甲状腺ホルモンは、摂取した食物が適切に体全体に行き渡るのを助けます。甲状腺が活動し過ぎまたは不活発かのどちらかになれば、数多くの栄養上の懸念に対処したり、この問題に体を適応させやすくできるように、食餌内容を変える必要があります。しかし、いったん治療され、ホルモンレベルのバランスが取れれば、再度、正常な甲状腺ホルモンレベルに合わせた食習慣に戻し、甲状腺ホルモン剤の効き目をよくするため、たくさん食べる必要があります。 |
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健康な甲状腺を持つ平均的な成人は、正しいエネルギーのバランスと理想的な体重を保つために1日約1,680カロリーを必要とします。甲状腺機能亢進症であれば、同じエネルギーと体重を維持するためだけに、1日あたり160から200%カロリーを増やす必要があります。甲状腺機能亢進症があると、蛋白質や脂肪は正常に分解されません。脂肪の貯えが減り、トリグリセライド(中性脂肪)とコレステロールレベルが低下します。これはこのようなエネルギーのロスを埋め合わせるためにもっとたくさん食べなければならないということです。しかし、ハネムーンは終わるものです(ただし、時に甲状腺機能亢進症では本当の疲労が始まるため、あまり動かなくなって体重がわずかに増えることがあります)。“治って”、甲状腺ホルモンレベルが正常に戻ったら、カロリーを減らす必要があります。さもなければ、間違いなく太ってしまいます。
甲状腺機能低下症の場合、エネルギーと体重を維持するために平均的な人の半分のカロリーしか必要としません。ここでは、脂肪の貯えが増え、コレステロールやトリグリセライド(中性脂肪)のレベルが上がります。このため、脂肪を減らさなければ心臓のトラブルを起こす恐れがあります。事実、摂取総カロリーを50から60%減らさないで、正常な場合と同じように食べれば太ります。甲状腺ホルモンレベルのバランスが取れれば、甲状腺機能低下症になる前と同じカロリー摂取量に増やすことができます。
甲状腺ホルモンレベルは年齢が進むにつれ、あるいは他の病気のために、時々変動することがあります。それに合わせて食べ方を変えることに慣れる必要があります。 |
甲状腺ホルモンは口から腸まで消化器系全体に影響します。甲状腺は食物の吸収や排泄、胃液の分泌、および消化管の運動を助ける働きをします。甲状腺機能亢進症の場合、大変な食欲があるにもかかわらず、体重が減ったり、下痢をしたり、軽度の貧血を生じたり、またカルシウムが骨から失われたり、尿中に排泄されるために骨の喪失が起こったりすることがあります。女性ではこのようなカルシウムの喪失が骨粗鬆症につながることがあります。一般的に、閉経前の女性は1日1,000mgのカルシウムが必要ですが、閉経後の女性は1日1,200から1,500mgのカルシウムが必要です。しかし、食べるものをコントロールすることで、不快な症状を和らげやすくなります。もっと多くのバターやクリーム、チーズなどの乳製品を摂ることで、カルシウムの摂取量を増やします。このような食べ物は体重の維持にも役立ちます。ピーナッツバターやマヨネーズ、および動物性脂肪も同様に効果があります。下痢を減らすため、フルーツジュースや生の果物を減らします。ピーナッツバターは便を硬くするのにも効果があります。甲状腺機能亢進症の人は時に、突然、乳糖不耐症になることがあります。この状態になるとお腹にガスが溜まったり、他の不快感を味わいます。この場合には、牛乳を避けてカルシウムを他のものから補給しなくてはなりません。脂肪は、乳製品以外から補給する必要があります。
カフェインやアルコール、ニコチンは、心臓を刺激することがあるので摂らないようにしてください。また、ビタミン剤も取る必要があるかもしれません(ビタミンA,D,およびEは体内の脂肪に貯えられ、甲状腺機能亢進症の場合排泄されることがあります)。ホルモンのバランスが再び取れるようになったら、脂肪やカルシウムの摂取を減らす必要があります。 |
