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甲状腺シンチのお話
田尻淳一 田尻クリニック 熊本

はじめに
甲状腺シンチという言葉を聞いたことがありますか?甲状腺の病気を診断する上で必要な検査です。ただ、甲状腺ホルモン検査や甲状腺自己抗体のように血液さえ採取すれば、どこでもできる検査と違い、特別な施設を必要とします。甲状腺シンチは、放射性同位元素を使う検査です。みなさんがよく耳にするのは、放射性ヨードです。甲状腺シンチ検査には、主に123I(放射性ヨード-123)が使用されます。131I(放射性ヨード-131)が使われることもあります。その他、テクネシウム(99mTc)やタリウム(201Tl)という放射性同位元素が使用されることもあります。未分化癌悪性リンパ腫には、ガリウム(67Ga)という放射性同位元素が使用されます。

上記の放射性同位元素を投与して、一定時間後にガンマカメラという機械で甲状腺部分の撮影をします。甲状腺部に取り込まれた放射性同位元素をガンマカメラにあるコリメータという部分で測定して画像を撮影するわけです。この画像が、シンチと呼ばれるものです<注釈:正式には検査をシンチグラフィ、画像をシンチグラムといいますが、ここではどちらもシンチという言葉で表現します>。甲状腺のはたらきや形をみる検査です。

今回の患者情報では、甲状腺シンチに主に使われる放射性同位元素について説明します。

123I(放射性ヨード-123)シンチ
基本的にはヨードに微量の放射能がくっついていますので、ヨードを沢山摂っていると甲状腺に放射性ヨードが取り込まれなくなります。そのために、検査の1週間前からヨードを控えてもらいます。甲状腺ホルモン剤も中止します。甲状腺ホルモン剤は、できれば1ヶ月前から中止します。

検査の前にカプセルを飲みます。カプセルの色はオレンジ色です。カプセル自体は小さなものです。水と一緒に飲んでもらいます。一般的には、服用してから3時間後か24時間後に撮影をします。半減期<注釈:放射線量が半分になるのに要する時間>は、13時間です。
実際の像
【図1】
検査の目的
甲状腺のはたらきをみたり、甲状腺の形をみます。バセドウ病では甲状腺全体に放射性ヨードの取り込みがみられます。放射性ヨード摂取率試験を併用すれば、無痛性甲状腺炎との鑑別が簡単にできます。また、甲状腺結節が過剰に甲状腺ホルモンを作っている(機能性結節:ホット結節と呼びます)とか、結節が甲状腺ホルモンを作っていない(コールド結節と呼びます)などが分かります。先天性の甲状腺異常である異所性甲状腺も分かります。

131I(放射性ヨード-131)シンチ
カプセル服用前の注意事項は、基本的には123Iシンチと同じです。131Iシンチは、バセドウ病の診断にも使われますが、甲状腺癌術後の再発や転移の検査に使われることが多いです。半減期は、8日です。
実際の像
【図2】
【図3】
検査の目的
甲状腺癌術後の再発や転移をみつけるために行われます。最近は、131Iシンチの感度を上げるために遺伝子工学で作られたTSHを131I投与前に注射する方法が行われてきています。この方法の利点は、甲状腺ホルモン剤を中止しないで131Iシンチができることです。甲状腺ホルモン剤を1ヶ月間中止すると甲状腺機能低下症の症状が出て、高齢者にはしんどい検査です。このような症例には、福音になると思います。

テクネシウム(99mTc)シンチ
この検査の利点は、ヨード制限が不要であること、甲状腺ホルモン剤を服用しながら検査ができることです。もう一つの利点は注射後20分で撮影ができるので、時間がかからないことです。欠点は、静脈注射をしなければいけないことでしょうか。半減期が6時間と短いことも利点です。
実際の像
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
検査の目的
検査の目的は、123Iシンチと同じです。ただ、ヨードと違って、テクネシウムは甲状腺ホルモンの原料ではないので123Iシンチの像と異なることがあります。

タリウム(201Tl)シンチ
甲状腺分化癌(乳頭癌、濾胞癌)に取り込まれます。全身シンチで甲状腺癌の遠隔転移(肺、骨)も分かります。この検査も利点は、ヨード制限が不要であること、甲状腺ホルモン剤を服用しながら検査ができることです。半減期は、73時間です。この検査も静脈注射でタリウム(201Tl)を投与します。実際には、注射後10分(早期)と2時間後(後期)に撮影します。タリウム(201Tl)は、良性腫瘍にも取り込むため早期と後期で比較します。甲状腺分化癌(乳頭癌、濾胞癌)の場合、後期まで取り込みが残ります。良性の場合は、後期には取り込みがなくなります。
実際の像
【図14】
【図15】
検査の目的
甲状腺癌の診断には使われなくなってきています。甲状腺分化癌(乳頭癌、濾胞癌)の遠隔転移や甲状腺癌が縦隔に転移している場合は、タリウム(201Tl)が取り込まれます。

ガリウム(67Ga)シンチ
悪性リンパ腫や未分化癌に取り込まれます。半減期は78時間です。静脈注射でガリウム(67Ga)を投与します。実際には、注射後72時間後に撮影します。ガリウム(67Ga)は腸管に出るために、検査前日に下剤を飲まなければなりません。また、慢性甲状腺炎や炎症でも取り込みますので、注意を要します。
実際の像
【図16】
【図17】
検査の目的
悪性リンパ腫や未分化癌を診断する場合、使われます。

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