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実地臨床:潜在性甲状腺機能亢進症
Anthony D. Toft, M.D.
N Engl J Med 345: 512-516, 2001

N Engl J Medの新しいコーナーで、日常臨床でよく遭遇する疾患についての問題点を検討する。様々な対応を支持する事実を提示し、適切なガイドラインが存在する場合には、それも示した。最後に、著者の現時点での勧告を述べる。

潜在性甲状腺機能亢進症
動悸を訴えて来院した67歳の女性を症例呈示します。彼女の心拍数は毎分120で、心房細動がみられました。他にみられる異常は以前よりあった甲状腺腫のみです。心臓エコー検査では、心臓弁膜症もなく、左室機能も正常でした。血清TSH値のみが0.05mU/L以下と抑制されていて、血中総T3値とT4値は正常範囲にありました。この患者の甲状腺機能異常は治療をすべきでしょうか?

臨床上の問題点
測定感度が0.1mU/L以下の測定系で測定した血清TSH値が抑制されており、血中T3値とT4値は正常範囲(通常は正常範囲の上の方)にある状態を、潜在性甲状腺機能亢進症と呼びます。この状態は、甲状腺機能亢進症の症状が出てくる前に、甲状腺ホルモンの増加に下垂体からのTSHが反応して抑制され、甲状腺ホルモンを正常範囲内に留めていると考えられている(1)。以前は、症状のないことが潜在性甲状腺機能亢進症の定義でしたが、今は軽度の甲状腺機能亢進症の症状がある場合もあると認識されている。甲状腺ホルモンを結節が過剰に産生している場合やバセドウ病のように甲状腺ホルモンが過剰に産生されている場合は、“内因性”潜在性甲状腺機能亢進症と分類され、甲状腺ホルモン剤の過剰投与は、“外因性”潜在性甲状腺機能亢進症と分類される。血清TSH値が抑制されており、血中T3値とT4値は正常範囲であれば、すべてが潜在性甲状腺機能亢進症とは限らない。他の原因でも同じような状態を表します【表1】

多結節性甲状腺腫は、もし視診で見えなくても、通常、触診で触れる。そして、圧迫症状を引き起こすほど巨大なこともある。99m-Tcシンチや123-Iシンチをすると、“ホット”結節(機能性結節)として描出される。特に、触診で触れない小さな腺腫では有用である。多結節性甲状腺腫の患者では、大抵の場合、数年前から甲状腺の腫れに気付いていることが多く、場合によっては甲状腺の手術を受けていることもある。10歳代後半から20歳代には、単純性甲状腺腫またはびまん性甲状腺腫と診断されている患者が、40歳くらいになると多結節性甲状腺腫になる傾向がある。甲状腺腫が大きくなるにつれて、甲状腺ホルモンを自律性に産生している結節が大きくなるにつれ、数も増えるにつれて、潜在性甲状腺機能亢進症や顕性甲状腺機能亢進症の頻度が増す(2)

甲状腺疾患の家族歴があるとき、インスリン依存性糖尿病、白斑、悪性貧血、重症筋無力症、アジソン病などの自己免疫疾患を持っているとき、びまん性甲状腺腫、甲状腺眼症、前脛骨粘液水腫がみられるときには、バセドウ病の可能性がある。放射性ヨードによるシンチでは、甲状腺に全体的に取り込みがあり、正常者のパターンに似ていることもある。臨床症状の如何にかかわらず、TSHレセプター抗体が陽性であれば、バセドウ病の診断はできる。しかし、測定系にもよるが(3)、バセドウ病の5〜20%でTSHレセプター抗体が陰性である。バセドウ病で潜在性甲状腺機能亢進症を示す多くの症例で、TSHレセプター抗体は陽性を示す。

