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文献検索にて、28症例のPTUによる肝障害の報告がみつかった(1-24)。我々の2症例を加えた計30の症例について検討を加えた。抗甲状腺薬による肝障害に関するいくつかのレポートがあったが、十分に詳細を分析していなかったので研究対象から除外した(25-29)。PTUによる肝障害の最初の症例報告(1)は、PTU中止後の黄疸に関する記載がなかったので、今回のデータ分析には含めなかった。PTUによる肝障害を呈した患者の特徴は、【表3】に示している。胎盤を通してPTUの投与を受けて、生後5日目に肝障害を来した新生児(女性)はこの分析から除外した(6)。PTUによる肝障害は男性より女性で多くみられ、女性:男性の比率は、8.3:1であった。死亡した患者と生存した患者を比較した場合、年齢、PTUの投与量、投与期間に差はみられなかった【表3】。大部分の患者(75.0%)は、PTU治療開始前に肝機能検査がなされていなかった【表3】。PTU治療開始前の肝機能検査異常は、我々の2症例と別の3症例でみられた(2,14,20)。 |
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肝障害が出現したら、全ての症例でPTUは中止されていた。肝障害があるときの甲状腺機能については、症例の38.1%において記載されていなかった【表4】。記載がある場合、甲状腺状態は正常か機能亢進症であった。肝障害を起こしている患者に対して、甲状腺機能亢進症を治療する根拠は、必ずしも記載されているわけではない。いくらかの症例では治療を受けていて甲状腺機能が正常であると記載されているが、別の症例では治療を受けていないために甲状腺機能亢進症を呈していた。
PTUによる肝障害を起こした患者のほとんどは、肝障害が出現後に放射性ヨード治療を受けている(2,4,5,7-9,12,14,16,20)【表4】。2人の患者は、肝障害の出現時に妊娠していたため、放射性ヨード治療を受けることができなかった(8,15)。放射性ヨード治療と生存率の間には相関がみられた(Fisher's
exact test、p=0.024)。放射性ヨード治療を受けた患者では、死亡例はなかった。肝障害が出現後1〜15週【平均(32±8日)】の間に放射性ヨード治療が行われた。放射性ヨード治療を受けた患者12人のうち10人は、肝機能検査がまだ異常である時期に行われた。
プロプラノロール単独(9,11,21,22)またはメチマゾール(8,15,16)が、7症例で使用されたが、合併症はみられなかった。我々が経験した2症例も含めて、4症例は、甲状腺切除術や放射性ヨード治療の前後にヨード剤を服用した。我々が提示した第1例目は、甲状腺機能亢進症の治療として甲状腺切除術を受けた最初の症例である。 |
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PTUによる肝障害の診断は、我々の2症例と別の14症例では肝生検もしくは病理解剖によってなされた(3,10,14,16,18-23)。肝臓の組織像は、例外もあったが(9,24)、種々の程度の肝臓壊死の像を示した。1症例でのみ(16)、PTUと肝障害の関連は、PTUの再投与によって確かめられた。肝障害が出た後、9症例ではリンパ球感作試験を行った。PTUに対するリンパ球感作は、5症例において陽性で(6,10,14,15,18)、4症例(4,11,12,19)において陰性だった。
大部分の患者は、抗甲状腺薬を中止した後に肝臓に対する治療を行えば、肝機能異常は改善する(2-7,9-20)。3人の患者はステロイドの投与を受けたが、ステロイド治療の理由は単一でなくて、我々が提示した第二例目では、自己免疫性肝炎(3)、発疹(10)、原因不明の低血圧の治療としてステロイドを使用した。我々が提示した第一例目も含めて、2症例でPTUによる肝障害のために肝移植を受けた。肝移植を受けたもう一人の患者は妊娠中であったが、肝移植は成功した。しかし、胎児は死亡した(8)。7人の患者は、PTUによる肝障害のために死亡した(9,13,21-24)。肝障害出現後、1〜17週【平均(39±14日)】の間に死亡した。死因は、脳死(9,21)、肝腎症候群(22)、敗血症(13,24)、消化管出血(23)などの肝不全の合併症によるものである。 |
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