甲状腺機能低下症では食欲がなくなり(体重は増えるのですが)、便秘や顕性貧血、またカロチンやビタミンAがうまく分散されないため、皮膚が黄色くなったりということが起こります。たくさんの線維が必要です。「ふすま」や全粒粉のパン、豆類、ナッツ、種、果物、そして野菜など。便秘することが多いため、これらの食べ物は規則正しい便通の維持に効果があります。コレステロールやトリグリセライドを下げるため、コレステロールを多く含む食べ物の摂取を減らしてください。内臓や卵、えび、動物性脂肪、および乳製品などです。代りにコーンオイルやある種のマーガリンなどの植物性脂肪を補うようにします。体内に蓄積された様々なビタミンやミネラルを排泄させるため、水分をたくさん摂るようにしてください。また、毎日運動するようにしましょう。栄養士は15分のウォーキングを少なくとも1日3回、長期間続けることを勧めています。甲状腺ホルモンのバランスが取れたら、通常の食餌に戻すことができますが、甲状腺機能低下症のための“生活習慣”をそのまま続ける方がよいでしょう。なぜ運動を止めるのですか。いずれにせよ健康によいことでしょう。なぜ線維の摂取を止めるのですか。 |
甲状腺機能正常状態とは、この本の中で何度か述べておりますが、正常な甲状腺ホルモンレベルのことを言い表す言葉です。基本的に、いちばん健康的な食餌とは、甲状腺機能亢進症や機能低下症のための食餌と生活習慣の組み合わせです。言い換えれば、線維の多い食べ物だけでなく、カルシウムを多く含む食べ物をたくさん食べることです。できれば植物性脂肪を使うようにし、果物をたくさん食べてください。でも、カフェインやアルコールはそのまま続けて減らすようにしてください。そして、運動を忘れないようにしましょう。どちらの側の甲状腺の世界からも利を得るよう、常識を働かせましょう。甲状腺ホルモンレベルが正常に戻り、治療が完了したら、栄養士に予約を取ります。どの病院にも栄養士が雇われておりますし、あるいは家庭医も紹介してくれます。あなた自身の食生活やライフスタイルに合った現実的な食餌プランを栄養士と一緒にまとめてください。
健康的な食餌をすると消化器のホルモン吸収がよくなるため、合成ホルモン剤の効き目がよくなります。抗甲状腺剤で甲状腺機能亢進症の治療がうまく行き、甲状腺ホルモン剤をまったく飲んでいないのであれば、甲状腺機能亢進症再発の引き金となる恐れのあるヨードを多く含む食べ物は避けるようにしてください<注釈:ヨード摂取の多い日本では当てはまりません>。ヨード化塩、海産物、ケルプ、<第12章>に挙げた様々な薬またはビタミン剤などです。良識ある食餌となるよう栄養士にチェックしてもらいましょう。 |
上手に食べて、今日も健康でいたいというのはまったく当然のことです。それは私共のほとんどにとって、食餌に何らかの変化を加えるということを意味します。低脂肪食を食べ、運動する女性は心臓病や卒中になる割合がはるかに低いのです。
上手に食べるということは、主に脂肪を減らし、果物をもっとたくさん食べ、あらゆる色の野菜を食べ、線維を摂るために穀類をたくさん食べるということです。 |
食餌で摂る脂肪は西洋式の食餌の中で、飛びぬけて害の多い要素です。これには肉や乳製品、および植物性脂肪が含まれます。他の脂肪源としては、ココナッツ(脂肪分60%)、ピーナッツ(脂肪分78%)、そしてアボガド(脂肪分82%)があります。最新の理論では、全カロリーの20%を脂肪から摂るだけで十分であると考えられています。しかし、よい脂肪と悪い脂肪の違いはなかなかわかりづらいものです。でも、違うのです。
例えば、オリーブオイルはよい脂肪です。これは単鎖非飽和脂肪で、血液中の低密度脂質(LDL)を減らす傾向があります。LDLは“悪玉”コレステロールとしても知られております。LDLが減ると、善玉コレステロールである高密度脂質(HDL)が増加します。
