バセドウ病患者の一部は、事実上目の症状がまったくなくて最初に甲状腺機能亢進症の症状を起こしてきます。しかし、甲状腺の病気の治療を受けてから何ヶ月、あるいは何年か経って目が飛び出してきたり、結膜のひりひりした痛みが生じたり、時には目の筋肉の機能障害さえも起こってきます(4)。これらの症状が他の病気のせいにされたり、思わぬ落胆を招くことがあります。将来この病気に罹る確率についてあまり心配し過ぎる必要はありませんが、甲状腺眼症の可能性がある症状を知っておく必要があります。 |
49歳のテレサは、バセドウ病による甲状腺機能亢進症で放射性ヨード治療を受けてから12年間、目の症状は何も出なかったのです。それなのに、突然目の回りが腫れてきただけでなく、目が充血してきました。そして、目が飛び出してきたのです。甲状腺の病気が自分の目の症状に関係があるとは思いもせず、彼女は眼科医の元へ行きました。その医師が目の症状と甲状腺を結び付けたのです。 |
テレサは大変なショックを受けました。彼女は、放射性ヨード治療の後、12年も経ってからこのようなことが起こりうるのだと誰も説明してくれなかったことにも腹を立てていました。彼女はこう言いました。「目の病気が始まった時、私は自分の見かけのことを気にかけていました。目は大きくなっていったんですが、最初はグロテスクに出っ張ってはいなかったんです。目が少し変だとは気付いていたんですが、それがどういうことかわからなかったんです」 |
テレサは、自分の眼症がそれほどひどいものではないということを聞いて喜びました。事実、彼女の目の状態は治療によって後ではよくなってきたのです。 |
甲状腺ホルモンバランスの乱れと同時に眼症が起きてきたのであれば、診断は容易です。しかし、患者は眼症があることを怖がることが非常に多いのです。甲状腺ホルモンバランスの乱れにより、しばしば不安や自制心の喪失、あるいはうつ病が生じるため、恐れは一層ひどくなります。甲状腺ホルモンバランスの乱れにより引き起こされた自尊心の低下が、外見や目の機能的障害のためにさらに募り、患者が精神的にも身体的にも正常に機能できないと思ってしまうようになる場合があります。 |
患者の中には、甲状腺機能亢進症と甲状腺眼症が同時に起こるものの、甲状腺機能亢進症の症状があまり出ない人がいます。そのため、具合の悪いのは目に関したことだけとなります。そのような患者の悩みは、受け付けてもらえないことや誤診、あるいはわかってもらえないことなどで、それは医師が正しい診断を下し、眼症の治療を始めるまで、長い間続くことがあります。患者は、そして時には医師でさえもアレルギーのせいにしてしまうことがよくあります。バーバラ・ブッシュ元大統領夫人も、バセドウ病の診断を受けるまで、かなり長いこと自分の目の症状をアレルギーのせいだと思っていたという記憶があると述べています(5)。 |
ポーレットは、多くのバセドウ病患者と同じように目の症状に苦しんでいました。しかし、甲状腺ホルモンバランスの乱れの症状はなかったのです。1年近くの間、彼女は医師から医師へと渡り歩きました。そして、眼症が悪化しつつあったにもかかわらず、アレルギーであるとの診断を受けたのです。
彼女が言うには |
私がやっとどこが悪いのかわかった時は、もうちょうど1年経っていました。それも、紹介を受けたアレルギークリニックでいろいろな治療を受けたあげくのことでした。そこの先生は、私にアレルギーの注射をしてくれましたが、いつも私の目はアレルギーのせいで赤くなってかゆいんだと言っていました。私はいろんなものにアレルギーがあると言われました。特に猫が悪いということでしたが、そんなことはなかったんです。 |
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患者や家族が目の変化に気付かない場合でも、初めて会った人がそのような変化に気付いてそのことを言うことがあります。医師の妻であるローラは、1年以上もの間バセドウ病による甲状腺機能亢進症が診断されないままでおりました。そして、他人がすぐに指摘した変化に夫が気付くことがなかったということに腹を立てていました。 |
ローラはこう言っています。「皆が私の目はどうしたのと聞くんです。私が知らない人でもそうでした。ある日、誰かが私を大写しにして写真を撮ったんですが、私はそれを見て唖然としました。何で主人がこれをほっといて仕事に出かけることができたんでしょう。皆が私の目がどうかしたかと聞くはずですよ。今では、すごく人目を気にしています」 |
甲状腺眼症を見分けたり、管理するためのトレーニングを受けた眼科医はほとんどいないため、未診断のバセドウ病による目の問題に苦しんでいる患者が、眼科医にかかり、診査を受けた場合であっても、かなり長いこと診断されないままになってしまうことがあります。 |
29歳のエリザベスは、建築家として成功を収めた魅力的な女性でした。彼女は甲状腺眼症の徴候が出てきた際に、眼科医の治療を受けていました。彼女は根治的角膜切開術を受けるために眼科医の診察を受けていました。これは眼鏡をかけなくてもよいように、近視を矯正するための角膜の手術法です。眼科医にかかる前に、彼女は最近視力が変化したことを訴えていました。前のようにものがはっきり見えず、眼鏡をかけるのは嫌だったので、焦点の問題を矯正したかったのです。手術予定日の前に、エリザベスの右目にまた別の症状が出てきました。腫れて、目の下に袋が出来たのです。
彼女が言うには |
それは水疱みたいなものでした。押すと凹みました。そこに圧を感じました。そして、頭痛が始まったんです。私はたぶん何かに感染したか、目薬のせいでこうなったのだろうと思いました。目が腫れぼったく、殴られたようになっていましたが、まぶたが後退しているのには気が付きませんでした。私は眼科医にこう言いました。「手術の予定が組んであるのはわかっているんですが、目が何だか変なんです」先生は私の目を見て、感染がないことを確かめました。それで、このまま手術をするよう勧めたんです。 |
手術で、2週間ほど腫れていました。再診の時、私は目が垂れていることを訴えました。私は回復途中でこうなるのだと思っていました。先生は診察を受けにまた来るように言い続けました。そして、これは手術のせいで起こったものではないとも言い続けました。耳鼻咽喉科にも行きました。そして、そこでも原因はわからないと言われたのです。私の顔は歪んできました。私が鏡で見るものは、日に日に醜くなっていく私の顔でした。 |
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6ヶ月間、エリザベスは医師から医師へと渡り歩きました。2人の眼科医がこれは上顎洞に関係したものかもしれないと言いました。最後にエリザベスが別の症状で内科医にかかったところ、その医師がバセドウ病を疑ったのです。 |
エリザベスのケースでは、最初の目の症状がバセドウ病眼症により引き起こされたものではないかということを、眼科医が考慮しなかったのです。実際のところ、手術で目の問題が悪化した可能性があります。手術による外傷も含め、どのような目の外傷も、もともとバセドウ病眼症のある患者では、目に対する免疫反応を悪化させたり、時にはその引き金をひくことになる場合があります。そして、さらに目の問題が悪化する恐れがあります。 |