情報源 > 書籍の翻訳[D]甲状腺の悩みに答える本
<第4部・第17章>
第4部<第17章>
新しいT4/T3のプロトコール:“すっかり具合がよくなった”
2〜3年前、友人宅のクリスマスパーティーに招かれました。アランとは数年前からの知り合いでしたが、奥さんのジェニファーとは会ったことはありませんでした。パーティーに着くと私はすぐにジェニファーの目が見開いたようになっており、活動し過ぎの甲状腺の病気であるバセドウ病の症状を示していることに気付きました。彼女は目が飛び出しているだけではなく、落ち込んで孤立しているようにも見えました。彼女は他の人とすぐ打ち解けることもなく、その夜はたびたび夫に噛み付いていました。このパーティーに出なければならないのが嫌でたまらないのは誰の目にも明らかでした。
後になって、アランからジェニファーが2年前にバセドウ病の診断を受けていたことを知らされました。彼女が医師の助けを求める気になったのは、怒りや極度の不安、そして激しい気分の変動のためでした。このために結婚生活は破綻寸前だったのです。
アランは彼女が甲状腺の病気の治療を受けた後も、感情的な問題は完全に消えていないとも言いました。事実、彼女が“自分自身”に戻ることは決してなかったのです。活動し過ぎの甲状腺の治療の結果、ジェニファーは甲状腺機能低下症になり、合成サイロキシン(T4)による甲状腺ホルモン治療を受けていました。数人の医師が彼女に甲状腺ホルモンレベルは正常であり、これ以上できることは何もないと言っておりました。中にはカウンセラーのところに行くよう勧めた医師もおりました。ジェニファーは抗うつ剤による治療を受けて見ましたが、3ヶ月経っても気分にそれほど変化がないために薬を止めました。
後で、私がジェニファーの治療を引き継いでから、甲状腺の病気が原因で起こった脳内化学物質のバランスの乱れを治す画期的な治療プログラムを通じて、彼女は徐々に正常に戻っていきました。このプログラムにはリラクゼーションテクニックも含まれますが、もっと大切なのは、彼女の甲状腺ホルモン治療の性質を大きく変えたことです。つまり、T4だけを含む薬を使う方法から、私が考案した合成T4(レボサイロキシン)ともっとも効力が高く、生物学的に活性であるタイプの甲状腺ホルモン、T3を組み合わせるプロトコール(投薬治療法)に変えたのです。このプロトコールは、理由が何であれ、不活発な甲状腺になり、甲状腺ホルモン治療を必要とする多くの人にきわめて有望な治療法であると信じております。私はこの新しいT4/T3治療を甲状腺機能低下症の最先端の治療であり、現在いちばん広く受け入れられている医学的アプローチ、すなわちその一部が脳を含む体内臓器内でT3に変換されるT4を処方する(1)という方法に取って代るものと思っています。
ジェニファーは私にこう言いました。「私みたいな女性がたくさんいると思います。有効な治療法があることを知らないまま、毎日病気と向かい合っていかなくてはならない人が。そして、甲状腺の病気で性格がすっかり変わってしまうだけでなく、姿形も変わってしまうのでとても惨めなんです。それが今の社会ではどんなにつらいことか」
雲が晴れた  
ジェニファーが述べた症状から、内分泌腺疾患に罹っている間、彼女がまったく自分らしくない気分や感情の不快な乱れを経験してきたのは明らかです。
ジェニファーは最近次のようなことを話してくれました。
新しいT4/T3治療を始める前、いつも生涯ずっとこんな風なんだろうか?と思っていました。でも、薬を飲み始めてからというもの、雲が晴れました。また物事を頭の中で、いつも通り、素早く処理できるようになりました。そうですね、私の症状の95%はよくなりました。手足のジンジンした痛みも前ほどひどくはありません。また、以前よりむくまないようになりました。エネルギーも増しました。仕事にも戻りました。外向的になり、物事を明るく考えるようになりました。やっと自分自身を取り戻しつつあります。本当に具合がよく、希望が持てるようになったんです。
