活発すぎる甲状腺のある女性の多くは、この病気が原因で体重が減るのを喜びます。活発すぎる甲状腺を治すための薬を飲み始めると、体重が増えるのでがっかりすることがあります。私は甲状腺治療薬を飲むのをわざと止めた女性を見たことがあります。その他の症状がそれ程ひどくない場合、また太ることよりもそのような症状を我慢する方を好むのです。これは私が何とか止めさせようとしていることです。この病気を治療しないままにしておくと、体内の過剰な甲状腺ホルモンのため、最後に心臓病や骨喪失と骨粗鬆症、またその他の多くの衰弱を招くような疾患になることがあります。 |
この何がなんでもやせたいという欲求は、オードリーのケースにあてはまります。彼女は22歳で、ほとんどずっと体重の問題で悩んでいたのですが、甲状腺機能亢進症になったらスマートになったのです。私は彼女に抗甲状腺剤を出し、フォローアップのため、再度甲状腺の検査に来るように言いました。3週間治療しただけで、また太ったのが気に食わず、オードリーは薬を飲むのを止めてしまい、再び診察に来たのは8ヶ月後でした。その時、まだ甲状腺機能亢進症でした。 |
私はなぜ治療にちゃんと従わなかったのかと彼女に聞きましたら、オードリーは正直にこう答えてくれました。 |
最初、私はそんなはずはないとずっと思っていました。それから気分がよくなり、ちょっとばかりまともに感じ始めました。底にある事実、やせたのはまったく不自然なことだということはわかっていました。やせるようなことは何一つとしてしていませんでした。私はまた元どおり太り始めるだろうということもわかっていました。私はやせているのも悪くはないと考えるようになりました。自分に、別にそれほど具合が悪いわけでもないし、だからただ薬を止めるだけでいいのだと言い聞かせました。薬のためにまた太り始めたからです。私の主人は薬のことにはとてもやかましく、「毎日飲む必要があるんだ。忘れてはいないだろうね」といつも言っていました。 |
私達は休暇で出かけ、その時に私はわざと薬を持っていきませんでした。主人がそのことを知って、私を処方薬が出せる薬局に行かせました。それでも私はそこにいた2週間の間、薬を飲みませんでした。そしてとうとういつも着ているワンピースの水着でなく、セパレート水着みたいになってしまったんです。この薬を飲むほかないということを思いながら、薬を飲めばここにいる間に太ってしまうと考えていたのを覚えています。休暇が終わって家に帰った後でも、先生の診察予約を先延ばしにしました。私はどうしようって思ったんです。先生が検査したら私がしばらく薬を飲んでいないことがすぐわかってしまうじゃありませんか。私は何も悪くないし、前より具合よく見えるから病気だってそんなにひどくないんだと思うようにしていました。 |
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活発すぎる甲状腺は、過剰な甲状腺ホルモンが体と精神に及ぼすすべての悪影響をストップさせるために、すぐさま治療することがきわめて大切です。甲状腺の状態を整えている間に、患者は常識に従って最適な体重のコントロールを達成するようにしなければなりません。 |
活発すぎる甲状腺がかならず体重の減少を起こすとは限りません。それはちょうど不活発な甲状腺になるとかならず太ると誤って信じられているのと同じです。実際、甲状腺が活動し過ぎの女性の中には、やせる代りに太ってしまう人がいます(14)。このような甲状腺機能亢進症のケースでは、体の代謝が増すこと、それが脂肪の貯えを減少させることにもなりますが、またカロリー摂取量の増加が同時に起こります。甲状腺機能亢進症の患者は食物に対して異常に欲求が強くなり、以前食べていたよりはるかに多くの量を食べることがよくあります。これは甲状腺ホルモンが脳内にある、食欲を調節するメカニズムに直接影響を与えるからです。このカロリー摂取量の増加は、おそらく甲状腺ホルモンが体の中にあふれかえった時に、体のエネルギーを保存するための防衛メカニズムだと思われます。 |
