バセドウ病に対して、抗甲状腺薬と甲状腺ホルモン剤の併用療法は以前からヨーロッパの医師が好んで行ってきた治療法です。この治療法はBlock
& Replacement Therapy(BRT)と言われています。多めの抗甲状腺薬でバセドウ病の免疫機序を抑えるため(Block:抗甲状腺薬で甲状腺ホルモン産生を抑えること)に、当然、抗甲状腺薬が効きすぎになり甲状腺機能低下症になりますので、甲状腺ホルモン剤(チロナミンまたはチラーヂンS)を飲んで(Replacement:甲状腺ホルモン剤を服用すること)甲状腺機能低下症を防ぐわけです。メリットは頻繁に血液検査をしなくていいことです。経済的な利点があり、ヨーロッパでは支持されているわけです。
日本の研究者が1991年にNew England Journal of Medicine(NEJM:ニューイングランド医学雑誌)という世界最高の医学雑誌に、抗甲状腺薬と甲状腺ホルモン剤の併用療法を行ったところ、バセドウ病の98%が治ったと報告しました。当時は、その報告を読んでみんな驚いたものです。その方法を簡単に説明しますと、血中TSH値が正常になるまでメルカゾールを飲み続けた後(この研究では6ヶ月間、メルカゾール6錠/日服用します。この量を6ヶ月間も服用すると、ほとんどの患者は甲状腺機能低下症になります。この点が、最初から納得できませんでした)、メルカゾール2錠/日に減量してチラーヂンS(50)2錠/日を併用する。治療開始して18ヶ月後、メルカゾールは中止し、それからチラーヂンS(50)2錠/日だけ3年間飲み続ける治療法です。しかし、それから世界中で追試が行われ、同じ結果はでませんでした。現在では、彼が行ったやり方でのBRTは効かないという認識が一般的です。もし、本当に、彼が言うように98%の寛解率があるのなら、誰が行っても同じ結果がでなければなりません。
厳密にいいますと、BRTには3通りのやり方があると思うのです。
- 前述した日本人研究者が行ったやり方
- ヨーロッパの医師が以前より行っているもので、メルカゾール4〜6錠/日と甲状腺ホルモン剤をずっと併用するやり方
- メルカゾールが効きすぎたときに、一時的に甲状腺ホルモン剤を併用するやり方
結論的に申しますと、どのやり方でもバセドウ病の寛解率(抗甲状腺薬を中止できること)に差がないということです。個人的には、わたしは3番目のやり方しか行っていません。これは、医師の好みもあると思います。
一方、日本で普通に行われている抗甲状腺剤を徐々に減らしていく方法は、その度に検査が必要で費用がかかる欠点があります。しかし、日本やアメリカでは、圧倒的にこのやり方が多いと思います。どちらが良いかは、結論は出ていません。
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