時に、事実は小説より奇なりということがあります。例えば、失読症や若白髪、はげ、左利き、そして色素がまだら状に失われる皮膚病である白斑症(これがマイケルジャクソンの“漂白したような皮膚”の原因だと思われます)は統計学的に甲状腺疾患とつながりがあるのです。このような病気はすべて身体的には無害なものですが、これらの遺伝形質の存在が長期にわたる甲状腺疾患の家族歴があることを示している場合があります。この医療費がどんどん上がっていく時代では、家族の病歴を知ることで何百ドルもの費用が節約できることがよくあります。そうでなければ、診断用検査や治療、薬の処方などで何千ドルもかかるでしょう。 |
家族内の甲状腺疾患をたどることは、子供を作る予定があるか、すでに子供がいる場合にも大切なことです。妊娠しているか、妊娠しようと努力している場合、または妊娠できない場合は、主治医が家族の甲状腺疾患の病歴を知っていることが大事です。甲状腺の病気になりやすい傾向があれば、妊娠中にはさらに病気に罹りやすくなります。そして、先に述べたように、不妊の問題は時に、甲状腺疾患とつながっていることがあります(妊娠と甲状腺については<第7章>に詳しく述べてあります)。 |
すでに子供があり、家族に甲状腺の病歴があることを知っている人は、子供が大きくなった時に事実に備えさせ(甲状腺疾患は女性の方に起こる頻度が高いので、娘には特にそうさせるようにします)、10代後半から成年期にかけて定期的に甲状腺ホルモンレベルの検査を受けさせるようすることができます。繰り返しますが、大事なことは不必要な医療費と特定の甲状腺疾患またはその関連疾患のどちらかの誤診から生じうる問題を避けることです。 |
統計学的に、失読症は家族の誰かが甲状腺機能低下症や甲状腺機能亢進症、あるいは橋本病<第3章>の診断を受けたところで、正常な甲状腺機能の家族歴があるところよりも発生する頻度が高いのです。それでも、失読症それ自体が甲状腺の病気で引き起こされるものではないことを頭に入れておくことが大切です。
普通、甲状腺疾患は家族の中の女性が罹りますが、失読症は男性が罹ります。
失読症は矯正でき、数多くの特徴を持つ学習障害です。身体的または言葉の発達の遅れ、つづりや字を書くことがへた、どもり、右と左の混同、そして鏡文字などです。失読症の子供は、読むことに困難を覚え、学問的な分野では成績が悪いことがありますが、普通は非常に頭がよく、体操や美術、音楽に天才的な才能があることが多いのです。失読症の子供、または成人は、左利き、あるいは両手利きのことがよくあります。 |
家族の中に、失読症の症候を示す子供がおり、家族に甲状腺疾患の病歴がある場合、子供の学校に、学習障害専門のカウンセラーを置くことを提唱してみてはどうでしょうか。甲状腺疾患の家族歴がある家系の出であり、子供の頃同じような困難があった人、またはいまだに右と左を混同したり、鏡文字を書いたりする人は、おそらく“診断されていない”失読症であると思われます。いずれにせよ、失読症は身体的に不健全な状態ではなく、適切な指導で治療できるものです。 |
若白髪(30歳以前)になることは、些細な家族の特徴のように見えます。しかし、若白髪は甲状腺機能が正常な人より、甲状腺疾患のある人にはるかに多く起こるというのは、統計学的事実なのです。したがって、家族内の若白髪の遺伝パターンを追跡することにより、遺伝する甲状腺疾患をも追跡することができます。まだら状のはげも家族内に伝わることのある甲状腺疾患のもう一つの手がかりとなります。 |
では、ここでどのように役に立つかを述べてみます。例えば、あなたとあなたの母親、祖母、および曾祖母が皆25歳までに若白髪になったとすると、あなたはおそらく甲状腺の病気が同じように伝わっているという疑いをもつでしょう。そして、主治医に警告して、甲状腺ホルモンのレベルをもっと定期的にチェックするよう頼むことができるでしょう。そのようにすれば、あなたに実際に甲状腺の病気が出たとしても、誤診されたり、診断が遅れる可能性を避けることになるでしょう。 |
1992年に行われたある研究では、調査したバセドウ病患者の70%が左利きまたは両手利きのどちらかであるということがわかりました。そのため、家族内に左利きまたは両手利きの人が何人かいる場合、それはバセドウ病の大きな影が迫っていることを示す大きな手がかりであるかもしれません。 |
白斑症に関しては、これも色素がなくなった斑(白またはピンクがかった斑)が手や腕、首および顔に出るのが特徴の無害な病気ですが、これが家族内に伝わっている場合は、甲状腺の病気に罹りやすいことを医師に警告してください。白斑症に対する効果的な治療法はそれほどたくさんありませんが、皮膚科のクリームの中にいくつか色素の喪失を遅らせるものがあるようです。白斑のある人は必ず皮膚科医の治療を受けるべきです。クリームや薬で状態がよくならない場合、皮膚の色調を揃え、この病気を隠すことができる低アレルギー性のメークアップベースがいくつかあります。 |
甲状腺の病気になりやすい傾向を追跡するもう一つの方法は、家族の中に他の形の自己免疫疾患がいくつあるかを調べることです。紅斑性狼瘡や慢性関節リューマチ、また糖尿病(これらについては<第2章>で述べます)のような他の自己免疫疾患のある人は、明らかに自己免疫性の甲状腺疾患を起こしてくる可能性が最大で10倍高くなっています。 |
自己免疫疾患もまた、男性より女性が少なくとも5倍罹りやすいのです。その一方で、自己免疫疾患の多くは家族内に伝わります。 |
知識は力です。これが患者が自分の運命をコントロールするのに無力だと感じることが多く、医師に頼るようになる理由です。しかし、患者と医師の役割は急速に変りつつあります。私達は、健康や医学についての知識のほとんどを他の情報源−テレビ、ビデオ、映画、雑誌、そしてインターネットから得られる情報時代に生きています。自分の家族歴を知ることが、患者がより多くの権利を持つようになるための最初のステップです。そして、そのことによって自分自身の健康管理に積極的に参加できるようになります。第2のステップは、様々な家族の病気がどのようにあなたやあなたの子供に影響するかを理解することです。 |
甲状腺疾患があなたの家族の遺産の一部であるか、またはあなたが甲状腺の病気に罹っているのであれば、自分自身の病気について理解を深めることで、ストレスや憂うつな思いは相当に緩和されるはずです。ほとんどの甲状腺疾患には一つ以上の治療法が使えるますし、どの方法がいちばんよいのかを自分で決める権利があります。結局は自分の体なのです(もっとうまく医師と付き合う方法についての詳しい情報は<第10章>をご覧ください)。 |
最後に、ほとんどの甲状腺の機能障害のケースでは、自分の手におえない理由でそうなることを理解しておくのが大切です。低ヨードまたは高ヨード食が甲状腺の病気の引き金になることはありますが、このようなことは北アメリカでは希です。ほとんどの場合、甲状腺疾患を起こす引き金となったり、あるいは発病を予防したりする特別な食餌や物質、または活動はありません。ほとんどの甲状腺疾患は遺伝的素質のため、あるいはストレスをきっかけとして発病します。健康的なライフスタイルは常に病気予防のファクターですが、健康で、活動的な人でも、それほど丈夫でない人と同じくらい簡単に甲状腺の病気になります。大事なことは、病気が起こってしまったら、それをよく理解して、できるだけ早くコントロールしてしまうことです。 |