戦略と事実
スクリーニング
症状がわずかかもしくは症状がみられない患者に対するスクリーニングの是非は、最近のNEJMに掲載された(4)。高齢者、特に女性で見逃されている甲状腺機能低下症の頻度は高いので、アメリカ甲状腺学会は成人に対してTSHでスクリーニングをすることを勧めている(5)。入院患者では、甲状腺機能検査は通常検査になってきている。そのようなスクリーニングを行なえば、頻度としては低いが、抑制されたTSH値と正常なT3、T4値を示す患者を必然的に見出すことができる。ある英国で行なわれた研究では、外来を受診した甲状腺ホルモンを服用していない1,210人の患者のうち、16人(1.3%)でTSH値が抑制されていた(6)。一年間経過観察したところ、たった一人が甲状腺機能亢進症になったのみで、2人はTSH値は正常になった。一過性の重症疾患のせいや薬物のせいで、TSH値が抑制されていたのかもしれない。多結節性甲状腺腫では、潜在性甲状腺機能亢進症から顕性甲状腺機能亢進症になる確率は年5%である(7)。ヨード欠乏地域でヨード補給をした場合やアミオダロン<注釈:商品名、アンカロン>のようなヨードを含有している薬剤を投与されていると、その頻度は高くなる。バセドウ病では、再発、寛解を繰り返したり、甲状腺機能低下症に陥る症例があり、長期間かけて顕性甲状腺機能亢進症に進展することは希である。

スクリーニングや甲状腺腫の精査で潜在性甲状腺機能亢進症が見つかった場合、治療すべきであろうか?定期的な検査は別として、潜在性甲状腺機能亢進症の治療は基本的には顕性甲状腺機能亢進症の治療と同じである。抗甲状腺剤の投与(バセドウ病の場合のみ)か放射性ヨード治療である。潜在性甲状腺機能亢進症では、放射性ヨード摂取率が顕性甲状腺機能亢進症のそれと比べて、低い傾向にある。しかし、顕性甲状腺機能亢進症に比べて、潜在性甲状腺機能亢進症が放射性ヨード治療が効きにくいという証拠はない。縦隔を圧迫するくらい巨大な多結節性甲状腺腫の場合には、手術をすることもある。潜在性甲状腺機能亢進症を治療する理由のひとつに顕性甲状腺機能亢進症への進展の予防がある。心房細動の予防、骨粗しょう症の予防なども治療による利益かもしれないが、その予防効果はどれくらいのものであろうか?
心房細動
潜在性甲状腺機能亢進症が心房細動の危険因子であることを示す証拠は、フラミンガム研究(8)から得られた結果である。60歳以上の2007人を10年間経過観察して、観察開始時の血清TSH値と心房細動の関連について検討した。観察開始時の血清TSH値が0.1mU/L未満であった61名のうち、10年後に13名が心房細動になった。この13名のうち、サイロキシン治療を受けていたのが何人かは記載がない。観察開始時の血清TSH値が0.1mU/L未満であった61名の心房細動になる危険率は観察開始時の血清TSH値が正常(0.4〜5.0mU/L)であった群に比べて、3.1倍高かった。サイロキシンを服用している患者を除外しても、その危険率は同じであった。低いが測定可能なTSH値の群(0.1〜0.4mU/L)では、心房細動になる危険率は観察開始時の血清TSH値が正常(0.4〜5.0mU/L)であった群と変わりなかった。

抗甲状腺治療によって心房細動になるリスクを一般の人と同じ頻度に下げることができると仮定して、一例の心房細動を予防するのに4.2人の潜在性甲状腺機能亢進症患者を治療する必要がある(9)。抗甲状腺治療によって血中TSH値が正常になったら、潜在性甲状腺機能亢進症患者を持つ患者の心房細動が、自然にまたはDCカウンターによって治るという証拠は限られた研究で観察されているにすぎない(10)

