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T3+T4併用療法は有効な治療法か?
田尻淳一 田尻クリニック 熊本

一部の研究者は、甲状腺機能低下症に対してT3+T4併用療法の有用性を主張しています。このサイトでも、T3+T4併用療法の有用性を述べている論文を、更に詳しい情報[019]で紹介しています。その後、同じグループからT3+T4併用療法の有用性を支持する論文は出ていないし、別の研究グループの追試も発表されていませんでした。しかし、最新の米国内分泌学会雑誌(JCEM)にT3+T4併用療法は効かないという論文が同時に2つの研究グループから出ました。一つはアメリカの研究グループ(JCEM 88: 4551-4555, 2003)から、もう一つはオーストラリアの研究グループ(JCEM 88: 4543-4550, 2003)からです。2つとも、二重盲検無作為対照試験という一番信頼性のある研究法での結果です。更に詳しい情報[019]で紹介した論文も同様の信頼性の高い研究法での結果です。さて、正反対の結果が出たわけです。どちらが正しいかは、今後、多くの同じような研究結果が発表されるまで、結論はおあずけになります。今回のJCEMの論文が出たからといって、T3+T4併用療法を行ってはいけないというわけでもありません。

従来から、T3+T4併用療法の有用性を強調してきたメアリー・ショーモンは、すぐに反論を述べています。彼女のホームページを一度、ご覧になると参考になると思います。最近は、ホームページ上で英語を日本語に翻訳してくれるソフトもありますので、便利になりました。ただ、翻訳能力は問題がありますが…。大体の内容が分かればいいのではないでしょうか。現在、彼女のホームページは、T3+T4併用療法擁護のキャンペーン中という様相を呈しています。例え話として、昔、アメリカへ移住してきた人々は、トマトは有毒なナス科の植物であると信じ込んでいて、決してトマトは食べなかったそうです。当時、トマトはヨーロッパに輸入され、特にイタリアではよくソースの材料として使われていた事実があるにもかかわらず、ヨーロッパからの移住民たちは「トマトは有毒なナス科の植物である」と信じ込んでいたために長い間、トマトを食べなかったそうです。これを「トマト効果」と呼ぶそうです。「トマト効果」の出典は、1984年のアメリカ医師会雑誌(JAMA)に掲載された『トマト効果:非常に有用な治療法の拒否』という論文です(Goodwin JS. The tomato effect. Rejection of highly efficacious therapies. JAMA 1984; 251(18): 2387-90.)。T3を使用することもトマトと同じで、多くの人がT3+T4併用療法で恩恵を受けている事実には目を向けないで、従来のやり方を正当化しようとしていると述べています。実際に、T3+T4併用療法で調子が良くなった患者の報告もあるので、今回の研究結果からT3+T4併用療法が有効ではないと結論付けるのは、早計かもしれません。もっと多くのデータが出てきてから結論が出ると思われます。現時点では、まだ結論が出ていないと判断するのが妥当と考えます。

わたしも2人の甲状腺機能低下症の人にT3+T4併用療法を行いました。一人は、症状も消失し、よく効きました。もう一人は、効果がみられず、元のチラーヂンSだけに戻しました。二人とも、患者自身がT3+T4併用療法をして欲しいと希望しました。最近は、いろんな情報が入ってくるためT3+T4併用療法を試したいと思われたのでしょう。私自身は、T3+T4併用療法が有効なのかどうかは分かりません。ただ、T3+T4併用療法が有効であると主張している研究者がいるので、有効例もあるのではないかと感じている程度です。T3を追加することは、別に危険ではないので、患者が希望したらT3+T4併用療法を行ってもいいというスタンスです。T3+T4併用療法を拒む根拠もないからです。T3+T4併用療法を試みて、効果がなければ患者も納得がいくと思うのです。しかし、ここで知っておいて欲しいのは、わたしが診ている患者さんの多くはT4(チラーヂンS)のみで、特に問題はありません。

現実問題として、多くの甲状腺専門医はT3+T4併用療法が有効だとは考えていません。これは、アメリカでも日本でも同じだと思います。甲状腺機能低下症の治療にはチラーヂンS(T4)を使います。T4は体内でゆっくりとT3に変換されますので、T3を服用しなくてもいいわけです。最近、イギリスで行われた多数の人を対象とした研究で、血清TSHが正常である甲状腺機能低下症患者100人のうち13人が健康であると感じていないことが分かりました(Clin Endocrinol (Oxf) 57: 577-585, 2002)。この研究の患者は、すべてT4 のみで治療されていました。健康であると感じていない原因は、T4治療そのものである可能性が示唆されます。このような甲状腺機能低下症患者にT3+T4併用療法を行うと健康感を取り戻すかもしれません。

現在、チラーヂンSを服用していて、血清TSHが正常にもかかわらず、体調が悪い場合は、主治医の先生にT3+T4併用療法をしていただくようにお願いすると良いかもしれません。先生には更に詳しい情報[019]をコピーしてみせると良いでしょう。

. Dr.Tajiri's comment . .
. T3+T4併用療法については、現在、賛否両論があります。個人的に感じるのは、治療法というのは全員に当てはまるのではなく、個人差もあると思うのです。ですから、T3+T4併用療法も、全員に有効か無効かの議論ではなく、T3+T4併用療法が有効な症例がいるかどうかが知りたいのです。自分の経験から、T3+T4併併用療法が効く症例は確かに存在します。チラーヂンSで治療している甲状腺機能低下症の患者で、血清TSHが正常なのに症状を訴える患者にはT3+T4併用療法を試みてもいいのではないかと考えるようになっています。あくまでも、症例を選んでですが。

T3+T4併用療法については以下を参考にしてください。
クリスチンの話
新しいT4/T3のプロトコール:“すっかり具合がよくなった”
T3併用療法
国際甲状腺連盟(TFI)ニュースレター【ThyroWorld】の抜粋<2>
甲状腺ホルモン補充療法:1つのホルモンが良いのか?2つのホルモンが良いのか?[論説]
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