がみられたのに対し、1986年〜1995年までに同病院を訪れた顕性甲状腺機能亢進症患者(平均年令67歳)725人中100人(13.8%)、潜在性甲状腺機能亢進症患者(平均年令68歳)613人中78人(12.7%)であった。

心房細動がみられた甲状腺機能正常患者、顕性甲状腺機能亢進症患者、潜在性甲状腺機能亢進症患者の間で、高血圧(甲状腺機能正常患者25%、顕性甲状腺機能亢進症患者29%、潜在性甲状腺機能亢進症患者13%)、左室肥大(甲状腺機能正常患者29%、顕性甲状腺機能亢進症患者24%、潜在性甲状腺機能亢進症患者29%)、心臓疾患冠[動脈疾患、心筋症、心臓弁膜症](甲状腺機能正常患者61%、顕性甲状腺機能亢進症患者65%、潜在性甲状腺機能亢進症患者57%)に差はみられなかった。

甲状腺の治療をしたところ、顕性甲状腺機能亢進症患者100人のうち24人(24%)、潜在性甲状腺機能亢進症患者78人のうち15人(19%)で心房細動が消失した(治療期間は記載されていない)。心臓疾患を持っていない患者の方が心房細動が消失しやすい傾向にあった。潜在性甲状腺機能亢進症患者で心疾患のない患者のうち77%は甲状腺の治療により心房細動が消失した。

以上の結果から、Auerらは、「心房細動は顕性甲状腺機能亢進症と同様に潜在性甲状腺機能亢進症でも同じ頻度でみられる」と結論づけた。
. Dr.Tajiri's comment . .
. 今回の研究のポイントは、潜在性甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンは正常でTSHのみ低値)でも心房細動が通常の甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンは高値でTSHは低値)でみられるのと同じ頻度で起こることを報告した点である。実は、潜在性甲状腺機能亢進症という状態は、よくみられる現象である。例えば、抗甲状腺剤での治療中やアイソトープ治療後に甲状腺ホルモンは正常であるが、血清TSHが低値を示していることはよくみられる。ならば、この人たちが、心房細動になりやすいかと言えば、ノーである。少なくとも、今回の研究のように10%を越えるような頻度で心房細動を起こすとは考えられない。今回の研究での対象者に心臓疾患を持った人が多い点が気になった。この研究が行われた病院は、心臓専門病院ではないであろうか。心臓病でかかったら、甲状腺機能亢進症が見つかったのではないであろうか。すなわち、患者にバイアス(偏り)がかかっている可能性がある。甲状腺機能亢進症の治療後に心房細動が消失する割合も、常識的な割合6 〜7 割から比べると極端に低い。心疾患のない潜在性甲状腺機能亢進症では、77%が甲状腺機能亢進症の治療後に心房細動が消失することを考えても、心疾患が心房細動を引き起こしている原因になっていると思われる。私の意見を述べさせていただきますと、今回の結果はそのまま受け入れるにはデータが不十分のように感じました。潜在性甲状腺機能亢進症に対して治療をすべきかどうかは意見の分かれるところです。結論を出すには、さらなる検討が必要と思います。

一般的な、お話をします。日本人の場合、バセドウ病患者の2%程度に心房細動がみられます。これは、諸外国から比べると頻度が低いです。心房細動の頻度が低い理由は、心疾患の頻度と関係しているのではないかと考えられています。通常、バセドウ病治療により甲状腺ホルモンが正常化したら、2ヶ月以内には心房細動がなくなります。少なくとも4ヶ月以内には心房細動は消失するのでが、その後も約3割の人は心房細動が続きます。心房細動が続いた場合、心臓の中に血栓(血の塊)ができやすくなり、それが飛んで体の動脈に詰まることがあります。一番怖いのは脳の血管に詰まることです(これを脳塞栓といい一種の脳卒中です)。わたしたちが野口病院で行ったアンケート調査で心房細動がずっと続いている人の10人に1人が脳塞栓を起こしていることが分かりました。普通の人の約10倍の危険率です。ですから、この心房細動に対して何らかの治療をしておく必要があるわけです。一般的には、心房細動が続いている間は、アスピリンを服用してもらうことが多いです。アスピリンには血液をサラサラにする働きがあるために、血栓を予防するのです。しかし、アスピリンを一生服用するわけにはいきません。では、どうするか?心房細動になって10年経っていないなら、クスリか電気的除細動(一種の電気ショックでアメリカのブッシユ大統領もこの治療を受けることになっていました)で治ることが多いので、積極的に治療を受けることをお勧めします。

以下も参考にしてください。
実地臨床:潜在性甲状腺機能亢進症
潜在性甲状腺機能亢進症は治療すべきである
ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ
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