オメガ-3油は主に脂肪の多い魚に見出されるものですが、心臓によいことが証明されており、また抗腫瘍作用にも関係しているのではないかと思われています。この種の油を含む魚は鮭(天然物のみ。養殖物はだめ)、サバ、銀ダラ、ホワイトフィッシュ(コクチマス科の魚)、ニシン、イワシなどがあります。明らかに、体に良いものですからこれらの魚を頻繁に食べるようにしなければなりません。
高品質のごま油やコーンオイルもよい調理油と考えられています。ごま油は日本食の中にも入っています。 |
悪い脂肪を見分けるのにいちばん良い方法は、室温でどれくらい固まったままであるかを見ることです。例えばラードやバター、マーガリン、そして固形植物性ショートニングのようなものは非常に悪い脂肪です。これらは飽和脂肪をたくさん含んでおり、避けるべきです。事実、脂肪が動脈を通る時には、摂取する前の脂肪の見かけ通りの形になっています。したがって、低カロリーのマーガリンや固形の植物性ショートニングに心をそそられても、だまされてはいけません。循環器病と関連のある転移脂肪酸を含んでいるので、普通のバターやラードよりよいということはないのです。転移脂肪酸は水素添加プロセスを経て作られるものです(これがいろんな油を固形にするものです)。 |
ここに飽和脂肪の定義を述べます。体にコレステロールを作らせるよう刺激するものすべてです。これはコレステロール刺激剤を飲むようなもので、自然にコレステロールを多く含む食べ物より悪いのです。飽和脂肪を多く含む食べ物にはチョコレート、トロピカルオイル(これがココナッツオイルを使ったポップコーンがよくないという理由です)、そしてオリーブオイルとキャノーラオイル(aka菜種油)以外の液体油があります。オリーブオイルとキャノーラオイルは飽和脂肪を含んでいますが、発煙温度が他の液体油より高く、そのことが脂肪を減らしやくします。 |
北アメリカではたくさんのミルクが消費されています。アメリカでは、1年間に1人あたり約350ポンド(158キロ)のミルクを消費しています。これは大体72ガロン(272リットル)分のミルクに相当します。これは1頭の牛から取れるミルクを2人で飲んでいる計算になります。しかし、加熱工程や均質化、滅菌、ビタミンDやホルモン、抗生物質、および他の化学物質など添加物をミルクへ添加することから、多くの人が
それでも“自然のままの完全食品”なのだろうかという疑問を投げかけています。全酪農牛の75%が人工受精であることを考えれば、ミルクは何だかその栄養豊富な食品という仮面がはげたような気がします。
現代のミルクについての面白いことは、ミルクを貯蔵したり保存したりできるようになる前、消費される乳製品のほとんどが、消化を助ける酵素や細菌を含むヨーグルトやケフィール(コーカサス地方で飲まれている乳酒)のような発酵乳製品に限られていたということです。
動物のミルク(ヤギ、ヒツジ、またはロバ)はかつては母乳を与えることのできない母親のためのものでしたが、今日のように人が大量の動物のミルクを摂取することは決して自然なことではありません。
おそらくすべての乳製品の消費を止めるということなどできることではないでしょう。そのため、ここにミルク製品の秘密をばらすことにします。 |
- 全乳はそのカロリーの48%が脂肪からのものである。
- 2%のミルクはそのカロリーの37%が脂肪からのものである。
- 1%のミルクはそのカロリーの26%が脂肪からのものである。
- スキムミルクにはまったく脂肪が含まれていない。
- チーズは、スキムミルクチーズでなければ、そのカロリーの50%が脂肪からのものである。
- バターはそのカロリーの95%が脂肪からのものである。
- ヨーグルトはそのカロリーの15%が脂肪からのものである。
