甲状腺ホルモンが正しく作用するためには、数種類の化学物質や栄養素、そして細胞内の酵素が一緒に協力して働かなくてはなりません。これらの栄養素のうち、セレンや亜鉛は甲状腺ホルモンが細胞内で正しく作用できるようにする重要な化学物質成分です。 |
数種の抗酸化剤が代謝を増強し、やせる効果があるとおおいに喧伝されています。体重に対するこの好ましい効果の根拠となっているのは、代謝活動を減退させるフリーラジカルの蓄積を防ぐ能力です。肥満の人には、亜鉛レベルの低下が見られ、一部の医師は肥満の治療に亜鉛を使うことを勧めています(14)。しかし、運動をしたり、バランスのとれた食餌を摂らなくても、抗酸化剤でやせることをはっきり証明した研究はありません。 |
代謝に対する影響がごくわずかなものであったとしても、抗酸化剤を補うことはよいことです。老化速度はある程度何を食べるかによって違います。適切な量の抗酸化剤を含むバランスのとれた食餌を摂ることで、細胞の破壊を遅くすることができます。これにより、体内の甲状腺ホルモンレベルを正常に保つことができ、そのことで早期老化は確実に遅らせることができます。一部の研究者は、老化が一種の組織甲状腺機能低下症であると信じています。年齢が進むと、細胞内のセレンや亜鉛の欠乏が起こり、それが甲状腺機能低下症と同じような甲状腺ホルモン作用の低下を起こすのではないかと思われます(15)。 |
甲状腺機能亢進症患者は適切な亜鉛栄養剤を飲むようにしなければなりません。研究では、甲状腺機能低下症と機能亢進症のどちらも亜鉛欠乏を生じることが示されていますが、甲状腺ホルモン過剰により、尿中への亜鉛排泄が増加するために、甲状腺機能亢進症ではこの欠乏がより著しいものとなります。亜鉛は免疫系の機能にも役割を果たしており、亜鉛の過剰または欠乏が自己免疫疾患の発病に影響を与える可能性があります(16)。 |
体細胞内で甲状腺ホルモンが正しく作用するためには、適切な量の抗酸化剤の供給が欠かせません。セレンは、体内でT4からT3へ変換させる酵素に欠かせない成分です(17)。セレンがなければ、ちょうどよい量のT3を作り出すことができず、血液中の甲状腺ホルモンレベルは正常であっても、あたかも臓器が甲状腺機能低下症であるように機能することになります。したがって、適切な量のセレン摂取が様々な臓器の機能を司る甲状腺ホルモンにとって欠かせないものとなります。セレン欠乏症に罹っている人(これは60歳以上の人の間ではごく普通に見られます)は、セレン栄養剤を飲むとT4からT3への変換の改善を見ます。長いことセレンの欠乏があった場合、利用できるT3が減少し、TSHレベルが正常であっても組織の甲状腺機能低下症が起こります。セレン栄養剤は組織の甲状腺機能低下症を予防し、それにより老化の影響をある程度遅らせる効果があると思われます。筋肉の損傷や筋力の低下は、一部にはフリーラジカルが筋肉へ及ぼす傷害効果である可能性があります。また、セレン欠乏症の人では、筋肉があたかも甲状腺機能低下症の状態であるかのような反応を示します。 |
しかし、セレン栄養剤を飲む場合は十分に注意を払ってください。あまりたくさん飲み過ぎると、疲労や腹痛、下痢、神経の傷害、そして時には不妊など好ましくない影響がいろいろ出る恐れがあります。セレンの過剰摂取で、甲状腺も損なわれることがあります。1日50マイクログラムのセレンを摂取すれば、十分な抗酸化作用が得られます。 |
甲状腺機能亢進症では、フリーラジカルが過剰に作り出され、細胞がそれを中和する能力を上回ってしまいます。そのため、変質性疾患(組織や器官が破壊されたり、機能を失うような病気)の進行に関わっています。研究では、甲状腺が活動し過ぎになると、酸素消費量が高くなり、細胞に毒性のある酸素添加化合物の蓄積につながります(18)。この蓄積のことを酸化ストレスと呼びます。これらの有害な酸化物を細胞が排出しやすくすることで、ビタミンCやE、およびカロチノイド混合物などの抗酸化剤は筋肉を含む体の様々な部位で、細胞の損傷を防いでいると考えられます。 |
活動し過ぎの甲状腺のある患者は、ビタミンB6(ピリドキシン)とビタミンB1(チアミン)の消費を増やす必要があります。ピリドキシンは脳内でのトリプトファンからセロトニンへの変換に重要なものです。ピリドキシンはビタミンB複合体、あるいは複合栄養剤の一部として摂取すると、活動し過ぎの甲状腺を治療している患者や、治療で正常な甲状腺ホルモンレベルになった患者にきわめて効果的であると思われます。 |
ビタミンAは、体が適切な量のT4からT3へ変換を行うのに必要なものです。動物由来のあらかじめ形成されたビタミンAを過剰に摂取すると、肝臓に蓄積し、毒性が出るレベルに達することがあります。ベータカロチンやその他のカロチノイドのような植物性ビタミンA前駆体
には毒性がなく、食物中に見出されるもっとも強力な抗酸化剤です。ビタミンAの摂取源として私がお勧めするのは、色の濃い、葉菜類です。 |
ビタミンEは、酸化LDLコレステロールが血管細胞を損なうのをある程度防ぐことで、冠動脈疾患や卒中のリスクを減少させます。甲状腺にも効果があります。 |
