常染色体優性遺伝非自己免疫性甲状腺機能亢進症におけるTSHレセプターの生殖細胞系列遺伝子変異 |
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バセドウ病による甲状腺機能亢進症が家族内に頻発することはよく知られた現象である。常染色体優性遺伝の非自己免疫性甲状腺機能亢進症は15年前に記述されている(44)。TSHレセプター遺伝子とGs
αの体細胞突然変異が自律的機能性甲状腺腺腫で証明されてから、非自己免疫性甲状腺機能亢進症を持つ家族に対し、TSHレセプター遺伝子の生殖細胞系列遺伝子変異<注釈:突然変異には、生殖細胞系列遺伝子変異と体細胞突然変異がある。生殖細胞系列遺伝子変異とは、生殖細胞での遺伝子変異を指すものである。受精直後の細胞に変異が生じれば、その後、細胞が分裂してできた個体すべての細胞に同一の変異を持ってる。その個体の生殖細胞を調べることはすでに細胞がたくさん分裂した後ですので、実際には不可能である。したがって、生殖細胞系列由来の細胞(一般的には白血球、口腔内上皮など)を調べることにより、生殖細胞系列遺伝子変異の有無を調べたことにしているわけである。しかしそれは白血球や口腔内上皮などに遺伝子変異をおこすような異常をもっていないことが大前提で、白血病など後天的に染色体転座や変異がおこったときには、白血球を調べて変異があってももそれは生殖細胞系列遺伝子変異ではないかもしれない。一方、体細胞突然変異とは、生殖細胞系列遺伝子変異と異なり、個体の臓器や器官が形成された後に、ある細胞に遺伝子変異が後天的に生じ、それが腫瘍内に認められるもの。この場合、腫瘍に存在する変異は、生殖細胞系列の遺伝子を調べても同一のものは認められない>について再評価が行なわれた。
遺伝性の非自己免疫性甲状腺機能亢進症のある2つの家族で、生殖細胞TSHレセプター遺伝子の塩基配列決定がなされ、それにより構成的に活性化するヘテロ接合性生殖細胞系列遺伝子変異が見つかった(45)。これら2つの生殖細胞系列遺伝子変異のin
vitroでの機能的特徴は、自律的機能性甲状腺腺腫(1)ですでに記載されている特徴と同様のものであり、罹患患者の甲状腺腫大と甲状腺機能亢進症はこれにより説明できる。
その後、生殖細胞TSHレセプターに異なった突然変異がある家族が他に6家族見つかった(7,9,11,46)。これらの患者には、甲状腺眼症や前脛部粘液水腫、あるいは甲状腺のリンパ球浸潤のようなバセドウ病による甲状腺機能亢進症の臨床症状がないばかりでなく、どのような甲状腺自己抗体もなかった。ほとんどの患者で甲状腺が腫大していた。甲状腺機能亢進症は新生児から大人までどの時期にも起こりうる。発症時の年齢にこのようなばらつきがあるのは、おそらく遺伝的コンポーネントとヨード摂取量や食餌性甲状腺腫誘発物質などの外的ファクターによるものと思われる。これらの患者に対しては甲状腺組織を完全に破壊する治療(手術または放射性ヨード)が必要である。その理由は多数の家族で甲状腺亜全摘後、甲状腺機能亢進症が再発し、結果的に2次的な手術または放射性ヨード治療を行なわねばならないことが報告されているからである。
生殖細胞系列遺伝子変異は遺伝することもあり、あるいは自然に起こることもある。散発性先天性甲状腺機能亢進症に罹った4名の乳児で、TSHレセプター遺伝子の生殖細胞系列遺伝子変異が確認された(9,14,17,47)。4名の乳児全員が甲状腺抗体陰性で、重症の持続性甲状腺機能亢進症に罹っていた。全ケースで、両親は甲状腺正常状態であり、TSHレセプター遺伝子の生殖細胞系列遺伝子変異やバセドウ病はなかった。したがって、これらの患者は散発性先天性非自己免疫性常染色体優性甲状腺機能亢進症患者であると分類された。4名の患者のうち2名は、抗甲状腺剤で治療中も甲状腺機能亢進症が続き、急速に腫大する甲状腺腫があったために甲状腺切除術で治療を行なった(17,47)。
【図1】に示すように、自律的機能性甲状腺腺腫患者の体細胞突然変異や常染色体優性遺伝非自己免疫性甲状腺機能亢進症患者の生殖細胞系突然変異のどちらとしても数多くの突然変異がTSHレセプター遺伝子に見つかっている。これは共通の病理性理学的メカニズムを確信させる証拠である。さらに、散発性非自己免疫性甲状腺機能亢進症が、結局は遺伝性疾患になることがある。ごく早期に甲状腺機能亢進症の発病が、先天性非自己免疫性甲状腺機能亢進症の子供を持つ2名の女性で報告されている(12,46)。
TSHレセプター遺伝子での様々な突然変異がc-AMP伝達系の異なった活動を生じるかどうかについての疑問には、主に11個の突然変異についてin
vitroの研究で取り組んでいる(1)。突然変異の基本的活動は様々に異なっている。ほとんどの突然変異はc-AMP伝達系のみで活性化されるが、5個(I486M、A623I、I568T、T632I、およびI486F)<注釈:例えば、最初のI486Mは486番目のアミノ酸イソロイシンがメチオニンに置換されていることを示す>はホスホリパーゼC依存性伝達系でも活性化される。しかし、体細胞突然変異と生殖細胞系突然変異のin
vitroでの活動は同じであり、ホット結節に異なった突然変異のある患者または生殖細胞系突然変異のある家族で発現型の違いはない。
それにもかかわらず、TSHレセプター遺伝子に生殖細胞系突然変異のある患者の臨床的特徴に基づいて何らかの予備診断および治療の結果を導き出すことができる。複数のメンバーが非自己免疫性甲状腺機能亢進症に罹っている家族、および散発性先天性甲状腺機能亢進症に罹っており、自己免疫疾患の証拠がない人では、TSHレセプター遺伝子の突然変異を捜すことが適応となる。突然変異の確認のみが確定診断につながるのである。生殖細胞系突然変異のある患者は早期に甲状腺をできる限り取ることで永久的に甲状腺機能亢進症をコントロールし、再発を防ぐ治療を行なうべきである。 |
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