この好例はジェシカのケースに見られます。彼女は30歳の時にバセドウ病になりました。甲状腺の病気が出る前は、いつもほっそりしており、体も引き締まっておりました。彼女の甲状腺が活動し過ぎになった時、甲状腺機能亢進症の典型的な症状に加え、著しい体重増加が生じました。それが彼女を大変落ち込ませ、ますますいらいらするようになったのです。
彼女が言うには |
私はくたくたに疲れきっており、ふさぎ込んでおりました。そして発作的に泣くことがありました。私が太っている間、間違いなく食欲が増していました。それが食欲なのか、あるいは私があまりにも疲れきっていたせいなのかはわかりませんが、自分が満足する以上に食べていました。再び具合がよくなるような、ちょうどよい薬の量を見付けるのにしばらく時間がかかりました。薬を飲んでいる間に、甲状腺の具合がよくなってきたためと、私が特別に努力したことから、またやせました。私は大変な注意を払って何とか太った分の体重を全部落としました。それはものすごく厳格にしなければなりませんでした。 |
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よくあることですが、甲状腺ホルモン過剰によって生じる脂肪の分解の増加とエネルギーのロスが甲状腺機能亢進症患者のカロリー摂取量を上回り、この収支のマイナスが体重減少につながります。しかし、甲状腺ホルモン過剰と甲状腺機能亢進症によって引き起こされるひどい不安あるいはうつ病の両方が原因で、食欲中枢が影響を受け、またカロリー摂取量が代謝促進の結果燃やされるカロリーの量を超えて増加するという人も中にはおります。この結果収支はプラスとなり、体重が増えるのですが、この体重増加は甲状腺機能低下症の患者に起こるのと同じくらい著しいものである場合があります。 |
活動し過ぎの甲状腺によって引き起こされた体重増加のため、甲状腺機能亢進症患者が甲状腺機能低下症の人と同じように落ち込んでしまうことがあります。ストレスと不安をコントロールするために精神−体の治療が大切です。 |
甲状腺機能亢進症の患者は、病気が治った後再び太り始める可能性があると注意を受けないことが多いのです。体重の問題それ自身が重大な不安や抑鬱気分を引き起こす原因、あるいは一因となる可能性があるのです。甲状腺機能亢進症のためにやせた女性が適切な治療を受けて、甲状腺の病気が治ると著しく太ってしまうことが頻繁に起こります。甲状腺機能亢進症が治った後、甲状腺機能亢進症になる前よりもっと太ってしまうことさえもあります。ある研究で、甲状腺機能亢進症の治療を受けた女性のほぼ半数が、甲状腺機能が正常になった後、著しい体重増加を見ることが示されました(15)。多くの患者が自分達の甲状腺機能が不活発になり、そのために体重が増えたと思っておりますが、この場合の体重増加のメカニズムはまったく違ったものです。 |
甲状腺の病気が落ち着いた時に起こる甲状腺機能亢進症の患者の体重のリバウンドの理由には、主なものが3つあります。 |
- 体があまりにも多くの甲状腺ホルモンに曝された時、その代謝メカニズムが高いレベルに移行します。甲状腺機能が正常に戻った後、代謝は前より低いレベルに戻ります。
- 過剰な甲状腺ホルモンが食欲中枢に障害を起こすと、甲状腺機能が正常になった後でもその障害が残る場合があります。これが食欲の増進とカロリー摂取量の増加を含む残留効果につながる可能性があります。
- 甲状腺機能亢進症でエネルギーの貯えの取り崩しが起こります。これは体脂肪だけでなく、筋肉組織内でも起こります。多くの甲状腺機能亢進症患者は、病気が原因で幾分筋量が減少します。いちばん大きな筋量減少は、大腿四頭筋や上腕二頭筋のような筋肉に起こる傾向があります。甲状腺ホルモンレベルが正常になれば、失われたエネルギーの貯えを元に戻す作業は、筋肉でなくむしろ脂肪を貯めこむ方に向かいます。ある研究では、甲状腺機能亢進症を治すと、筋力は正常より低いままですが筋肉の運動能力は20から40%自然に増加することが示されました(16)。このため、甲状腺機能亢進症に罹っていた間に失われた筋量を増すことを目的とした運動や身体活動が代謝を促進し、甲状腺機能亢進症が治った後の体重増加の予防に効果があります。
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