20世紀には、甲状腺に関する住民研究は甲状腺腫とヨード欠乏に焦点を絞っていました。アメリカで、ヨードを塩や他の食品に添加することでヨード欠乏は解消されましたが、別の甲状腺疾患に問題が起こりました。それらの多くは病気が悪い方向に進みました。NHANESとは、National
Health and Nutrition Examination Surveyの略で、日本語では「国家の健康および栄養研究調査」でしょうか。NHANES
1は1971〜1974年にかけて行われた大規模な調査です。今回のNHANES 3は1994〜1998年にかけて行われたものです。この二つの研究では、尿中ヨードを測定しています。それによるとこの20年間で、尿中ヨードは320μg/Lから145μg/Lに減少しています。すなわち、国民のヨード摂取量が減ったということです。NHANES
3では、尿中ヨード測定の一環として、TSH、T4、甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体【TgAb】、抗TPO抗体【TPOAb】)を調べています。その結果、想像以上に甲状腺疾患は多く、スクリーニングの重要性を強調する論文です。この研究は、CDCのグループが行ったもので、最新のアメリカ内分泌学会誌に掲載れています(JCEM
87: 489-499, 2002)。
NHANES 3では、アメリカ国内のあらゆる地域、主要な民族を対象に12歳以上の17,353人のTSH、T4、甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体【TgAb】、抗TPO抗体【TPOAb】)を調べています。このうち、甲状腺疾患の既往や甲状腺腫がなく、甲状腺のクスリを飲んでいない16,533人のTSH、T4、甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体【TgAb】、抗TPO抗体【TPOAb】)の平均値を出しています。TSH、FT4、甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体【TgAb】、抗TPO抗体【TPOAb】)の正常値は、妊婦、女性ホルモンを服用している人、甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体【TgAb】、抗TPO抗体【TPOAb】)陽性者、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症を除外した13,344人から算出しました。TSH、T4、甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体【TgAb】、抗TPO抗体【TPOAb】)の人口統計学的な頻度を示しました。
甲状腺機能低下症はアメリカ人の4.6%(顕性0.3%、潜在性4.3%)に、甲状腺機能亢進症は1.3%(顕性0.5%、潜在性0.7%)にみられました(この論文では、潜在性甲状腺機能低下症とは、軽度甲状腺機能低下症の意味で使われています)。13344人の正常者から算出した正常値は以下の如くです。TSHは1.40mU/Lで、年令とともに増加していた。TSHは白人(平均1.45mU/L)やヒスパニック(平均1.37mU/L)に比べて、黒人(平均1.18mU/L)で低い傾向にあった。抗サイログロブリン抗体【TgAb】は10.4%、抗TPO抗体【TPOAb】は11.3%で陽性であった。これらの甲状腺自己抗体は年令とともに頻度が増え、女性に陽性者が多かった。抗TPO抗体陽性者は、白人(平均12.3%)に比べて黒人(平均4.5%)で頻度が低かった。T4はヒスパニック(平均116.3nmol/L)が白人(平均110.0nmol/L)、黒人(平均109.4nmol/L)に比べて高値であった。上記の民族間での差は、各年代で同じであった。
一見健康と思われる人でも、甲状腺の病気を持っている人は多い。この研究は早期に甲状腺の病気を見つけるスクリーニングの有用性を支持するものである。 |