今、多くの子供たちが甲状腺癌の診断を受けています。特にチェルノブイリ原発事故の結果、ロシア、ベラールーシ、ウクライナで多くなっています。核実験や原発事故のどちらからも放射性降下物が出ますが、これがこの世界的な小児甲状腺癌の増加の犯人であることが突き止められました(<第6章>と<第11章>参照)。もし、家族や友人にチェルノブイリ事故の結果生じた子供の癌に取り組んでいらっしゃる人がいれば、誰か翻訳できる人に本書のこの項と他の部分の内容を伝えてください。このような情報は現場では手に入らないのです。そして、情報を伝えるべきなのです。 |
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<第6章>で述べたように、甲状腺髄様癌は家族内に伝わるタイプの甲状腺癌です。これは比較的まれではありますが、それでも北アメリカで約50,000人が罹患しています。最近、新しい血液検査で出生時に甲状腺髄様癌のスクリーニングができるようになりました。この血液検査はルーチンに行われるものではありませんが、この種の甲状腺癌に罹りやすい傾向のある家族では、新生児の甲状腺髄様癌に関係した遺伝子の検査を受けることができます。この検査は99%の精度があると考えられています。この検査はミズーリ州セントルイスのバーンズ病院のチームが開発したものですが、ここでは甲状腺髄様癌の様々な研究が行われています。このチームは甲状腺髄様癌の病歴のある2家族の研究で、家族内の47名の人の癌検査を行った結果を報告しています。5名の成人にすでに癌が生じていることがわかりました。その家族内の子供5名がその癌を起こす遺伝子を持っていることがわかりました。これはその子供たちが成長した時に癌を生じ易いということを意味します。 |
一般的に、家族内に誰であれ、この種の甲状腺癌に罹った人がいれば、あなたの赤ちゃんにこの血液検査をしてもらうようにすべきです。赤ちゃんの検査がプラスであっても、赤ちゃんが甲状腺癌であるという意味でなく、ただ将来甲状腺癌になる可能性があるということです。子供が10代になったら、このタイプの癌を定期的にスクリーニングしてもらうようにすべきです。<第6章>でも述べましたが、このタイプの癌は早期に発見すれば、手術や放射性ヨード<注釈:甲状腺髄様癌には放射性ヨードは効きません>でほぼ間違いなく治すことができます。 |
<第5章>と<第6章>で述べたように、子供の甲状腺またはその周囲に硬く、痛みのないしこり、または結節があれば、甲状腺癌の疑いがあります。子供のしこりの中には甲状腺炎によって引き起こされたものや、結局は良性の嚢胞であるとわかるものもありますが、子供の甲状腺やその周囲にしこりが見つかった場合は、そのしこりが癌性である可能性が高いのです。 |
子供の甲状腺結節の調べ方は、大人のものと同じです。したがって、放射性ヨードも使われます(<第5章>参照)。このような場合、甲状腺癌のリスクの方が放射性ヨードで起こるかもしれないリスクよりも大きいと考えられるからです。結節が悪性であるとわかった場合、治療は手術の後に放射性ヨードを使って行われます。繰り返しますが、
甲状腺癌のリスクの方が大きいため、“子供には放射性ヨードを使わない”というルールの例外となります。さらに、子供の癌がもっと進んでいて重症のケースでは、放射線の外部照射が必要なこともあります<第6章>で甲状腺癌の治療法を詳しく述べています)。治療の後、子供は生涯甲状腺ホルモン剤を飲む必要があり、最初の数年間は3ヶ月から6ヶ月毎にフォローアップを受ける必要があります。 |
いちばん難しい部分は、子供に癌であることを告げることです。普通の場合は、子供の主治医から親や保護者に知らされます。そして、子供にそれを告げるのは親や保護者の役目となります。どの癌でもそうですが、ほとんどの子供は、十分に理解できるほどの年になっていれば、その言葉自体を恐ろしがるでしょう。しかし、いちばん悪いのは子供に病気のことについてうそをつくことです。どの子供も理解の程度は様々ですが、10歳以下の子供に対しては、ほとんどの場合、甲状腺の手術を受ける必要があると告げるのがいちばんよい方法です(本当に幼い子供であれば、甲状腺が病気になったので、手術が必要だと言うことができます)。それから、優しく子供にこれから先起こることに対しての心構えをさせるようにします。子供が手術室に行く時に、パニックにならないように、ちょうど冒険物語のように病院旅行のお話で説明した方がよいと思うかもしれません。子供が過去に扁桃腺を取ってもらったことがある場合、それを引き合いに出して、甲状腺の手術はそれと同じようなものだと言ってもよいでしょう(扁桃腺切除術がひどい経験でない限りは)。 |