私が甲状腺疾患の分野で働き始めた時、不活発な甲状腺のある患者の治療における私の目標は、血液中の甲状腺ホルモンと甲状腺機能を司る脳下垂体ホルモンであるTSHのレベルを正常にし、それを維持することでした。私はまだ、この目標を達成したのに疲れや皮膚の乾燥、働けないこと、またそれ以外の症状を訴え続ける数え切れないほどの患者に直面した日々のことを覚えています。私はその訴えに対し、激しい調子で「その問題は甲状腺が原因ではありません」と答えていました。私はこれらのしつこい症状を不思議に思いましたが、自分ではちゃんとやるべきことはやったのだと考えていたのです。私は他に病気があるかさがしてみたのですが、ほとんどは無駄でした。私のいらだたしさはつのるばかりでした。そして、私は甲状腺機能低下症患者が私に期待していることにちゃんと答えたり、治療したりするだけの力がないのだと思ったのです。
その当時、医師が過剰な甲状腺ホルモンで治療を受けている人に起こる骨喪失や骨粗鬆症を心配し始めていました。初期の治療では、乾燥した動物の甲状腺を使っていました。それは天然のもので、両方の甲状腺ホルモン(T4とT3)を含んでいましたが、その成分が安定したレベルに達するほど、人間の化学物質と近いものではなかったのです(2)。その結果、T3の血中レベルがヒトの正常な血液中のレベルのパターンよりはるかに高くなることがしばしば起こりました。そのような患者は、著しい骨喪失を起こす危険にも曝されていたのです。当時の多くの医師がしたように、私も甲状腺機能低下症の最新治療に可能な限り切り替えました。これらの患者に乾燥甲状腺を止めさせ、合成T4に変えたのです。
驚いたことに、これで何もかもうまくいくことはめったになかったのです。天然のT4/T3の錠剤からT4の錠剤に変えてしまうと、患者は倦怠感や記憶力減退、集中力低下、そしてどこそこが悪いという症状を山程訴えたのです。血液中の甲状腺ホルモンとTSHのレベルが正常になったのにもかかわらず、そのようなことが起きたのです。実際のところ、私が患者にレボサイロキシンを飲み続けることを納得してもらえることはめったにありませんでした。皆が前飲んでいた錠剤に戻して欲しいと思っていたのです。
これらの観察所見から、私はすぐに不活発な甲状腺のある多くの患者では、T4/T3の併用療法が何らかの形の役割を果たしているに違いないということに気付いたのです。これは多くの医師が甲状腺機能低下症患者に乾燥甲状腺を処方し続けている理由ではないのでしょうか。これはリオトリックスのような合成T4とT3の合剤が長年にわたって製造されている理由ではないのでしょうか。しかし、これらの合剤は1970年代以降は、ほとんど使われておりません。これは主に血液中のT3レベルが異常に上がるためでもあります。レボサイロキシンで治療を受けた患者にないものは、少量ですがちょうどよい量、人間の甲状腺が作り出すのに近い量のT3です。
甲状腺機能低下症の治療にT3を加えることは、体や精神がこのいちばん効力の高い形の甲状腺ホルモンに依存しているため、効果があるのです。また、T3は脳細胞の中で作用する主要なホルモンの形でもあるのです。したがって、ほんのわずかなT3の欠乏であっても、その人の機能を損なう恐れがあります。この欠乏は甲状腺ホルモン補充療法でレボサイロキシンを飲んでいる多くの患者に存在していると思われます。しかし、ほんのちょっとT3が足りなくても症状が出ない人もいるのに、別の人では何らかの影響が出る場合があるというのも本当です。
製薬会社はこの2つのホルモンの合剤を作ろうとしてきましたが、まだ自然のものと同じものは出来ていません。ヒトでは、体が必要とするT3のうち20%は、直接甲状腺が作りだしています。正しい補充量は通常、脳下垂体が感知し、放出するもの(TSH)をモニターすることで判断されます。しかし、体内の甲状腺ホルモンの複雑な化学作用や制御機構についての理解が進むにつれ、脳下垂体や脳、そして他の臓器内での制御機構が幾分違うということがわかってきました。T4だけを与えることによって、医師は体内の甲状腺ホルモンレベルを正常にすることができると思われていました。でも、これはすべてのケースに当てはまるわけではないことが判明したのです。TSHを正常にするために、患者にT4だけを与えることにより、一部の人では、正常な場合は甲状腺から出る少量のT3がまだ足りないということになります。血液検査の結果が正常であり、臓器内でのT4からT3への転換を考慮に入れたとしても、T3の欠乏による何らかの形の脳内あるいは“全身的”な甲状腺機能低下症がまだ存在する可能性があります。正常なTSHレベルであるからといって、かならずしも脳や臓器が正しい量のT3を受け取っているとは限らないのです。明らかに、私が診ている甲状腺機能低下症患者の脳や体に足りないものをはっきりさせることが最大の関心事となりました。
