バセドウ病や橋本病は遺伝性の病気で、このような病気になりやすい傾向を父親か母親の片方から遺伝子の中に受け継いでいます。その親や、血のつながりのある他の親族の中に、すでにあなたと同じように活発すぎる、あるいは不活発な甲状腺がある人がいる可能性があります。その一方で、彼らには過去にも現在も甲状腺に何の問題も認められない場合もあります。しかし、これらの親族はバセドウ病に対してあなたと同じ遺伝的傾向を持っているため、気付かれないままの甲状腺の異常があるかもしれません。そして、それはあなたが発見の手助けをすることができるのです。 |
甲状腺機能障害の遺伝的傾向のある年齢の若い親族に、甲状腺の病気が起きた時は、大体活発すぎる甲状腺であることが多いようです。普通はほとんど気付かれないのですが、訴えに関してはかなりはっきりしており、神経質や心悸亢進、手の震え、体重減少、そしておそらく目の突出など、あなた自身が経験したのと同じ症状が含まれることになります。その一方で、他の親族−特に両親や祖父母のような50歳以上の人−には甲状腺機能低下症があることがあります。甲状腺機能低下症の症状は軽いことがあるため(寒く感じる、疲れ、エネルギーがない等)、これらの年配の親族はこれらの症状を“老化”の徴候としてただ受け入れている場合があります。そうではなくて、そのような症状が甲状腺機能低下症のためである場合、甲状腺ホルモンによる治療を受けると気分がよくなり、さらに健康になったと感じるはずです。そのような人の甲状腺は2つの理由から機能不全になりつつある可能性があります。まず、もっと若い時に不顕性の甲状腺機能亢進症があり、病気の自然経過で現在甲状腺機能低下症の方に向かって進行中である場合です。もう一つは、甲状腺が橋本病−慢性リンパ球性甲状腺炎−のために機能不全になりつつある場合です。 |
新しい研究から、家族の中で甲状腺の病気になりやすい傾向を遺伝的に受け継いだ一部の女性の助けとなるもう一つの新しい方法が提案されています。これらの女性は、妊娠後に甲状腺の機能障害を起こしてくるリスクが高く、そのため産科医や家庭医に家族的素因について言っておくことがそのような人にとっては助けになるはずです。甲状腺機能障害が気付かれないまま進んでいくようなことを最小限にするため、出産後何ヶ月かの内に診査とTSHの血液検査を受けるべきです。<第13章>でも述べますが、産科医は産後に甲状腺の病気を起こす危険性のある女性を見分け、生まれてくる子供に甲状腺の機能障害の危険性があるかどうかを見るために、妊娠中に抗甲状腺抗体の血液検査を指示する場合があります。 |
これにはもう一つ別の面があります。この甲状腺のトラブルを起こす傾向を受け継いでいるあなた自身と親族全員が、それ以外のある種の病気を起こす確率も普通より高いのです。<第9章>でもっと詳しく説明しますが、体の様々な部分に関わっており、以下のようなものが含まれます。 |
- 【毛髪】
<若白髪>…30歳以前に白髪が見られる人は誰でも、“若白髪”とみなされます。
<円形脱毛症(斑状の毛髪の喪失)>…軽く、一過性のことが多いのですが、範囲が広く、長く続くことがあります。普通は頭部に現れますが、ひげなど他の毛のある部位に出ることもあります。
- 【皮膚】
<白斑症(皮膚上の白い斑)>…痛みのない白い領域が指関節や手首、ひじ、および首などに対称的に出ることが多い。
- 【血液】
<悪性貧血(ビタミンB12の欠乏による貧血)>…貧血(赤血球の減少)で、他の原因による貧血がないもの。
- 【関節】
<慢性関節リューマチ>…普通、対称的な変形を伴う関節炎で、特に手、手首および足が罹りやすい。朝のこわばりが一般的な訴えです。
- 【目】
<眼球突出症(目の突き出し)>…程度が軽い場合は、上の瞼が上がるだけの場合もあります。
- 【代謝】
<糖尿性糖尿病(糖尿病)>…普通、若年で始まり、インスリンによる治療が必要です。
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糖尿病や若白髪になった人が皆甲状腺の問題を生じるようになると言おうとしているのではありません。むしろ、このような病気はバセドウ病や橋本病のある人とその親族に一般集団より高い頻度で起こる傾向があるということを言っているのです。この観察から考えて、その頻度はおそらく2倍であると思われます。
最初に、医師は治療が必要と思われるこれらの病気の一つが生じることに対して、あなたやあなたの家族をもっと注意を払って見るようになるでしょう。悪性貧血はそのような病気です。
最初は毎日ビタミンB12の錠剤を飲むことでコントロールできることもありますが、最後は毎月ビタミンB12の注射が必要になるのが普通です<第9章>。
2番目に、このような病気の中には、甲状腺機能低下症よりはっきり出るものがあり、そのような病気の存在により、年配の親族の誰が甲状腺の問題の検査を受けるべきかをあなたや医師が知る手がかりを与えてくれます。家族全員が検査を受けなければならないわけではありません。多くの親族にとっては時間とお金の無駄になるからです。しかし、甲状腺に問題を起こすリスクの高い人を家庭医に見せるように勧めることはできますし、おそらくそうすべきでしょう。 |
バセドウ病に罹っている若い女性の家族の中で、甲状腺やそれに関連のある病気の捜し方は、この章の仮想家系図に示してあります【図26】。 |
この家族の甲状腺の病気は、母親の父から母親に、そして患者に遺伝しているようです。したがって、患者の母方の叔母と叔父は、父親から遺伝子の半分を受け継いでいるので甲状腺の病気の診査を受ける必要があります。白斑症と甲状腺腫のある叔父と糖尿病のある叔母は、甲状腺の病気の徴候やそれに関連した病気の徴候がなく、明らかに健康な患者の叔母に比べ、後になって甲状腺機能低下症を起こしてくる可能性が高いと思われます。患者の母親は、若白髪があるためだけでなく、甲状腺機能亢進症の娘がいることで、甲状腺の問題を起こす“危険にさらされている”のです。 |
甲状腺機能亢進症の患者の兄弟の一部と患者の子供の内一人は、すでに甲状腺の病気になりやすい傾向を遺伝している徴候を示しています。しかし、実際に治療が必要な問題(甲状腺機能亢進症)を生じたのは姉一人だけです。 |