学齢前の子供であれば、お気に入りのぬいぐるみの動物か、人形を病気に見立てた治療ごっこの方法も使うことができます。その動物か、人形も手術が必要なので、一緒に病院に行くのだと説明し、工作紙で甲状腺を切り抜いて、その動物か人形に貼り付け、やさしい言葉で、動物や人形の甲状腺の働きや、なぜその甲状腺の手術が必要なのかを説明します。おそらくあなたが子供を手術のために病院か、総合病院の小児科病棟に連れていくことになるでしょうが、そのような病院や小児病棟には子供と仲良くなって、子供の恐怖を和らげ、質問に答えてくれる子供専門のソーシャルワーカーや心理療法士、あるいはチャイルドケアワーカーが配置されているのが普通です。また、病院で他の子供と会う機会もあり、子供がさびしい思いをしなくてすみます。疑いなく、あなたの子供はもっとひどい病気の子供に病院で出会うことになります。白血病や嚢胞性線維症、心臓病、腎不全、エイズなどに罹っている子供たちです。そのような子供たちと出会うことで、他の子供たちに比べ、甲状腺の手術がどれ程簡単なものかが理解しやすくなるでしょう。 |
放射性ヨード治療も病院で行われます。小さい子供(10歳以下)に対しては、放射性ヨードは病気を治すための特別なカプセルまたは液体(子供がカプセルか液体のどちらを投与されるかに応じて)だと説明してもよいでしょう。かならず、そのカプセルや液体が害のないものだという事実を強調してください。隔離や治療後の注意事項を説明するのに、その特別なカプセルまたは液体が効き目を現すためには、非常に特殊な指示に従わねばならないのだと説明できます。それから、いろいろな注意事項や隔離の手順について、“特殊な指示”としてただありのままに説明してください。親または保護者の中には、幼い子供に対して特別という言葉の代りに魔法という言葉を使いたがる人がおりますが(例えば、“魔法のカプセル”とか“魔法の液体”)、これはよい方法ではありません。 |
そのことで何が本当で、何がおとぎ話なのかという子供の認識を混乱あるいは歪めてしまうおそれがあります。さらに、“特殊”という方が“魔法”というよりも放射性ヨードの解釈により近いものです。魔法という言葉は科学よりむしろ魔術を連想させるものです。もっと大きい子供あるいは科学に興味を持つ子供に対しては、放射性ヨードのことをもっと科学的な用語を使って説明することができます。そして、実際に子供に放射性物質について教えることになります(もっと詳しいことは<第11章>をご覧ください)。この分野についてあまり詳しくないと感じた場合は、子供と一緒に放射能のことについての説明が載っている科学の本を見るか、学校の先生に頼んでそれがどのように作用するのかすべて説明してもらうようにしてください。あなたと学校の先生とで、子供が自分で放射能について調べ、放射性ヨードや放射能についてクラスで話すスペシャルプロジェクトの監督をすることもできます。 |
子供が外部照射療法も受けなければならない場合、小さな子供に対しては、放射線のことを病気を治すための特殊な光、またはエネルギー光線だと説明してください。また、この光またはエネルギー光線のせいでとても喉が痛くなるという事実にも心構えをさせておかねばなりません。子供が今までに扁桃腺炎に罹ったり、扁桃腺切除を受けたことがある場合、その痛みが扁桃腺炎や扁桃腺を取った時のものと同じだと説明してください。繰り返しますが、もっと大きな子供や科学狂の子供には、もっと科学的な説明をする方がよいのです。 |
大きな子供やもっと大人びた子供に対しては、大人と同じように扱ってください。保護しようとしたり、赤ん坊みたいに扱わないようにしてください。これは「あなたは癌に罹っている」とはっきり言うことではなく、なぜ手術が必要なのか、それで何が起こるのか、そしてその後でどのような治療が必要になるのかをきちんと話すということです。 |