私は、T3が抗うつ剤として作用することは知っていましたが、精神科医が従来使っていた量は生理学的な補充量をはるかに超えるものでした(<第6章>参照)。私は、治療を受けた甲状腺機能低下症患者にいつまでも続く苦しみには、2つの種類のうちどちらかであることが多いということも知っていました。多くの人は低代謝の症状に悩まされ続けます。そのような人はなかなかやせず、また脱毛や皮膚の乾燥、爪がもろくなること、筋肉のつりなど様々な身体的症状を訴えます。多くの人が程度の差こそあれうつ病に罹っています。これもおそらく脳内のT3がいくぶん低いためと思われます。ある程度までは、<第16章>で述べた長引く甲状腺ホルモンバランスの乱れの影響は、脳内のわずかなT3欠乏とは無関係であると思われます。
この一連の考え方により、T4治療を必要とするすべての患者、ジェニファーのようなバセドウ病患者や他の甲状腺の病気で甲状腺を手術で取ってしまった患者までをも同じ傘の元に入れることになったのです。治療の目的は、正常に機能するために脳や体が必要とするT3の量にできるだけ近付けることです。
T4と組み合わせるT3の正しい量を捜している間に、いちばん症状を軽くするのに必要な合成T3の量は、平均的な人で10マイクログラムであることがわかりました。この量は、実際にほとんどの人で正常な甲状腺が毎日作り出している量(6〜10マイクログラム)にきわめて近いものです。このプロトコールでは、患者をまずサイロキシンで治療します。患者の血中TSHレベルが正常になり、そこで安定するようになってから、サイロキシンを最初の量から37〜38マイクログラム減らして、その分を10マイクログラム(mcg)のT3に置き換えます。T3(商品名:サイトメル)は1日2回に分けて飲むようにします(朝に5マイクログラムのT3を新たに量を変えたサイロキシンと一緒に飲み、午後2時にまた5マイクログラム飲みます)。次の表に、私が自分のプロトコールで使っているいちばん普通の切り替えかたを載せています。
【表】
初めのサイロキシンの量
(マイクログラム)
サイトメル(5mcgを1日2回)と
一緒に飲むサイロキシンの新しい量
(マイクログラム)
88 50
100 62.5
112 75
125 88
137 100
150 112
ジェニファーを例に挙げますと、彼女は最初100マイクログラムのサイロキシンを飲んでいました。彼女の具合に著しい改善を見た新しい治療法では、サイロキシン62.5マイクログラム(125マイクログラム錠の半分)と5マイクログラムのサイトメルを1日2回飲んでいます。
この治療の組み合わせにより、甲状腺ホルモンレベルとTSHレベルのどちらも正常で安定した状態に保てるようになりました。苦しみ続けている人を治療するこの方法は、正常な甲状腺が体と脳に与えるものを厳密に真似ています。この変換を行ってから数週間後に再検査をしてみると、大抵の場合、脳下垂体由来のホルモンであるTSHを含むすべてのレベルが正常になっており、T3が異常なレベルに達することはありません。再検査を受ける時は、甲状腺ホルモン剤の朝飲む分を飲んでから2〜3時間後にT3とTSHのレベルを測ってもらうようにしなければなりません。
合成T3は、10マイクログラムの用量で、ほとんどの患者に、高用量のサイロキシンが必要な患者にさえも好ましい効果を上げることができます。ほんの時たまですが、最初に175マイクログラム以上のサイロキシンを必要とする患者では、10マイクログラムのT3を飲んでいても症状が続く場合、もっと高い用量のT3(例えば、5マイクログラムを1日3回)が必要になります。
また自分がきれいだと思えるようになりました  
エリンは44歳の女性で、何年も前に甲状腺機能低下症と診断されており、子宮切除術も受けておりました。T4の用量を何度となく合わせたのですが、彼女はどうしても自分の望むように具合がよくならなかったのです。彼女の症状は進んでいきました。そして、3年前にもはや動くことさえできない状態になったのです。彼女が疲労や集中力のトラブル、そしてそれ以外にも山程ある症状に悩み続けていたため、彼女の主治医は彼女の具合をよくしようと甲状腺ホルモン剤の量を増やし続けていました。エリンにはエネルギーがなく、手にジンジンした痛みがありました。医師はどうしてそうなのかわかりませんでした。
