甲状腺機能亢進症が性生活に及ぼす影響はより複雑で、多岐にわたります。多くの甲状腺機能亢進症の女性は甲状腺機能低下症の女性と同じような反応をします。徐々にセックスに対する興味を失いますが、これは支離滅裂な思考に圧倒されてしまうのとうつ病の特徴である快楽への無関心の両方によるものです。一部の甲状腺機能亢進症の女性にはよりひどいうつ病が出ます。そして、それに伴う身体的疲労と疲れがセックスに対する興味を失わせる原因と思われます。 |
私がロビンを最初に診たのは、彼女が甲状腺機能亢進症で紹介されてきた時でした。彼女は結婚して3年になり、夫と別居したばかりでした。その夫は離婚の訴えを起こしていました。
彼女が言うには |
私は自分の性欲がなくなっているのに気がつきました。それが最初に起こったことでした。私達は半年前に結婚し、それはとても素晴らしいことでした。私達はすごく素敵なセックスをしていました。それから突然、私には何の興味もなくなってしまったのです。興奮するまでに際限ない時間がかかりました。それでもかつて自分が完全にリラックスできたのですからまだその気になることはできるだろうと思っていました。でも夫は私がもはや彼のことを愛していないのだと思ったのです。私はそうではないと説明しようとしました。私は誰も他に興味のある人はいないし、ただ性欲がなくなっただけなのだと言いましたが、彼にはその理由がわかりませんでしたし、私もどうしてなのかわかってもらうことができませんでした。 |
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彼女の夫は私立探偵を雇い、何ヶ月もロビンを尾行させました。探偵が結局何も見付けられなかった時、ロビンの夫はあきらめてしまいました。それから彼は望むものを与えてくれる女性と出会いました。何ヶ月もの間、ロビンは自分の性欲に起こっていることをコントロールできないことに罪悪感を抱き続けていました。後で、ロビンの活発すぎる甲状腺が治った時、彼女が正常な性生活を取り戻すためのカウンセリングと心理療法に何ヶ月もかかりました。 |
ジュリアは結婚した年に甲状腺機能亢進症になったもう一人の若い女性です。
彼女はこう言いました。 |
私は自分がセックスに興味がなかったのは、疲労に関係していたと思います。性的興味は私に他にたくさんの甲状腺機能亢進症の症状が出始めた時に失せ始めました。私はただ話しができるよう誰か他の人にいてもらいたかったのです。特に誰か一緒に苦しみを分かち合える人が欲しかったんです。私が診断を受けた時、私がかかっていた医師は非常にオープンで、セックスへの影響以外はうまく行かない可能性があることを何もかも話してくれました。 |
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甲状腺機能亢進症の女性の不安や気分の変動がひどくなると、彼女と配偶者の間によそよそしさが生じることがよくあります。そしてそれが性的関係を持つことを避ける原因となる場合があります。気分の変わり易さと自尊心の問題からコミュニケーションをとり、集中することが難しくなります。セックスについて考え、興味を覚えるかもしれません。そして性的夢想と欲求に襲われるかもしれませんが、それは不安の波に飲み込まれるようにすぐさま消え失せてしまいます。 |
しかし、多くの甲状腺機能亢進症の女性は性欲を失いません。興奮期間は影響を受けず、あるいは短くなることさえあります。潤って、充血状態に達するまでにかかる時間は短くなりますが、性交時に甲状腺機能低下症の女性が経験するのと同じようなひどい痛みを経験することがあります。時に、その痛みが膣の他の場所の不随意な痙攣により引き起こされることがあります(膣痙攣)。性交時に痛みがあるのを恐れることで、甲状腺機能亢進症の女性に著しい不安が生じることがあります。そのような人は性交をまったく避けようとするでしょう。 |
甲状腺機能亢進症が軽い躁状態(軽躁病)を引き起こすことがあります。これは長い間続くことがあります。軽躁病の状態では、性欲が増す場合があります。そして性的な考えに取り付かれてしまう場合もあります。甲状腺機能亢進症の女性の中には、軽躁病の症状や激しい性欲が出る前であっても膣より多量の潤滑液が分泌されるようになる人もいます。 |
これがアレキサンドラに起こったことですが、彼女は日中でさえどうしてこれほど潤滑液が出るのかがわかりませんでした。最初彼女はイースト菌に感染したのではと考えました。
彼女が言うには |
私は婦人科医に電話して、日中でも粘液の量が異常に多く、その理由がわからないことを話しました。先生は分泌液の塗抹標本を調べてくれ、何もかもきれいだと言いました。私は感染症を心配していましたが、先生は粘液が透明だから何も悪くないと言いました。その頃、私はすぐに濡れるようになっていました。でもオルガスムに達するまでの時間が長くかかるようになっていました。私にはよかったのですが、夫には大変なストレスでした。 |