甲状腺ホルモンが高くて症状がある時期の心房細動は、一般的には全身の血栓症の危険因子と考えられているが、報告されている血栓症の頻度は無視できるくらい低いものから40%までと様々である。あまりに極端に違いすぎるので、実際臨床の場で、その結果は反映されない。それらの研究は正確な甲状腺機能検査ができない頃の研究であり、また甲状腺機能亢進症の早期診断が今ほど早くできなかったので、たとえ血栓症の危険率が10%であるとしても過大評価と思える。しかしながら、今までの研究成果から弁膜症とは関係ない心房細動を持つ患者において甲状腺機能亢進症で心房細動を持つ患者は、心房細動を持たない甲状腺機能亢進症患者に比べて、血栓症になる危険性が高いことが示唆される。潜在性甲状腺機能亢進症患者を持つ患者の心房細動が、血栓症の危険性を増すかどうかは分かっていない。
骨粗鬆症
明らかな甲状腺機能亢進症は骨粗鬆症のリスク因子である。しかし、潜在性甲状腺機能亢進症が骨粗鬆症のリスク因子であるかどうかは不明である。抗甲状腺剤の治療で甲状腺ホルモンが正常になっても、血清TSH値が抑制されていると、バセドウ病の特徴である骨の破壊は持続してみられる(12)。多結節性甲状腺腫による潜在性甲状腺機能亢進症患者を対象とした2つの研究で、年齢を一致させた正常者に比べて、大腿骨骨頭および橈骨の骨量が有意に減少していることがわかった(13,14)。この骨量の減少が骨折と関連しているかどうかは、今のところ不明である。もっと印象的な研究は、多結節性甲状腺腫による潜在性甲状腺機能亢進症を持つ閉経後の女性は年2%骨量が減少するが、甲状腺機能亢進症を治療して血清TSH値を正常にすると、骨量の減少は抑えられると報告している(15,16)

多数例の閉経後女性を対象とした分析では、甲状腺ホルモン剤服用による潜在性甲状腺機能亢進症になっている患者は甲状腺機能正常の人に比べて、骨が弱りやすいことが示唆されている(17)。しかし、閉経前の女性で甲状腺ホルモン剤を投与されていて、血清TSH値が正常な患者でも同じように骨量が減少している結果が出たために、これらの結果の妥当性は疑問視されている。さらに、甲状腺機能亢進症の既往を持つ患者を除外すると、甲状腺ホルモン剤を服用している高齢女性で報告されている骨折の危険性はみられなくなる(18)。ゆえに、甲状腺ホルモン剤服用による潜在性甲状腺機能亢進症が骨粗鬆症の危険因子であるという結論には至らない(19,20)
考慮すべき他の事柄
甲状腺ホルモン剤服用による潜在性甲状腺機能亢進症やバセドウ病、多結節性甲状腺腫による潜在性甲状腺機能亢進症が他の異常も引き起こしてくる。多結節性甲状腺腫による潜在性甲状腺機能亢進症患者で、左心室重量の増加、収縮期機能の増加、拡張期機能の障害がみられるという報告があるが、これらの変化が患者に実際どれくらい影響を与えているのかは分かっていない(21)。それらの患者に質問状を出して検討したところ、多結節性甲状腺腫による潜在性甲状腺機能亢進症患者では、生活の質が損なわれていると報告している(21)。血清TSH値を正常化すれば、これらの異常が改善されるのかどうかは分かっていない。最近の研究によると、55歳以上のバセドウ病、多結節性甲状腺腫による潜在性甲状腺機能亢進症患者では(特に、抗TPO抗体陽性例で)、痴呆やアルツハイマー病になりやすいことが分かった(22)。しかし、この研究は追試が必要である。

サイロキシンによるTSH抑制療法を長期間受けている患者では、心機能の予備能や最大心能力の低下がみられると報告されている(23)。しかし、このような異常はサイロキシンを減量することで(減量しても、まだ潜在性甲状腺機能亢進症の状態ではあるが)、改善する(24)。サイロキシンによるTSH抑制療法を短期間受けている患者での検討では、夜間の心拍数の増加や日中の尿中ナトリウム排泄量と夜間の尿中ナトリウム排泄量の比の変化などがみられる。これらの変化は症状のある甲状腺機能亢進症でみられるのと同じ異常であるが、この異常は長期間は持続しないように思われる(26)

現在、分かっていない分野
潜在性甲状腺機能亢進症の自然経過は今だに不明である。さらに、甲状腺ホルモン剤服用による潜在性甲状腺機能亢進症やバセドウ病、多結節性甲状腺腫による潜在性甲状腺機能亢進症が心房細動や骨粗鬆症の危険因子であるという証拠は確定したものではない。しかし、もし最も軽い甲状腺機能亢進症において、甲状腺機能亢進症の症状がたとえあったとしてもわずかか、まったくなかったならば、それは驚くべきことである。軽い甲状腺機能亢進症が持続してあれば、また患者の年令が高齢で、骨量減少や心臓に悪影響を与えるために、心房細動や骨粗鬆症は多結節性甲状腺腫を持つ患者でよくみられる。