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食餌中の脂肪を減らす最良の方法は、ただ表示を読むだけのことです。カロリーが少ないことを謳っている製品が低塩や低糖であることはあっても、必ずしも脂肪が少ないというわけではありません。“脂肪含有量が低い”と謳っている表示は何か他のものと比べる必要があります。例えば、ラードやバターの含有量より少ない何かであるのかもしれません。“コレステロールフリー”と謳ってある表示を読んだら、おそらくこれは動物性脂肪が入っていないということなのでしょうが、いずれにせよコレステロールレベルを上げる植物性脂肪のような飽和脂肪を含んでいる可能性があります。他にも表示にはトリックがあり、1盛り分の量を低く見積もることなどがあります。例えば、私は大きな目立つ文字でたったの89カロリーという謳い文句が書いてあるポテトチップスか何かの表示にコロッとだまされました。1箱のかなりの量を食べた後で、1盛りあたりまたはポテトチップ6枚あたりで89カロリーであることに気が付いたのです(そして、それはたまたまですが、本物のポテトでさえなかったのです)。
いちばん太りやすい製品の一部が健康食品として売られています。グラノーラバー(赤粗目糖、木の実、干しブドウなどからなる朝食用の食品)(200カロリーの内約半分は脂肪から)、イナゴ豆やヨーグルトキャンディー、そして低脂肪のフローズンヨーグルトでさえたくさん脂肪を含んでいることがあります。特に、フローズンヨーグルトを太りやすい食べ物でトッピングした場合はそうです。
よい脂肪を見付けるのは思ったほど難しくありません。これらはどれもよい脂肪と考えられます。穀物、豆類、種子、および先に述べたよい油です。 |
たぶん知っているかもしれないし…でも、知らないかもしれないこと |
母親のような口調になるのは嫌いですが、直焼きしたり、焼いたり、蒸したり、茹でたり、ローストしたり、あるいは電子レンジで調理する方が、いためたり、揚げたりするより健康にはよいのです。蒸したり、茹でたりした野菜もいけますよ。明らかに、今では茹でた野菜にある種の癌を予防する効果のある耐熱成分が含まれているのではないかと考えられています。蒸したり、ローストするのもよいのです。ここに、もう少し脂肪と戦うためのコツを挙げてみます。 |
- 動物性脂肪(スープやシチュー、またはカレーなどに入っている脂肪として)を冷蔵庫に保存する時はかならず再加熱したり、あるいは食卓に出す前に表面の脂肪を掬い取るようにします。
- 缶入りの食べ物(スープ、ツナなど)から脂肪をいくらか取り除くためには、まず中身をコーヒーフィルターの中にあけましょう。
- バターの代りに何か他のものを使いましょう。ヨーグルト(ポテトに塗るととてもおいしい)低脂肪のカッテージチーズ、またはジャムやジェリーなど。サンドイッチにはバターやマーガリン、マヨネーズなどを使わなくてもおいしくできます。例えばマスタードやヨーグルトなど。
- ノンファット粉ミルクはカルシウムをたくさん含んでおり、脂肪の含有量が低いのです。ミルクやクリームが必要な料理にはその代用に使いましょう。
- デザート用にフルーツを使ったレシピを発掘しましょう。低脂肪ヨーグルトのトッピングをしたシャーベットなど素敵ではないでしょうか。
- 低脂肪の食べ物にはしっかり味付けをしましょう。そうすれば、加えた油の香りを見逃すことはありません。
- ポリサッカライドグルコース(多糖類)を含む製品はよい炭水化物です(穀類、野菜、豆類)。単糖類や二糖類(果物、蜂蜜、乳製品、精製砂糖、その他の甘味料)は悪い炭水化物です。
- よい蛋白質は野菜からのものです(穀類、豆製品)。悪い蛋白質は動物のものです。
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最後に、多くの北アメリカ人は赤身の肉の代りに低脂肪の七面鳥を食べています。これはよいスタートです。どうしても肉を食べなければならない場合は、脂肪の含有量が様々に異なるということを頭に入れておいてください。“最高”の肉は脂肪含有量も最高です。“選択”は少ないものを、そして“選り出す”のはいちばん少ないものをということです。脂の少ない牛肉は明らかに矛盾です。というのは脂を少なくするように飼育された牛の肉ではないからです。 |