この章は、今太り過ぎであり、過去に甲状腺が不活発であるために太っているのだと言われた人のために書かれたものです。ここでの目的は2つあります。まず最初に、なぜ甲状腺機能低下症と言われたか、その理由を理解することと、次に、今本当に甲状腺機能低下症であるかどうかを見つけるための手助けをすることです。 |
あなたが甲状腺機能低下症になったら、一般的に言って同時に太るということはありません。体が使う酸素(その代謝速度)は減少し、甲状腺が正常であった時に比べて身体的活動が不活発になることがあります。しかし、おそらく太るに十分なほどの食べ物は食べないと思われます。さらに、甲状腺ホルモンによる甲状腺機能低下症の治療を始めた場合、最初から明らかに肥満であったとしてもたいして体重は減らないことがあります。治療初期に3〜4ポンド(1〜2キロ)体重が減ることがあるかもしれませんが、これは脂肪の減少というよりむしろ貯まっていた組織液がなくなるために起こるものです。 |
それでも、あなたは他の多くの人と同じように、過去に甲状腺が不活発になっており、そのために肥満が起きていると言われ、今現在甲状腺ホルモン剤を飲んでいるかもしれませんね。おそらく、基礎代謝率検査(またはBMR)、あるいはタンパク結合ヨード(PBI)の血液検査を受けており、それが医師により低い、または“境界域”にあると判定されたのを思い出されるかもしれません。もし、甲状腺ホルモンによる治療を始めてから何週間か経って体重が減り始めた場合、おそらく甲状腺ホルモン治療による“臨床試験”の結果、実際に甲状腺機能低下症であることが確認されたことを告げられることもあるかと思います。 |
しかし、BMRやPBIは甲状腺機能低下症の確定診断を下せる程感度の高いものではなく、特に甲状腺の機能がわずかに下がっている程度の場合ははっきりしません。肥満それ自体がBMRの低下を来すので、甲状腺機能低下であるという誤った印象を与えることもあったかと思われます。今では、軽度の甲状腺機能低下症の診断をつけるのに、医師は血液中の甲状腺ホルモン(サイロキシンまたはT4)レベルの低下と脳下垂体の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の血中レベルの上昇の方を信頼するようになっています。TSHレベルは、甲状腺の機能不全の指標としてずば抜けて感度の高いものですが、血液中の甲状腺ホルモンの量が少なすぎることを感知して脳下垂体がTSHを血液中に放出すると、このレベルが上昇します。1970年以前は、血清TSHを測定することはできませんでした。そのため、医師はもっと感度の低い検査や臨床的判断、そして甲状腺ホルモン治療に対する反応などに頼らざるを得なかったのです。もちろん、最初に検査を受けた時に甲状腺機能低下症であり、今でもその問題を抱えている場合もあるでしょう。その反対に、甲状腺はずっと正常であった可能性もあります。 |
甲状腺ホルモン剤を飲んでいて体重が減ったのであれば、甲状腺ホルモン剤による治療の効果というより、徹底したダイエットを続けたためであるとも考えられます。また、甲状腺ホルモンの錠剤からの偽薬効果もあったかもしれません。:錠剤が体重を減らす効果を持つと信じることで、実際に体重が減った可能性があります。 |
今では、血清TSHを測定することにより、確実に甲状腺機能低下症であるかどうかがわかります。これは3つの理由から重要なものです。まず、診断が古い、感度の低い方法でなされたものであれば、本当に甲状腺に問題があるかどうかを見るために役立ちます。もし、甲状腺が正常であれば、甲状腺の薬にお金を使う必要はありません。長年にわたって甲状腺ホルモン剤を飲んでいた場合であっても、薬が本当に必要ないのであれば薬を止めることができますし、甲状腺の機能は速やかに正常に戻ります。2番目に、高齢者では甲状腺ホルモンの量が多すぎると、頻脈や不整脈、筋肉の弱り、睡眠障害などの症状を引き起こし、健康に害を及ぼすことがあります。3番目に、実際に甲状腺機能低下症がある場合、生涯にわたって甲状腺ホルモン剤を飲み続けなければなりません。家庭医に定期的な血液中の甲状腺ホルモンとTSHのレベルを測定してもらい、甲状腺ホルモン剤の量が正しいかどうか確認する必要があります。これは、若い時に軽度の甲状腺機能低下症であった人が、後になって甲状腺の機能不全の程度が進み、甲状腺ホルモンの量を徐々に上げていく必要があることがよくあるため、大切なことです。 |
これらの理由から、何年も前に不活発な甲状腺あるいは肥満の治療のため、甲状腺ホルモン剤の投与を受けた場合、甲状腺が今正常であるかどうかを見る必要があります。正常であれば薬はいりません。正常でない場合、医師は検査を行い、今必要な甲状腺ホルモンの適正量を決めることができます。 |
医師は甲状腺ホルモン剤の服用を中止させることで、あなたが甲状腺ホルモン剤を必要としているかどうかを、簡単かつ安全に知ることができます。6週間後、血液中のT4とTSHレベルの測定ができます。T4は甲状腺機能の一般的な指標となります。甲状腺機能低下症であれば、T4は低くなっているはずですが、
甲状腺がわずかに不活発になっているだけの場合は“正常範囲”内にとどまっているでしょう。その一方で、TSHは、甲状腺機能低下症であれば、軽度のものであっても必ず正常値以上に増えています。さらに、血清TSHは甲状腺ホルモンの適正な投与量のガイドとして使うことができます。何年間も甲状腺ホルモン剤を飲んでいた場合でも、甲状腺が健康であれば血清TSHは正常になります。 |
まとめとして、あなたが体重の問題に対処しやすくなると信じて、甲状腺ホルモン剤を飲んでいるのであれば、おそらく間違っています。体重がコントロールできているのであれば、成果が出たのはあなた自身の努力のためであり、甲状腺ホルモンの錠剤のためではありません。それでも、甲状腺が正常であるかどうかをはっきりさせることは大切です。医師の監視のもとで、甲状腺ホルモン治療を中止し、サイロキシンとTSHの血液検査を受ければ、そのような薬が必要かどうかがわかります。甲状腺ホルモン剤が必要であれば、定期的に投与量の再チェックをしなければなりません。必要がない場合、甲状腺ホルモン錠に不必要な費用を費やし、しかも健康を害する可能性もあります。 |