潜在性甲状腺機能亢進症という言葉の意味の解釈でも混乱を招いている。潜在性甲状腺機能亢進症はときどき甲状腺ホルモン剤で治療中にT4が高い症例に対しても使われている。研究対象として、幅広い甲状腺機能を持つ患者を含んでいるために、結果が一致しないのかもしれない。

ガイドライン
1995年に米国甲状腺学会が甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症の治療に関してガイドライン(27)を発表したが、その際、潜在性甲状腺機能亢進症については述べていない。しかし、米国甲状腺学会は甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモン補充療法を受けている場合には、血清T4とTSHを正常にするように補充量を決めるように勧告している(28)。1996年に王立ロンドン内科医会(29)が、1998年に米国内科医会(9)が潜在性甲状腺機能亢進症は診断、治療の必要がないと結論を出した。米国内科医会のガイドラインは主要な論文の統計解析に基づくものである。一方、米国臨床内分泌医学会は甲状腺腫を持つ潜在性甲状腺機能亢進症に対しては、治療をすべきであるとの立場である(30)

勧 告
甲状腺疾患の症状がない場合、放射性ヨード摂取率やシンチ検査、TSHレセプター抗体検査をした後でさえ、甲状腺機能検査で得られた結果が非甲状腺疾患やそのとき服用している薬剤によるものなのか、自律性をもった甲状腺機能によるものなのか、甲状腺炎の初期のものなのかどうかを診断するのは難しいこともある。そのような場合には、甲状腺機能検査は8週間後に再検すべきである。血清TSH値が正常もしくは増加していたら、非甲状腺疾患の回復期か甲状腺炎の甲状腺機能低下期のどちらかである。もし血清TSH値が抑制されたままなら、抗甲状腺剤による治療を開始するか定期的な経過観察をすべきである。
甲状腺ホルモン剤服用による潜在性甲状腺機能亢進症
血清TSH値を抑制することが望ましい甲状腺癌術後の症例を除いて、甲状腺ホルモン剤服用による潜在性甲状腺機能亢進症がある場合には、血清TSH値を正常に保つサイロキシンの投与量に減量すべきである。サイロキシンの投与量は丁度良い量に即、下げても問題ない。例えば、サイロキシン0.25mg/日を服用中で、甲状腺機能亢進症の症状があって血清FT4とFT3が高値なら、サイロキシン0.15mg/日に減量し、次回来院時に甲状腺機能検査を再検するのが適切である。サイロキシンを過剰投与されていた場合には、血清TSH値の抑制は6〜8週間、場合によってそれ以上続く。

