McDermottとRidgwayは、最近の米国内分泌学会誌で「潜在性甲状腺機能低下症は軽度の甲状腺機能不全であり、治療すべきである」という論文を発表している(J
Clin Endocrinol Metab 86; 4585-4590, 2001)。今回の研究は、コロラドで行われた住民検診で潜在性甲状腺機能低下症は想像以上に多いという2000年に発表されたRidgwayらの論文(Arch
Intern Med 2000; 160: 526-534 )が基になっている。
彼らは、「潜在性甲状腺機能低下症は頻度が多く、顕性甲状腺機能低下症になる可能性が高い」と述べている。また、「潜在性甲状腺機能低下症は、身体的症状、うつ状態、記憶および認識力低下、軽微な神経筋肉系の異常、収縮期および拡張期の心機能低下、血清総コレステロールやLDL-コレステロール(悪玉コレステロール)の増加、動脈硬化の危険性の増加と明らかに関与している。全てではないが、多くの研究で甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を投与することで、これらの不利益が改善されることがわかっている。さらに、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)でそれらの疾患を予防することは、費用の削減にもつながる」と言っている。すなわち、「軽いときに治療して顕性甲状腺機能低下症を予防するという考え方である。特に、将来、顕性甲状腺機能低下症に陥りやすい抗甲状腺自己抗体(抗マイクロゾーム抗体、抗サイログロブリン抗体、抗TPO抗体)陽性の患者は治療すべきである」とも述べている。彼らは、潜在性甲状腺機能低下症を持つ患者のうち、次のような状況の人は甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)で治療すべきであると勧めている;症状のある場合、他の心血管系の危険因子を持っている場合、甲状腺腫のある場合、抗甲状腺自己抗体(抗マイクロゾーム抗体、抗サイログロブリン抗体、抗TPO抗体)陽性の場合、妊娠している場合。しかし、潜在性甲状腺機能低下症を治療することで利益はあるが、まだ解決しなければならない問題点が多いことも認めている。例えば、前向き、無作為、偽薬コントロール研究がほとんどなされていないことをあげている。トピック[017]で取り上げた研究が症状とコレステロールに関しての答えを出してくれている。 |