彼女が言うには
ある先生はどこも悪いところはないと言い続けました。先生は私が健康だと言うんです。本当はどうしたらよいかわからなかったんじゃないでしょうか。私はそれが何だかわかりませんでしたが、どこかものすごく悪いところがあるに違いないと思うようになりました。私は、自分の年から考えても、体や心がちゃんと働いていないことを感じることができたんです。
一度は、先生が低血糖だから、少量ずつ1日6回食べるようにしなさいと言ったんですが、それでも具合はよくなりませんでした。
甲状腺ホルモンバランスの乱れの長引く影響に苦しんでいるほとんどの患者と同じように、エリンは自分がうつ病かもしれないとは考えもしませんでした。しかし、私がエリンに彼女の症状について尋ねた際に、彼女はうつ病の症状のほとんどがあることを打ち明けたのです。彼女はとても怒りっぽくなっていました。「私には、人が『この新しいヘアスタイルはどう?』などといいうような単純なことをきくのさえたまらない時期がありました。似合っていようがいまいが素敵ですよと礼儀正しく言う代りに、『あら、あなたの顔には合わないわね』とか『ひどいわね、ちっともよく見えないわ』という類のことを言うのです。それから、私は自分の口から出たことに恥ずかしさを覚えるのです」
エリンはもう、うつ病や怒りに悩まされていません。彼女がT4/T3プロトコールを始めてから、身体症状はよくなりました。
彼女が言うには
今では前より幸福で、気分も安定しています。また生き返ったような感じです。元気も出てきましたし、怒りも感じません。落ち込んでいるなんて思えません。長いことできなかったんですが、他の人にもよくしてあげられるようになりました。しばらくの間、献身的につくすというようなことはできませんでした。でも、今では教会や社会奉仕の活動に積極的に関わっています。
主人との関係では、主人はこの変化をとても喜んでいます。私がまた元どおりになったからです。帰宅する主人を笑顔で迎え、その日起こったことを聞いてあげます。前は、そんなことすらできなかったんです。自分の問題で頭がいっぱいになっていて、主人のことなど考えられなかったんだと思います。また、前のように座って話をし、一緒に過ごすようになりました。
職場では、都合の悪い時に電話がなったり、予定通りに物事が進まない時でも腹を立てなくなりました。昔のようにいらいらしないんです。
このプロトコールの結果、治療を最初に始めた時点で、エリンは10ポンド(約4.5キロ)やせました。皮膚も滑らかになり、髪も抜けなくなりました。顔の腫れやむくんだ感じはなくなりました。 彼女はこう言っています。「鏡を見て、また自分がきれいだと思えるようになりました。この治療ですっかり人生が変わってしまいました」
T4だけでは効かない場合  
もう一人の患者、教師をしているプリシラの例で、ほんのわずかT3が足りないために認知力障害までも起こるということがわかりました。彼女の経験は、T4/T3治療が、甲状腺ホルモンバランスの乱れが原因で、今までうつ病や感情的問題を起したことがない人にさえ生じる症状を軽くするという事実をはっきり示すものです。彼女のケースは、正常な甲状腺が作り出し、脳や体に送り込まれるものの代りにサイロキシンを投与しても、自然の通りではないということもはっきり示しております。合成T4からT3の変換だけでは、脳下垂体のTSHが正常になった場合であっても、必要なT3が得られないのです。
プリシラは大きな甲状腺腫ができたために、甲状腺を全部取ってしまいました。甲状腺機能低下症になったのでT4を投与され、甲状腺ホルモンとTSHレベルは正常になりました。甲状腺切除の前、プリシラには何の症状もありませんでした。彼女は幸せで、元気一杯でした。しかし、手術の後、数週間経ってから問題が始まったのです。
彼女の話では
どうしても薬の量が違っているように思えました。ある先生は、私がうつ病に罹っていると考えました。その先生もちゃんと量を合わせてくれませんでした。もうよくなることはないんじゃないかと思いました。
私が間違いなく具合が悪いのに、どの先生もすべて正常だと言いました。髪が抜けていましたし、神経質になっていました。何か破滅的なことがしたくなりました。私は自分の頭がおかしいのだと思いました。
