ストレスとバセドウ病の関連については、今までにいくつかの研究がなされているが、未だに結論は出ていない。ポルトガルのMatos-SantosらはClinical
Endocrinologyにて、ストレスの数および強さとバセドウ病、中毒性結節性甲状腺腫<注釈:シコリが甲状腺ホルモンを過剰に産生する病気で、単発性中毒性甲状腺結節と中毒性多結節性甲状腺腫がある>の発症の関連について報告している(Clinical
Endocrinology 55; 15-19, 2001)。彼らの研究の新しいところは、バセドウ病以外の甲状腺機能亢進症、すなわち自己免疫が関与していない中毒性結節性甲状腺腫とストレスの関連について検討した点である。
結論は、バセドウ病の発症とストレスは関与していたが、中毒性結節性甲状腺腫の発症とストレスの間には関連はみられなかった。自己免疫と関係ない中毒性結節性甲状腺腫では、発症とストレスの間には関連がなかったことを考えると、ストレスによって免疫機構に何らかの異常がでて、それがバセドウ病の発症と関与していると想像できる。
古来より、強いストレスである戦争が引き金になってバセドウ病患者が増加することは知られていた。これを「戦争バセドウ病」と呼んでいた。最近では、湾岸戦争のときにアメリカ大統領のブッシュがバセドウ病になったのは有名な話である。日本に目を向ければ、故・田中角栄内閣総理大臣もバセドウ病であった。政治家というストレスの強い職業がバセドウ病の引き金になったのかもしれない。最近では、その娘の田中真紀子・前外務大臣がバセドウ病ではないかと報道した週刊誌もある。それが真実なら、官僚との確執が強いストレスとなり、バセドウ病が発症したのかもしれない。
人生の出来事で、悲しいものの代表は離婚、仕事の充実感の欠乏があげられる。HolmesとRaheは病気の発病に重要と思われる生活事件(life events)を調べた。43項目の生活事件を抽出し、そのストレスに及ぼす強度を生活変化単位値(life
change units value; LCU)として、客観的に評価できるようにした(J Psychosom Med
11: 213-218, 1967)。これを社会適応スケールといい、【表】に示す。過去1年間のLCU合計が165〜199、200〜299、300以上ではそれぞれその37%、51%、79%の人に身体疾患、心身症や精神疾患が発症したと報告している。
ストレスがホルモン系や免疫系に何らかの異常をもたらせて病気を引き起こしていることは想像できるが、まだ確証は見つかっていない。将来の研究成果に期待したい。 |