■ |
単発性中毒性腺腫として知られている別の種類の良性の増殖物があります(<第2章>でも述べております)。これは、細胞のかたまりまたは単独の増殖物のどちらかが生じ、すべての甲状腺機能をのっとります。この場合、甲状腺機能亢進症を起こすため、この腺腫は中毒性です。腺腫が甲状腺の主要部をハイジャックし、甲状腺ホルモンの生産をすべて引き受けます。脳下垂体は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)をつかさどるところですが、この状態に混乱をきたして、スイッチを切ってしまいます。それから起こることは、監視システムが作動しなくなり、腺腫が過剰なサイロキシンを作るようになることです。これは、中高年の患者に多く見られます。単発性中毒性腺腫は、甲状腺疾患の一つのタイプであり、悪性ではありません。これは発育を抑える甲状腺ホルモン剤で簡単に治療できます。 |
穿刺針生検(または切除針生検)として知られているものは、FNAの“親”にあたります。言い換えれば、FNAがペンティナム型コンピューターだとすれば、穿刺針生検は386型ということです。まだ使えるし、ウィンドウズを作動させることもできますが、FNA程早く、効率がよくないというだけです。穿刺針生検は、FNAが利用できない場合に行われることになります。方法は、もっと大きな針が使われ、採取する甲状腺組織の量が多いことを除き、まったくFNAと同じです。これには局所麻酔が必要です。穿刺針生検は病院でも外来で行われ、FNAに比べてもう少し出血が多く、穿刺部位の内出血も多くなる可能性があります。 |
FNAまたは穿刺針生検のどちらかを受ける際は、アスピリンやイブプロフェンなどのような血液が固まるのを遅くするような薬物の服用は避けた方がよいでしょう。処方されている薬を飲んでいる場合は、処置を受ける前に医師に知らせるようにしてください。薬を飲んでいるからこのようなことができないというわけではありませんが、薬の服用を避けることで、ただ出血のリスクを減らすというだけのことです。処置がすめば、傷口にバンソウ膏を貼って、家に帰ることができます。いくらか圧痛があったり、後で腫れたりすることもありますが、24時間以内によくなります。熱が出たり、出血が始まった場合は、直ちに医師のもとへ行くか、救急室に行くようにしてください。これは傷口が感染した徴候である可能
性があります。 |
しこりが甲状腺の表面近くか内部にある場合で、医師が悪性の可能性があるという疑いを持っている場合は、全身麻酔下でもっと大きな手術を求められることになります。しこりのサイズとどこにあるかにもよりますが、部分的に甲状腺を取るだけですむ場合があります。これが葉切除あるいは甲状腺部分切除と呼ばれるものです(甲状腺は2つの葉に分かれています)。このような状況下で、甲状腺の大部分を取ったり、または甲状腺全摘術(甲状腺を全部取ってしまうこと)が行われる場合もよくあります。 |
甲状腺スキャンは、血液検査の代りに、また生検に先立って行われることがよくあります。これは甲状腺の形を写真で調べる画像検査です。この検査には放射性ヨードのトレーサーも使われます。甲状腺スキャンは、24時間の検査で、その目的は疑わしい結節のチェックにあります。正常な場合、甲状腺は甲状腺ホルモンを作るためにヨードを取り込みます。しかし、甲状腺に異常を来たした場合、放射性ヨードが取り込まれません(もっと詳しいことは<第11章>をご覧ください)。要するに、放射性ヨードスキャンは、甲状腺組織の異常の程度を測るものなのです。 |
まず最初に、少量の放射性ヨードを投与され、その後帰宅します。翌日(12時間後)病院に戻り、そこで甲状腺の写真を画像装置で撮影します。甲状腺には十分放射性ヨードを取り込む時間があったはずです。これで、医師はしこりがどの程度疑わしいものであるかを甲状腺が吸収した放射性ヨードの量で知ることができます。もっと新しいテクネシウムと呼ばれるトレーサーが今では多くの病院で広く使われています。少量のテクネシウムを投与された後、2時間<注釈:普通は20分後に撮影します>待つだけでスキャンを受けられます。これは明らかにはるかに便利なトレーサーです。 |
“ホット”結節は甲状腺内に生じた、機能性の甲状腺細胞でできたしこりのことです【図5.2】。したがって、内部の細胞はヨードを見分けるだけの知能を持っているため、このようなしこりは熱心にヨードを取り込みます。結節が機能しているか、ホットであれば、癌でない確率が高くなります。このようなケースで見られるしこりは、結節がいくつか集まって多結節性甲状腺腫(この後と<第2章>で述べております)を作っているか、孤立性の中毒性腺腫のどちらかです(前に述べております)。 |
【図5.2】“ホット”と“コールド”結節 |
|
|
“コールド”結節は、ヨードを認識する知能がなく、したがってヨードを取り込めないもっと原始的な細胞でできています【図5.2】。そのため、コールド結節は癌である疑いが強く、またその可能性も高いのです。しかし、すべてのコールド結節の中で、実際に癌であるとはっきりするのは10%にしかすぎません。コールド結節とは単に結節を作っている細胞が異常で、原始的であるということを意味しています。しかし、それでもこれらの原始的細胞の活動性を確かめなければなりませんが、それは生検を通じてしかできません。スキャンでホット結節しか見つからない場合、医師はおそらく生検の必要を認めないでしょう。これは癌性の結節は決してホットではないからです。スキャンでコールド結節だけ、あるいはホットとコールド結節が混じって見られたら(このようなことは多結節性甲状腺腫によくあります)、コールド結節が悪性か良性かを調べるために、かならず生検が行われます。コールド結節は単に疑わしい結節ということを意味するもので、癌のことではありません。コールド結節が癌性であるかどうかを最終的に確かめることができるのは、生検のみです。 |