医師の診察を受けに車を運転して行くことさえ一苦労でした。ちゃんと道筋を書き留めておかなければ、どうやって行けばよいのか思い出すことができなかったんです。あるいは、主人が一緒でないとそうできないように思えました。前は誰にも頼らなくてよかったのに。注意力が散漫になり、何事にも集中することができませんでした。家の中でも、どれを捨ててどれを取っておくかを決めることすら困難でした。何もかもめちゃめちゃになったようでした。私は非常に混乱していました。
25年間教えてきましたが、どこにファイルを置いたかとか、次にやる予定だったのは何だったか思い出せないところまで来てしまいました。同僚にいらいらしたり、腹を立てたりするようになり、時々爆発しました。
甲状腺を取った後、プリシラの主治医は正常なTSHレベルにするのに必要なだけの量のT4を投与していました。しかし、血液検査は正常であるのにもかかわらず、彼女には活性型のホルモンであるT3が少し足りなかったのです。脳内のセロトニンレベルが低くなると起こるように、これもうつ病を引き起こし、そのうつ病は際限なく続くようになります。
T3のわずかな欠乏が、プリシラの皮膚の乾燥やむくみ、そして低代謝も引き起こしたのです。私が彼女の治療をT4/T3を組み合わせたものに変えた時に、彼女の感情的、身体的症状は急速に消えていきました。ほとんどの抗うつ剤は効き始めるまでに6から8週間かかりますが、多くの人がT4/T3治療を始めてから1週間後には早くも具合がよくなったことに気が付きます。プリシラは自分の症状の改善を次のように述べています。
組み合わせ治療を受けてから、私は状況をうまく処理できるようになりました。学校で子供達や同僚とも再びうまくやれるようになりました。感情が安定してきました。人生の困難にも向かい合うことができ、また自分自身にも挑戦“例えばクラスを受け持つこと”できるようになりました。自分自身をどう思うかとか、何を着て、どんなメークアップにしようとか、以前は大変な努力が必要だったのでかまわないでいたようなことが大きく変わったのに気が付きました。また運動するのが楽しくなり、他にも何かしたくなり、出かけようと思うようになりました。
T3を飲む前は、私は自分の外側にいるような感じでした。時々、何が起きているかを見ているだけで、どうして自分がその中にいないのかわからないというようなことがありました。このプロトコールで自分自身、クリエイティブで元気一杯の“元どおりの私”と元どおりにつながったように感じます。自尊心や自制心もうんと高まりました。
プリシラのケースで、体や脳が正常な量のT3を得るのに、人がT4錠に頼っている際に起きる問題の一部は、正常な機能に必要なだけの量のT3がT4錠だけでは100%得られないということです。
天然のホルモンからT4/T3プロトコールへの切り替え  
乾燥甲状腺(すなわちArmour甲状腺)で治療を受けている患者を、甲状腺ホルモンレベルの変動を避けるために合成レボサイロキシン錠に切り替える趨勢が長いこと続いています(3)。しかし、長期間乾燥甲状腺を飲んできた患者がレボサイロキシン錠への切り替えに抵抗することがよくあります。サイロキシンで甲状腺ホルモンレベルが正常値に達し、TSHレベルが正常になり、安定しても、これらの患者の多くが疲労や倦怠感を覚え、そして前のように働けなくなります。このような患者は“旧式の天然の錠剤”を飲んでいた時の方がずっと具合がよかったと文句をいうことが多く、具合がいいはずだという理由についてカウンセリングしたり、医学的説明を行っても、T4だけを含むより新しい甲状腺ホルモン錠を飲み続ける必要性をこれらの患者に納得させることはできません。レボサイロキシン錠をせいぜい2ヶ月飲んだ後で、彼らの多くは元の治療に戻して欲しいと願います。
乾燥甲状腺で治療を受けた患者は、長いこと脳内のT3レベルが高い時期を経験しているため、乾燥甲状腺を止め、レボサイロキシンに変えたことで理論的には禁断症状が出る可能性があります。そのような患者では、先に述べたようなレボサイロキシンと一緒に少量のT3を1日2回に分けて飲むと、脳の甲状腺機能低下症症状が−疲れや疲労、およびうつ病を含めて−よくなることが多いのです。このアプローチ法により、多くの患者で乾燥甲状腺から合成ホルモン錠にうまく切り替えることができました。