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甲状腺ホルモンの過剰が、性的興味を司る脳内化学物質に直接影響する可能性があります。軽躁状態の結果、性欲の増大が甲状腺機能亢進症の女性の関心の的となることがあります。 |
この状況はカレンのケースにはっきり見ることができます。彼女は38歳の主婦で、結婚後12年経って、突然、性的興味と夢想の高まりを経験しました。
彼女の言葉によると |
私は非常に外観を気にするようになりました。私はその時太り過ぎていました。私は性的夢想にふけるようになりました。私はよりエッチな本を読み始めました。それは何だか突然起きたように思えました。何時間もエッチな本を読み、横たわって夢想にふけっていました。私の夢想の中には夫は出てきませんでしたし、私が知っているどの男も出てきませんでした。ただ誰か−見知らぬ人を夢想していました。 |
その時、私は家に居て働いていませんでした。1日数回マスターベーションをしていました。私はテレビのショーで見た男性と関係を発展させていく夢を見始めました。また、甲状腺機能亢進症の他の症状も出始めました。脈が速くなり、暑く感じ、時に震えていることがありました。私は前よりも早口になり、間違いなく大きな声で話していました。 |
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甲状腺ホルモンの過剰で誘発される軽躁状態は、躁鬱病の高揚期に見られるものと同じです。その時に女性は普通、よりセックスを求め、性的な思考に取り付かれるようになります。性欲の増大が他の高揚症状を伴わずに起こることはめったにありません。女性は自分の体や見かけに一層興味を持つようになります。新しい、贅沢な服に通常では考えられないほどの金額を費やしたり、整形手術をもくろむことも多く、時には手術を受けることを決心することさえあります。 |
甲状腺機能亢進症からくるメリー・リンの高揚期は、彼女がバセドウ病の診断を受けるまで1年ほど続きました。彼女は結婚して10年になり、子供が4人おりました。
彼女はこう話してくれました。 |
私の性生活は突然、昔していたことに比べ、まったく違ったものになってしまいました。私はいつもボスになり、セックスを誘うのは私の方でした。夫にその気がない場合、私は本当に腹が立ちました。 |
でも奇妙なのは、以前は思いもしなかった性的なことを考えるようになったことです。私はそのようなことを言われもしないのに自分のものにしていました。私の友人は皆クリスチャンで、性的なことを話し合うことはありませんでした。そしておそらくそれがいちばん夫を混乱させたことだと思います。彼は私にこう聞きました。「一体どこでそんなこと仕入れてきたんだい」 |
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かなり長い間付き合ってきた女性のそのような劇的な変化を目の当たりにした配偶者のほとんどは、疑いを持つようになり、完全に混乱してしまいます。メリー・リンの夫であるエリックは、妻の性欲の亢進が浮気した結果であると考えました。彼女はこう言いました。「彼がこのことをわかるだろうとは思いません。彼はまだとても混乱しています。時々、私達はそのことについて話し、彼は私に説明させようとするんですが、いくら一生懸命やっても、ちゃんと答えたり、どのようにしてバセドウ病がこのような過度の性欲亢進を起こすことがあるのかということが本当に理解できるとは思えません」 |
メリー・リンの性格の変化は軽躁病の記述に一致するものです。彼女はバセドウ病の発病前も、また治療後もそのようにセックスに取り付かれるようなことはありませんでした。実際、メリー・リンの軽躁病的行動はあらゆる面で彼女らしくないものでした。間違いなく、性的症状の発現は普通ではありませんが、彼女は変った品も買っており、自分の子供に異なった種類の注意を向けており、また両親とも違った種類の関係を持ち始めておりました。
彼女はこう記しています。 |
私は今まだ回復しつつあるところです。今ではそんなことはおかしいと思っています。私らしくないのでおかしいのです。ちょっと決まり悪くさえ感じます。今では、何もかも私が思い出せる限り、本当に正常に戻ってきています。私はまた体重が増えました。着ることのできない洋服が山程あります。ランジェリーでさえ−きつすぎてはいりません。他の人にあげるにはちょっと恥ずかしすぎます。私の性欲はバセドウ病になる前の状態に落ち着いてきました。 |
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