ほとんどの患者は甲状腺機能が正常になったら調子が良くなるが、一部の患者では血清TSH 値が抑制されるサイロキシンを服用している方が調子が良いこともある(31)。過剰な甲状腺ホルモン剤投与にもかかわらず症状がない場合には(このような状態は甲状腺ホルモン剤を減量する正当な理由になる【表2】)、わたしは血清T3値が正常である限りはほんの少しの過剰投与は問題ないと考えている(29)
【表2】甲状腺ホルモン剤過剰投与による潜在性甲状腺機能亢進症患者における甲状腺ホルモン剤を減量する適応
  • 新しく出現した心房細動、狭心症、心不全
  • 骨量減少
  • 過小月経、無月経、不妊
  • 疲労感、便通回数増加、動悸などの非特異的な症状
  • T3値が正常上限
バセドウ病、多結節性甲状腺腫による潜在性甲状腺機能亢進症
甲状腺結節がみられず、過剰な甲状腺ホルモンによる合併症がないバセドウ病による潜在性甲状腺機能亢進症患者の多くは、治療の必要はない。しかし、甲状腺機能検査は6ヶ月毎に行うべきである。そうすれば、血清T4値が増加する前に血清T3値の増加を知ることができる。疲労感などの症状を持つ潜在性甲状腺機能亢進症患者に対しては、わたしは経験的に、まず少量のメルカゾール(5〜10mg/日)を6ヶ月間投与してみる。この治療が効くようなら、放射性ヨード治療を考慮する。妊娠を近い将来計画している女性を治療する場合には、プロピールチオウラシル<注釈:日本ではプロパジールまたはチウラジール>を一日100mgの方が好ましい。何故なら、妊娠中のメルカゾール投与は先天性頭皮欠損症という稀な疾患<注釈:これは頭皮の一部が欠損している先天性奇形のひとつで、軽いものは自然に頭皮で被われてくる。症例によっては皮膚移植を要すこともある。普通の分娩でも2000人に一人の割合でみられる外奇形である>との関連が指摘されているからである<注釈:メルカゾールと先天性頭皮欠損症との因果関係は証明されていないが、プロピールチオウラシルでは今までに報告がないので、妊婦にはまずプロピールチオウラシルを投与する方が望ましいというのが主流の考えである。ただ、メルカゾールを服用した妊婦で先天性頭皮欠損症を産んだ報告は、世界で今までにたった17例のみである。プロピールチオウラシルで副作用が出現すれば、メルカゾールを投与することになる>。妊娠中の甲状腺機能亢進症の治療はこの論文の範囲を越えているので、これ以上詳しくは書かないが、できる限り少量のプロピールチオウラシルでコントロールするために頻回に血液検査をする必要がある(32)<注釈:この筆者であるDr. Cooperが最近書いた本では、毎月、甲状腺ホルモンをチェックすることを勧めている>。潜在性甲状腺機能亢進症のために心房細動や骨粗鬆症になっている高齢者では、放射性ヨード治療が一番適している。

多結節性甲状腺腫による潜在性甲状腺機能亢進症に対する治療は、放置すれば顕性甲状腺機能亢進症になる可能性が高いので、治療することが正当化されている。冒頭に提示された患者は、甲状腺腫と心房細動を持っており、この二つとも治療を正当化するものである。心房細動のある潜在性甲状腺機能亢進症患者に対しては、私はまず血清TSHをできるだけ早く正常域に持っていくためにメルカゾールのような抗甲状腺剤を投与する。心房細動のある甲状腺機能亢進症患者に対して、ワーファリンが血栓の予防の役目をするかどうかのコントロール研究はされていないが、私は全身性血栓症を予防するためにワーファリンを一緒に投与する。甲状腺機能亢進症患者や潜在性甲状腺機能亢進症患者では、ワーファリンの抗凝固作用が増強される可能性があるので(潜在性甲状腺機能亢進症患者では、程度は軽いと思うが)、ワーファリンの投与量は注意深く決めなければいけない。もし、血清TSH値が正常になって4ヶ月経っても、心房細動が持続している場合には、DCカウンターで治療すべきである(33)。最終的には、放射性ヨード治療で治すことになるであろう。提示症例や同じような症例ではこのアプローチが正当かされるのにはいくつかの理由がある。1]潜在性甲状腺機能亢進症が骨粗鬆症を引き起こすリスクがある。2]多結節性甲状腺腫による潜在性甲状腺機能亢進症に対する放射性ヨード治療は甲状腺機能低下症になりにくい(私の病院では一年後に6%が甲状腺機能低下症になるのに対して、バセドウ病では75%が甲状腺機能低下症になる)、3]もし経過観察を選択し、治療をしない場合、症状が悪化したり患者が来院しなくなる可能性がある、4]1〜2年後には甲状腺腫が半分以下に縮小し、美容的にも利益がある(34,35)

. Dr.Tajiri's comment . .
. 潜在性甲状腺機能亢進症は潜在性甲状腺機能低下症から比べると、頻度は低いかもしれません。しかし、甲状腺ホルモン剤を過剰に飲んでいる人は多いのではないでしょうか。そのような患者さんに対して、どのように対処したらいいかを説明してくれています。高齢者は合併症が出やすいので、潜在性甲状腺機能亢進症に対して、積極的に治療をしたほうがいいようです。また、最近、60歳以上の潜在性甲状腺機能亢進症を持つ患者では、心血管系の病気で死亡する危険性が高いという論文が発表されました(Lancet 358; 861-865, 2001)

潜在性甲状腺機能亢進症については以下を参考にしてください。
潜在性甲状腺機能亢進症は治療すべきである
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参考文献]・[もどる