少数の患者は、“その理由ははっきりしませんが”薬を切り替えることを拒むか、あるいは2〜3週間私のプロトコールを試してみた後に乾燥甲状腺に戻してくれと私に頼みました。このような人の中には合成ホルモン剤より天然のホルモンがよいと固く信じている人がいます。そのような患者は、非常に多いのですが、低TSHレベルと錠剤を飲んだ後数時間著しくT3レベルが上昇するという犠牲を払って症状の寛解を得ているのです。このT3の上昇は多くの患者で精神的高揚を引き起こしますが、心臓病や骨喪失も起こすことがあります。どうしても切り替えを拒む患者が、動物の甲状腺による副作用を少なくし、なおかつ具合よくなるための解決法は、薬を午前と午後に分けて半分ずつ飲むことです。これにより、全量を1日1回飲むよりもT3のレベルが安定します。
線維性筋痛に対するT4/T3プロトコール  
線維性筋痛と診断されたのであれば、病気の治療にT3を使うことについて聞いたことがあるかもしれません。中にはT3の治療を試したことがある人もいるでしょう。線維性筋痛に罹っているおり、甲状腺が正常な人を栄養剤の服用や健康的な食餌を摂ること、そして運動と合わせて、75から150マイクログラムのT3で治療すると病気が改善し、時には治ってしまうこともあるという報告がいくつかの研究でなされています(4)。ある報告では、この治療プログラムにしたがった患者の75%が改善し、ほぼ40%が治癒したとあります(5)。しかし、使われているT3の量は、概して甲状腺が自然に作り出す甲状腺ホルモンの量を超えており、患者はほぼ例外なく甲状腺機能亢進症になってしまいます。これと同じことが、うつ病の治療のため、1日1回高用量のT3の投与を受けている患者にも起こります(<第6章>参照)。
他のほとんどの医師と同じように、私もそのような薬の与えかたは不適当だと思います。なぜなら、甲状腺ホルモンが過剰になり、それが重大な不安症状を起こすことがよくあるからです。また、患者の頻脈や不整脈の問題を起こす危険性を高めることにもなります。 それにもかかわらず、医師は線維性筋痛にT3を使う背景となる論理を何もかも否定してはなりません。線維性筋痛のある患者はセロトニンレベルが低下しており、そのことからこの病気の治療のため三環性抗うつ剤や時にはプロザックさえも使うことになったのです。T3治療の擁護者は、脳内の適切なセロトニンレベルを維持するホルモンの働きが不十分であり、体内組織の正常な代謝を促進できないのだと信じています。
この考え方はおそらく正当なものと思われます。それは、医師が甲状腺機能低下症が原因の線維性筋痛患者を見ることが多く、甲状腺ホルモン補充療法で線維性筋痛がよくなるからです(線維性筋痛についての詳細は<第10章>参照)。要するに、線維性筋痛は体と脳の甲状腺機能低下症の証拠と見ることもできるわけです。今では、『甲状腺機能低下症性線維性筋痛(これでは甲状腺が不活発になっています)』と『甲状腺機能正常性線維性筋痛(これでは甲状腺は正常に機能しています)』の鑑別を血液検査が甲状腺機能低下症を示しているかどうかによって、ルーチンに行われるようになりました。甲状腺機能正常性線維性筋痛に罹っている人は甲状腺ホルモンが効率的に働かない問題があるという考えを受け入れるならば、実際に理想的な線維性筋痛の治療にはT3を含めなければなりません。
この理由から、私は、正常な血液検査結果を維持する適切な量のレボサイロキシンを投与しても線維性筋痛が持続していた数例で、治療にT3を使ったこともあります。これらの患者では、組織内甲状腺ホルモンレベルを正常にするために私ができる唯一の方法がT4/T3を組み合わせた治療です。この治療では少量のT3を分服します。
ミシェールは私がT4/T3の併用療法で線維性筋痛をうまく治療できた最初の患者です。彼女は37歳の時に疲れを感じ始め、髪が抜け、爪がもろくなっているのに気付きました。太って、いつも眠かったのです。次第に肩や腰、腕に痛みを覚えるようになりました。症状が悪化してきたのでようやく医師の診察を受け始めたのです。
ミシェールは自分がかかった医師の一人に、実際に甲状腺機能低下症性線維性筋痛ではないかと言ったのです。彼女はこう話しています。「私はなぜ自分がひどく疲れたように感じ、それ以外にもいろいろな症状があるのかについて本を読んだり、そのことに関する情報を捜していたのです。甲状腺の病気のことは知っていましたので、もっと詳しく調べ始めました。そして内分泌病専門医に診てもらうことにしたんです」
ミシェールが不活発な甲状腺であるという診断を受けてから4年間、適切な量のサイロキシン投与を受けているにもかかわらず、明らかに線維性筋痛だと思われる多くの症状に悩まされ続けました。
