感情的症状が抑え切れなくなり、うつ病とストレスの悪循環を断ち切ることができない場合、抗うつ剤を飲むことで効果があると思われます。抗うつ剤は不安症状にも効果があります。 |
抗うつ剤を使用する場合は、いちばん多く出る副作用とそれがどのくらいの頻度で出るかを知っておく必要があります。また、抗うつ剤が効き始めるまでにかかる時間についても知っておく必要があります。多くの場合、気分を高揚させるのに少なくとも6週間から8週間必要です。8週間経った後でも、量を増すことで大きな違いが出ることがよくあります。下の表にいちばん多く処方される抗うつ剤を挙げております。 |
【よく使われる抗鬱剤とその副作用】 |
▼選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI) |
薬 剤 |
商品名 |
多い副作用 |
フルオキセチン |
プロザック(R) |
吐き気、頭痛、神経質、不眠、疲労、および性的問題 |
セルトラリン |
ゾロフト(R) |
パロキセチン |
パキシル(R) |
フルボキサミン |
ルボックス(R) |
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▼三環系抗鬱剤 |
薬 剤 |
商品名 |
多い副作用 |
アミトリプチリン |
エラビル(R) |
尿閉、便秘、口腔乾燥、視野がぼやける、体重増加、性的機能障害、日光過敏症;立ったり座ったりする際のめまい;鎮静、心律動の問題 |
ノルトリプチリン |
パメロール(R) |
イミプラミン |
トフラニル(R) |
デスプラミン |
ノルプラミン(R) |
ドキセピン |
シネクアン(R) |
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▼非定型抗鬱剤 |
薬 剤 |
商品名 |
多い副作用 |
ミルタザピン |
レメロン(R) |
鎮静、体重増加、めまい、口腔乾燥、便秘 |
ベンラファキシン |
エフェクソール(R) |
拡張期血圧上昇とSSIRの副作用増大 |
ブルプロピオン |
ウェルブチリン(R) |
不安興奮、不安、不眠、頭痛、てんかん発作(希) |
トラゾドン |
デシレール(R) |
鎮静、吐き気 |
ネファゾドン |
セルゾン(R) |
鎮静、神経質、睡眠障害 |
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▼MAO(モノアミンオキシダーゼ)阻害剤 |
薬 剤 |
商品名 |
多い副作用 |
フェネルジン |
ナルディール(R) |
睡眠の問題、高血圧、性的問題、体重増加−およびもっとも危険なものとして−他の薬剤や一部の食物と生命を脅かすような相互作用を起す。 |
トラニルシプロミン |
パルネート(R) |
セレジリン |
エルデプリル(R) |
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すべての抗うつ剤の効力は同じです。医師は、自分の投薬の経験に基づき、起こりうる副作用も考慮した上で抗うつ剤を選択します。SSRIは多くのタイプのうつ病に最初に選択される薬ですが、それは他のタイプの抗うつ剤に比べ起こりうる副作用の頻度が少なく、その副作用も軽いものであるからです。様々なSSRIの間にはいくらか違いはありますが、その違いはごくわずかです。 |
いちばん多く使われるSSRIにはフルオキセチン(プロザック)、セルトラリン(ゾロフト)、およびパロキセチン(パキシル)があります。これらの薬はうつ病の治療だけでなく、強迫障害にも効果があります。ゾロフトはパニック発作が続く場合にきわめて効果的です。一般的に、いちばん多い副作用は吐き気と頭痛ですが、これは2週間以内に治まることが多いのです。吐き気は食べ物と一緒に薬を飲むことで避けられます。それ以外の副作用としては、不眠、神経過敏状態、疲労、性的機能障害、鎮静、および不安興奮があります。セルトラリンは他の薬より下痢を起す頻度が高い傾向があります。これらの副作用も大抵、時間が経つと治まります。 |
モノアミンオキシダーゼ阻害剤をこれらの薬のどれか一つと一緒に飲んではなりません。この2種類の薬を一緒に飲むと“セロトニン症候群”を起す恐れがあります。これは不安興奮や下痢、筋の不随意運動、震え、高熱、高血圧が特徴で、時にてんかん発作さえ起きることがあります。L-トリプトファンまたはトリプトファン代用品をSSRIと一緒に飲むと同じ合併症が起こる恐れがあります。 |
治療により血液中の甲状腺ホルモンレベルが正常になった後、様々な抗うつ剤の有効性を比較した科学的研究はまだ行われておりません。しかし、私は大抵SSRIを最初に使うようにしています。これはこの系統の抗うつ剤には副作用が少ないからです。 |
