妊娠中の甲状腺機能亢進症の診断はどのように行われるのですか? |
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一度甲状腺機能亢進症が疑われたら、医師は甲状腺が甲状腺ホルモンを過剰に分泌しているのかどうかを確かめるため、甲状腺機能検査用の血液を採取します。先に述べたように、妊娠悪阻と真の甲状腺機能亢進症で同じ結果が出る場合があるため、別の検査も必要になることがあります。甲状腺に対する抗体を検知する検査がこの2つのタイプの病気の鑑別に役立つことがあります(同様にバセドウ病と他のタイプの甲状腺機能亢進症の鑑別にも有効です)。甲状腺の放射性ヨード取り込み試験はバセドウ病の診断に広く使われていますが、妊娠中に行うことは禁忌となっています。 |
妊娠中の甲状腺機能亢進症の治療はどのように行うのですか? |
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妊娠中の甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンの産生を阻止する薬を使って治療されます。2種類の薬が利用できます。メチマゾール(商品名はタパゾール<注釈:日本ではメルカゾール>)とプロピルチオウラシル(PTU<注釈:日本ではプロパジールまたはチウラジール>)です。一般的に、医師は妊娠中にPTUを使う方を好みますが、これはこの薬が胎盤を通る可能性が低く、胎児の甲状腺に悪影響を与えることが少ないからです。また、まれな頭皮の異常がタパゾールの使用ではめったに起こらないことも報告されています。このような懸念があるにもかかわらず、PTUが胎盤を通りにくいという事実から、PTUは妊娠中に好んで使われる薬となっています<注釈:胎盤通過性は、一回のみの投与の場合に限り、PTUの方が少ないことは事実である。しかし、長期に使用する場合、胎児甲状腺機能を抑制する作用は、メルカゾールとPTUに差はないことが分かっている>。
妊娠が進むにつれて、薬の投与量を調整する必要があります。一般的に、甲状腺機能亢進症のコントロールに必要な投薬量は、妊娠していない状態で必要な量より少なくなります。したがって、医師は患者のモニターをかなり頻繁に、最低1ヶ月に1回行う必要があります。
患者が特に甲状腺の症状に悩まされているのであれば、甲状腺の活動し過ぎが抗甲状腺剤で治まるまで、2〜3週間、プロプラノロール(商品名:インデラール)が治療に使われる場合があります。
希ですが、甲状腺機能亢進症の外科的治療(甲状腺切除術)が妊娠中に必要になることがあります。特に患者に抗甲状腺剤に対する重大なアレルギーがあったり、何らかの理由で甲状腺機能亢進症が薬剤だけで抑えることができない場合です。流産率が高くなる可能性があるため、最初の妊娠3半期では、手術が避けられるのが普通です<注釈:一番安定している妊娠中期に手術を行います>。アメリカで甲状腺機能亢進症の治療に、おそらくいちばん多く使われていると思われる放射性ヨードは、妊娠中に決して使われることはありません。 |
赤ちゃんは甲状腺機能亢進症をもって生まれてくるのでしょうか? |
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バセドウ病は、甲状腺が成長し、甲状腺ホルモンの産生を増やすよう刺激する血液中の抗体によって引き起こされます。これらの抗体は、時に胎盤を通り、胎児の甲状腺を刺激して甲状腺機能亢進症を生じることがあります。しかし、乳児が甲状腺機能亢進症をもって生まれてくる可能性は非常に低いものです。赤ちゃんに甲状腺機能亢進症が起こった場合、それは一次的なものである傾向があり、普通は2〜3週間から数ヶ月しか続きません。一般的に、薬で簡単に治療ができます。乳児に甲状腺機能亢進症が起こる可能性を予測しようと思えば、医師は妊娠後期の母親の血液検査から知ることができます。検査では母親の甲状腺を刺激する抗体が測定されます。このレベルが非常に高ければ、赤ちゃんが甲状腺機能亢進症になるリスクが高いということになります。ただし、この抗体の濃度が高い母親から生まれた乳児のごく一部しか、実際に甲状腺機能亢進症になることはありません。 |
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抗甲状腺剤を飲んでいる母親、特にPTUでは乳児の授乳は差し支えありません。母乳に現れるPTU濃度は、タパゾールに比べはるかに低いのです。薬を飲むタイミングと授乳のタイミングについては医師から指示を受けることができます。 |
出産後の甲状腺機能亢進症の治療はどのようになされるのでしょうか? |
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バセドウ病のために起こった甲状腺機能亢進症は、出産後に悪化することが多く、薬の量を増やす必要があります。したがって、出産後も患者は注意深いモニターを受けることが、母親の健康のためだけでなく、赤ちゃんの世話を十分行うためにも重要なことです。 |