ここに彼女がその症状がどのようなものであるか述べております。
肩の先と右腰の痛みは、夜中に目が覚めるほどひどいものでした。絶え間なく関節が痛むので、寝られませんでした。1日にアドビルを8錠飲みましたが効きませんでした。運動もしてみましたが、そうするともっと悪くなるみたいでした。時々、痛みが背中を下の方に向かって走りました。指にはジンジンした痛みがありました。時には腕や首のところまで痛むことがありました。
友人が関節炎ではないかと言うので、何人もの専門医に診てもらいました。3年間いろんな病院を回った後、ある医師が腰に病気があると言いました。その先生は私に首の装具をくれ、週に3回理学療法を受けましたが、大した効き目はありませんでした。別の医師はストレスのために腰の筋肉の一部に内出血があるのだろうといいました。また、ある医師はおそらく結婚生活の問題とストレスのせいだろうと言いました。
別の医師のところに行って、やっとその先生が5分も経たないうちに、私の腰や肩の圧痛点を触診で探し出し、レントゲンを何枚か撮りました。そして、線維性筋痛だと診断を下したんです。
私がミシェールを診察した時、不活発な甲状腺のためにL-サイロキシンを飲んでいました。私は、その代わりにT4/T3の併用療法を使うことにし、少量のT3を与え、1日3回に分けて飲んでもらいました。なかなかよくならなかった症状が消えただけでなく、彼女の線維性筋痛も劇的に改善しました。ミシェールはリラクゼーションテクニックの練習も始め、マッサージ治療も受け始めました。
ミシェールが言うには
驚く程の変化です。甲状腺をT4だけで治療していた時は、なかなかベッドから出られないところまで行き、お付き合いなんかしたくないと本当に思っていたんです。でもT4/T3プロトコールを始めて2〜3週間の内に、自分の状態が驚く程変わっているのに気が付きました。もう1日24時間寝たいとは思わなくなりました。普通の人と同じように起きて働くことができます。関節や体の痛みに悩まされることもなくなりました。何年もの間とても具合が悪かったし、また元どおり元気になれるとは思っていなかったので、嬉しくてたまりません。
T4/T3と抗うつ剤の併用  
甲状腺ホルモン剤治療が、プロザックや他の選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)では完全に治らない脳のT3欠乏のある多くのうつ病患者に効く場合があります。甲状腺ホルモンバランスの乱れが原因で、なかなかよくならないうつ病に対し、抗うつ剤の処方を受けていた患者にT4/T3プロトコールを使った最初の成功は驚くべきものでした。少量のT3を与え、分服させると脳内の化学作用に奇跡ともいえるような効果が出たのです。この治療法の素晴らしいところは、私が述べたような方法で少量投与すると、T4とT3、そしてTSHの血中レベルが正常範囲内に留まることです。
<第16章>で述べたように、甲状腺機能低下症の人にうつ病が出て、抗うつ剤が必要になることは珍しくありません。しかし、後に血液検査の結果がかなり長期にわたって正常になった際に抗うつ剤を中止すると、うつ病が再発したり、あるいは悪化したりすることがあります。一部の患者では、抗うつ剤だけでは十分な効果が上がりません。患者がT4からT4/T3の併用に切り替えると、うつ病がよくなります。まるで、脳の化学物質の混合物に少量のT3が足りず、それはT4錠では与えられていないためにSSRIが適切に作用していないようなのです。
パットは32歳の薬剤師ですが、大うつ病になり入院が必要になった時に甲状腺機能低下症であるという診断を受けたことを思い出します。彼女は12年前、大学生の時にボーイフレンドと別れ、うつ病になったことがあります。彼女を診た精神科医はパットにプロザックと一緒にサイロキシンを投与し、彼女は4ヶ月後に正常な甲状腺機能を取り戻しました。しかし、最大量のプロザックと正常な血中甲状腺ホルモンレベルを維持するに十分なサイロキシンを飲んでいたにもかかわらず、彼女には軽度のうつ病が続いていました。
