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東京・伊藤病院から、「メルカゾール(MMI)の関与を否定し得たMMI長期投与後発症の無顆粒球症(agra)の2例」という演題で報告があった。まず、彼らが報告をするにいたった経緯を説明しておきます。教科書的には、また実際診療においても抗甲状腺剤による無顆粒球症<注釈:顆粒球数500/mm3以下を無顆粒球症と定義します>は抗甲状腺剤服用後2〜3ヶ月以内に起こると理解されています。最近、厚生省からの副作用情報でメルカゾール長期投予後にも無顆粒球症が発症するという報告がなされた。しかし、この情報に関して引用文献がなく、どの論文を根拠にしているのか分からない。でも、このように厚生省からの通達となれば、御旗のもとにこの情報が一人歩きを始める可能性があり、個人的には危惧を隠せません。伊藤病院の医師たちも同じ考えを抱いたと思います。そこで今回の症例報告を行うことで、そのような情報に警鐘を鳴らしたのだと思います。 |
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45歳男性。平成6年7月、バセドウ病と診断されメルカゾールにて加療し寛解、再発を繰り返していた。平成12年5月、近医にて顆粒球と血小板の減少を指摘されメルカゾールからPTUに変更されたが、嘔吐出現するため当院紹介となった。入院時、白血球数3,760/mm3、顆粒球数1,278/mm3。メルカゾール30mg/日、プレドニン30mg/日の投与を行ったが、6日後、白血球数4,220/mm3、顆粒球数886/mm3。8日後、白血球数3,750/mm3、顆粒球数637/mm3に減少したためメルカゾール中止、RI治療となった。その後、狭心症発作が頻発し、メルカゾールの再開を余儀なくされた。投与開始時、白血球数4,890/mm3、顆粒球数1956/mm3であったが、その後メルカゾール45mg投与にも拘らず、3日後に白血球数2,900/mm3、顆粒球数1,305/mm3まで低下した後、白血球数4,800mm3、顆粒球数1,680/mm3まで上昇を認めた。 |
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昭和62年3月、当院受診。バセドウ病の診断にてメルカゾール開始となるが6月に自己中止。平成1年6月MMIを再開。平成3年2月23日より45mg/日に増量したところ3月19日より発熱と咽頭痛を認め、近医入院。扁桃炎の治療を受け改善を見るも3月25日、白血球数1,100/mm3、顆粒球数77/mm3と無顆粒球症の診断により4月2日当院転院となった。この間、前医にてメルカゾールの投与は継続されていたが、転院時、白血球数3,700/mm3、顆粒球数851/mm3まで改善、骨髄穿刺では正常骨髄であったため、メルカゾールの投与を継続した後、甲状腺亜全摘術を施行した。 |
この2症例の経験から、彼らは「伊藤病院では、4ヶ月以上MMIを継続投与したバセドウ病患者で無顆粒球症を発症した例は経験がない」と述べている。結論として、「長期間メルカゾール内服後に無顆粒球症を発症した場合、その病因に関しては慎重に検討する必要があると考えられた」と締めくくっている。 |
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