SSRIが効かない場合や有害な反応が起きた場合は、アミトリプチリンやノルトリプチリン、あるいは非定型抗鬱剤のような三環系抗うつ剤を次の手段として使います。三環系抗うつ剤はうつ病の治療やパニック発作のコントロールに効果があります。不安興奮や食欲喪失がある場合は、ドキセピンがよいでしょう。あまり眠り過ぎるようでしたら、デシプラミンに覚醒効果があります。三環系抗うつ剤にいちばん多い副作用は、体重増加、鎮静、口腔乾燥、性的問題、便秘、日光過敏症、尿閉、視野がぼやける、頻脈と心拍の問題、および立ったり座ったりする際のめまいです。 |
今日では、三環系抗鬱剤は非常に副作用が多いためにほとんどは使われなくなってきています。それにもかかわらず、うつ病がSSRIに反応しない場合は三環系抗鬱剤の服用で解決できる可能性があります。私は、三環系抗鬱剤が夜間の睡眠に問題のある患者(バセドウ病の患者が多い)や重大な不安症状のあるなかなかよくならないうつ病のある患者に対してはいちばん効き目のある薬であることを見出しました。 |
非定型抗うつ剤は、様々な神経伝達物質の組み合わせに影響を与える薬で、使用が増えてきております。一般的に、SSRIが効かない場合は医師がこの薬に切り替えます。私は、甲状腺疾患患者にはミルタザピンを使っても効かないことを見出しました。この薬には相当の食欲増進作用があり、しばしば体重増加を引き起こします。ミルタザピンのその他の副作用は、鎮静、めまい、口腔乾燥、および便秘です。しかし、トラゾドンやネファゾドンは不眠症に悩んでいる患者には効果があります。普通は、うつ病の治療に必要な量より少ない用量で不眠症の治療に効果をあげることができます。この2つの薬のどちらかを少量与えると、SSRIがよく効くようになります。ブルプロピオンは禁煙に効果があるとして、最近メディアの注目を集めている薬ですが、この抗うつ剤はほとんどの患者にエネルギーを与える効果を及ぼします。その副作用には、不安興奮、不安、不眠、頭痛、そしてまれにてんかん発作があります。ベンラファキシンはSSRIの効果を強くしたものと考えられることが多いのですが、セロトニンとノルアドレナリンの両方に対する新しい選択的再取り込み阻害剤です。副作用も少ないようですし、SSRIの一つで期待したほどの反応が見られなかった場合に効く可能性があります。また、他の抗うつ剤に比べて効き目が早いようです。知っておく必要のある副作用には、拡張期血圧の上昇や頭痛、吐き気、および神経質などがあります。 |
今では医師がMAO(モノアミンオキシダーゼ)阻害剤を、非定型うつ病には効果があるものの、うつ病治療の最後の手段となる薬とみなしています。MAO阻害剤はうつ病の緩和に非常に有効ですが、時に睡眠障害や高血圧、性的問題、および体重増加のような副作用を起すことがあり、取り扱いが厄介なものです。MAO阻害剤を飲んでいる場合、食餌に注意を払い、チーズやチョコレートのような化学物質のチラミンを含む多くの一般的な食物を避ける必要があります。この組み合わせで、重症の高血圧やその他の重大な心臓の問題を引き起こすことがあります。MAOはある種の薬と一緒に飲むと、やはり同じ問題を生じます。 |
炭酸リチウムは双極性障害、特に躁うつ病に多く使われる効力の高い抗うつ剤です。SSRIまたは三環系抗うつ剤に反応しない患者に、医師の中には抗うつ剤の効き目を強めるため、リチウムを加える者もおります。研究では、リチウムの代りにT3を加えても同じくらい効果があるということが示されています。完全な効果を得るには、リチウムの用量を1日900から1,500ミリグラムにまで増やさねばならないことが多く、甲状腺の問題や尿崩症(尿量の増加を引き起こす)、高カルシウムレベル、および腎臓の問題などを含むリチウム中毒作用を避けるために医師が血液中のレベルをチェックする必要があります。 |
いちばん多く使われている抗不安薬はバリウム、リブリウム、ザナックスおよびアチバン(すべてベンゾジアゼピン系です)とブスパール(非ベンゾジアゼピン系)です。副作用には、鎮静、錯乱(ごく希)、および協調運動障害があります。薬物依存を起す可能性があるので、長期間ベンゾジアゼピン類を飲まないようにしてください。これは長期間にわたってベンゾジアゼピンで治療を受ける人が直面する主要な問題の一つです。 |
一般的に、抗鬱剤を飲み始めたら、治療は少なくとも6ヶ月続けられ、必要であれば1年から2年治療期間を延長します。ここに述べたどの抗鬱剤を飲んでいてもうつ病が再発することがあります。不活発な甲状腺があり、甲状腺ホルモン剤を飲んでいる場合、T4だけよりT4とT3を合わせて使用する方がうつ病の再発予防に効果があります(T4/T3を組み合わせた治療の詳細は<第17章>をご覧ください)。この組み合わせの処方を使えば、従来の抗鬱剤の量を減らして飲みながら、うつ病のコントロールがもっとうまくできます。これによって副作用の出る可能性も低くなります。 |