病気の影響が残留しているほとんどの患者と同じように、パットはT4/T3併用治療で解決することができました。彼女が私の診察を受けに来た時、彼女はうつ病がなかなかよくならないのは甲状腺のせいなのだろうかといぶかしく思っていました。プロザックを併用したT4治療にT3を加えると、彼女の気分とエネルギーはあっと驚く程変わりました。この治療は明らかに、うつ病治療の別の側面を補うものでした。繰り返しますが、パットには脳内のT3欠乏があったために、プロザック−レボサイロキシン治療だけでは不十分だったと思われます。
少量のT3を分服で投与すると、血液中のT3レベルは普通、正常範囲を超えることはありません。それでも、T4/T3併用治療に切り替える前に、医師にかならず心臓病のチェックをしてもらうようにしてください。これは、心臓病のある患者にごくわずかT3レベルが上がるための副作用として、不整脈の問題やその他の心臓合併症が出る恐れがあるからです。私はこの併用療法を55歳以上の人にはめったに使いません。心臓病のリスクが高いからです。重症の不安に悩まされている場合、T3治療は不安症状を悪化させる恐れがあります。ただし、アルプラゾラムを数週間加え、その後アルプラゾラムを徐々に減らしていくことで不安症状の悪化を予防できます。このプロトコールとリラクゼーションテクニック、食餌、および運動を組み合わせることで、体重のコントロールをはるかに効率的に行うことができます。治療前と治療中に<第3章><第5章>のアンケートを使ってください。そうすることで、自分でこの治療プログラムをうまく行なっているか評価することができます。
T4で治療を受けており、血液検査も正常なのに、しつこい症状のある患者がもはや他にできることはありませんという宣告を受けて私の診察室を去ることはありません。今まで乾燥甲状腺を飲んでいた患者も、今では乾燥甲状腺の錠剤を飲んでいた時よりも具合がよくなる新しいプロトコールを受け入れるようになりました。これらの患者の血中甲状腺ホルモンレベルは正常で、安定しています。そして、具合がよくなる代りに骨喪失を受け入れなければならないということもないのです。甲状腺機能低下症のためにT4を飲んでおり、症状のない患者でも、この治療により健康状態の改善が見られる場合があります。多くの人がこの治療法により、元気が出て、機敏になったと認めています。
過去5年間に、私が使ったT4/T3プロトコールは、90%以上の患者に効果がありました。これは最初から甲状腺機能低下症であったか、バセドウ病の治療や手術で甲状腺を取ったために甲状腺機能低下症になったかには関係ありません。長引くうつ病に罹った私の患者では、T4/T3治療後にうつ病の標準試験で著しい改善が見られました。これは疲れて、孤立した人が幸福で症状のない人に変ったことを反映しています。私が診たたくさんの患者の中の一人で、T4/T3治療に切り替えた後プロザックやゾロフトを必要としなくなった人がこう言っています。「どんなに長いことこんな気分にならなかったのかわかりますか。毎日、これが効かなくなったらどうしようと思っていました。とても恐かったのです。でも、そんなことは起こりませんでした。先生は、私の生活を元どおりにしてくださったんです。こんなに効き目のあるものは始めてです」
覚えておくべき重要なポイント
T4だけを含む薬で治療を受けている甲状腺機能低下症患者は、脳細胞内で作用する主な形のホルモンというだけでなく、いちばん作用効力の高い形の甲状腺ホルモンであるT3の量が正しくないために、長引く影響に苦しむことがあります。
T4治療からT4/T3併用療法に切り替えると、治療開始後わずか1週間でうつ病を含む感情的症状や身体症状がよくなり始めることがあります。
T4/T3併用療法は正常な甲状腺ホルモンレベルの維持となかなかよくならない線維性筋痛のある患者の症状改善に効果があると思われます。
. Dr.Tajiri's comment . .
. T4/T3併用療法に関しては、以下のわたしのHPのページを参考にしてください。実際にこの治療法を行ったことはありません。ここまで、劇的に効くのか半信半疑です。
T3併用療法
甲状腺機能低下症患者におけるサイロキシンとトリヨードサイロニンの併用と比較したサイロキシンの効果
甲状腺ホルモン補充療法−1つのホルモンが良いのか?2つのホルモンが良いのか?<論説>
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参考文献
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