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[025]2002年3月1日
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甲状腺未分化癌:メイヨークリニックで50年間に治療した134例の検討
田尻クリニック / 田尻淳一
甲状腺未分化癌はヒトの癌の中でも、最も予後の悪いものの一つです。幸いなことにこの癌は甲状腺癌の中でも頻度が低いことがせめてもの救いです。今までは、甲状腺未分化癌多数例のまとまった報告はほとんどされていませんでした。アメリカ・ミネソタ州のロチェスターにある著名な病院、メイヨークリニックのグループが50年間に治療した134例の甲状腺未分化癌について、最近のSurgery誌(130: 1028-34, 2001)に報告しています。

症例の詳細:
134例の内訳は、男:女=1.5:1、平均年令は67歳です。75%は60歳以上、残り25%が60歳未満です。一番若い人は30歳代です。最高齢は90歳代です。分化型甲状腺癌がみられた人は31例(23%)、良性甲状腺疾患がみられた人は27例(20%)でした。その内訳を説明します:分化型甲状腺癌の既往がある人は、6例(4.5%)でした。6例すべて、手術と術後131-I治療を受けています。5例が乳頭癌、残り1例が濾胞癌です。甲状腺癌の治療を受けて2〜32年後(平均9.5年後)に未分化癌がでました。25例は、手術時に分化型甲状腺癌が見つかりました。このうち17例が乳頭癌、8例が濾胞癌です。良性甲状腺結節または甲状腺腫は27例でみられました。8例は手術時に、19例は以前から指摘されていました。62例(46%)が未分化癌と診断された時点で、遠隔転移がみられた。肺または縦隔転移:56例、骨転移:9例、脳転移:1例。未分化癌と診断された後の症例も入れると91例(68%)が遠隔転移を起こしていた。98%の症例で周囲組織に癌細胞が浸潤していた。
最初の治療:
5例(4%)では、保存的治療のみで積極的な治療は行わなかった。29例(22%)では試験切開による生検後に放射線外照射を行った。4例(3%)は抗癌剤の治療を受けた。96例(72%)が手術を受けた。48例は腫瘍組織を減少させる目的で手術を受けた。35例は腫瘍を完全に摘出する目的で手術を受けた。残り13例は手術不能なため生検のみで手術を終了した。手術を受けた症例のうち29例は完全に癌を摘出できた。25例は、癌組織が少し残った。術式や完全に摘出したかどうかは、予後には影響を及ぼさなかった。
追加治療:
癌組織を取りきれず病変が沢山残った42例中41例および甲状腺全摘術または亜全摘術を受けた54例中38例で術後に、甲状腺の部位に放射線外照射を行った。5例では局所再発に対して、4例では遠隔転移に対して放射線外照射を行った。局所再発や遠隔転移に対して放射線外照射を行った症例のうちで、たった一例で腫瘍が縮小したのみであった。放射線外照射は末期治療として行われるために、治療効果を評価することはできなかった。術後、遠隔転移に対して、抗癌剤治療を受けたのは12例(9%)である。最近の20年間で13例に対して、手術、放射線外照射、抗癌剤による併用療法を行った。
予後と長期成績:
平均余命は3ヶ月である。32例(23%)は未分化癌と診断されて1ヶ月以内に死亡した。死亡した131例(97%)のうち127例は未分化癌が原因で死亡した。残り4例では心筋梗塞もしくは脳卒中で死亡した。13例(9.7%)は、未分化癌と診断されて一年以上生存した。未分化癌と診断されて23年後の現在も再発もなく、まだ生存している症例が一番長い生存期間である。術後に放射線外照射を行った症例では、平均余命が5ヶ月と延びたが、統計学的には有意ではなかった。手術、放射線外照射、抗癌剤による併用療法は生存率の改善には有効ではなかった。
結論:
甲状腺未分化癌の治療成績は厳しいものである。甲状腺未分化癌に対する新しい治療法が必要であることを痛感する。
. Dr.Tajiri's comment . .
. 未分化癌に対しては、現在のところ、新しい治療法はありません。未分化癌と診断されると、余命は平均3ヶ月というヒトの悪性腫瘍では最も厳しいもののひとつです。新しい治療法が望まれる疾患です。

未分化癌で亡くなられた方の闘病記です。
未分化癌で亡くなられた方の娘さんからのメール
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