最適な食餌は、たくさんの生の果物や野菜を含むものですが(下の表参照)、それ自体には必要なビタミン類や抗酸化剤が十分に含まれていません。残念ながら、スーパーで買うほとんどの果物や野菜は加工や保存、冷蔵がなされたものです。多くは食卓に届くまでに収穫後数週間から2〜3ヶ月経っています。生の食物に含まれるビタミンや抗酸化剤は不安定なため、加工法や収穫から消費までの間の時間差により、これらの必須栄養素の量が減ってしまいます。特に、食物中に含まれているセレンは、加工や保存、調理の間に簡単に失われてしまいます。 |
【甲状腺疾患患者に取って欠かせない栄養素を多く含む食物】 |
セレン* |
ベータカロチン |
ビタミンC |
ビタミンE |
亜 鉛 |
全粒穀類 |
ケール |
柑橘類 |
全粒穀物 |
魚 |
マグロ |
サツマイモ |
唐辛子 |
アーモンド |
赤身肉 |
モツ |
人参 |
辛みのないもの |
大豆 |
ニシン |
きのこ |
栗かぼちゃの一種 |
オレンジジュース |
ひまわりの種 |
メープルシロップ |
卵麺 |
ほうれん草 |
ブロッコリー |
豆類 |
大豆 |
カラスガレイ |
カンタロープ |
カンタロープ |
レバー |
七面鳥 |
牛肉(低脂肪) |
ブロッコリー |
メロン |
シリアル |
フスマ |
大豆 |
アスパラガス |
獅子唐辛子 |
植物油 |
全粒穀物 |
オートミール |
かぼちゃ |
辛みのないもの |
緑の濃い葉菜類 |
ひまわりの種 |
麦芽 |
レバー |
カリフラワー |
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ひまわりの種 |
レタス |
イチゴ |
アスパラガス |
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植物および地上動物に含まれるセレンは、土壌のセレン含有量に大きく左右される |
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様々なビタミン類や抗酸化剤は毎日どの程度摂取すればよいのでしょうか。下に私がお勧めしている目安を挙げてみました。 |
【毎日摂取する最適な栄養素レベル】 |
ビタミンC |
250〜1,000ミリグラム |
ビタミンE |
200〜800国際単位 |
ベータカロチンおよび混合カロチノイド |
ビタミンA活性として1,000〜5,000国際単位 |
セレン |
50〜100マイクログラム |
亜鉛 |
15〜20ミリグラム |
リボフラビン(ビタミンB2) |
1.5ミリグラム |
ナイアシン(ビタミンB3) |
15〜20ミリグラム |
ピリドキシン(ビタミンB6) |
25〜50ミリグラム |
葉酸 |
400〜600マイクログラム |
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活動し過ぎの甲状腺である場合、甲状腺ホルモンレベルがまだ高い時でもビタミン類や抗酸化剤を飲むことをお勧めします。一方、甲状腺機能低下症の場合は、甲状腺ホルモンレベルが正常か、または正常に近い値になってから栄養剤を飲むようにした方が安全でしょう。これらの栄養剤が体内に蓄積するのを避けるためにこの注意事項を付け加えてください。 |
様々なハーブ製品の成分や甲状腺に対する有益な効果や有害作用についてはほとんどわかっていませんが、そのような影響のある恐れがあるということを知っておかねばなりません。例えば、人気のある調理用のハーブであるタイムには、甲状腺の活動性を抑える可能性のある精油が含まれています(19)。タイムオイル−含そう剤や充血除去剤に含まれ、また一部の人が疲労やうつ病、消化不良、および筋肉痛に使っている−は、大量に使用した際に吐き気や嘔吐、心臓や呼吸器の問題も起こすことがあります。1985年に行われた、普通の弛緩性ハーブであり、ウィルス感染症に使われるレモンバーム(Melissa
officinalis)を含む4種類の植物の凍結乾燥エキスの研究で、甲状腺に関連した効果を持つ可能性が高いことが記録されています(20)。エキスが甲状腺を刺激する免疫グロブリン、バセドウ病で甲状腺を活動し過ぎにする抗体の活性を弱めることがわかったのです。 |
甲状腺ホルモンは甲状腺を持たない動物だけではなく、植物からも合成できます(21)。これは甲状腺ホルモンが食物連鎖で伝わる可能性があることを示唆するものです。もしそうであれば、甲状腺ホルモンは、体内で作り出される(太陽光との相互作用で皮膚がビタミンDを作ることができます)ものと食物から取り込まれるものの両方があるビタミンとホルモンの機能を併せ持つ化合物であるビタミンDのようなものである可能性があります。 |
植物成分がどのように甲状腺に影響し、植物が直接かなりのレベルの甲状腺ホルモンを供給できるのかどうかを確かめるには、まだ研究が必要です。しかし、今のところは、ハーブを使っている場合、濫用を避けてください。その効果や副作用についてはまだわかっていないからです。 |