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[024]2002年2月1日
[024]
非中毒性多結節性甲状腺腫の診断と治療:北米の場合
田尻クリニック / 田尻淳一
多結節性甲状腺腫というのは聞き慣れない病名と思いますが、日本では腺腫様甲状腺腫と呼ばれています。非中毒性と中毒性に分けられます。非中毒性とは甲状腺ホルモンが正常なもので、中毒性とはシコリが甲状腺ホルモンを産生して甲状腺ホルモンが高いものです。

Bonnema SJらは、最新のJCEM誌(J Clin Endocrinol Metab:アメリカ内分泌学会誌)にて、北米での非中毒性多結節性甲状腺腫の診断と治療の現状について報告している(87: 112-117, 2002)。非中毒性多結節性甲状腺腫の診断と治療を調査するために、典型的な症例を呈示して診断と治療に関して、アメリカ甲状腺学会会員全員にアンケートを送った。提示した症例は、42歳女性で、50〜80gの大きさに甲状腺全体が腫大(表面は凸凹しており、圧痛はない)していて、癌や甲状腺機能異常はみられない。診断のための検査として、血清TSHは回答者の100%(今後の%は回答者に対しての意味である)が検査すると答えた。抗TPO抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)は、74%が行っていた。血清TSH、FT4(フリーT4)、抗TPO抗体を同時に検査していたのは、49%である。超音波は59%、甲状腺シンチは24%、超音波と甲状腺シンチを同時に行うのは11%であった。穿刺吸引細胞診は74%で行っていた。もし、甲状腺シンチで取り込みが不均一であれば、穿刺吸引細胞診は15%、甲状腺シンチでコールド結節<注釈:放射性ヨードの取り込みがみられないこと>があれば、穿刺吸引細胞診は97%で行っていた。治療では、56%が甲状腺ホルモン剤(日本ではチラーヂンS)投与を行うと答えた。1%が放射性ヨード治療、6%が手術、残り36%は経過観察のみと答えた。甲状腺腫がもっと大きな症例、頸部に放射線照射をした既往のある症例、甲状腺腫が急速に増大してくる症例は手術を選択する率が増す。血清TSHが抑制されている症例<注釈:甲状腺ホルモンが正常でTSHが低い状態で、潜在性甲状腺機能亢進症といわれる>では、56%が放射性ヨード治療を行うと答えている。

結論として、アメリカの甲状腺専門医は、非中毒性多結節性甲状腺腫の診断には、血清TSHを一番重要と考えている。約半数が、血清TSH、FT4(フリーT4)、抗TPO抗体を同時に検査している。画像診断は超音波が主体で、約2/3以上が行っていた。穿刺吸引細胞診は3/4が行っていた。非中毒性多結節性甲状腺腫の診断方法のうちでも超音波と穿刺吸引細胞診は、ヨーロッパの甲状腺専門医に比べると施行頻度が低かったが、治療法はほとんど同じであった。アメリカ、ヨーロッパにおいても、治療法としては甲状腺ホルモン剤が一番好んで使用されていた。

日本に目を向けてみると、このような研究がされていないというのが実状です。日本甲状腺学会が会員にアンケートを出して、同じような研究を行うべきであると思います。バセドウ病では、日米欧で診断・治療法についての比較がされています。日本で、非中毒性腺腫様甲状腺腫(非中毒性多結節性甲状腺腫)の診断、治療がどのように行われ、それが欧米と違うのかどうかを患者さんに示すべきと考えます。
. Dr.Tajiri's comment . .
. 腺腫様甲状腺腫(非中毒性多結節性甲状腺腫)の治療法は、日本では手術が多いように思います。わたしの個人的な経験では、甲状腺ホルモン剤で縮小する例が結構あると思います。一番気を付けることは、癌の合併です。超音波で怪しいところは積極的に超音波下穿刺吸引細胞診をおこなうべきです。

ヨーロッパでは、非中毒性多結節性甲状腺腫に対してアイソトープ治療を行って良好な成績を報告してきています。これから期待される治療法でしょう。

腺腫様甲状腺腫(非中毒性多結節性甲状腺腫)について以下を参考にしてください。
非中毒性多結節性甲状腺腫の放射性ヨード治療
非中毒性甲状腺腫の治療について
甲状腺良性結節の治療
甲状腺結節の診断と管理のためのAACE臨床ガイドライン
甲状腺結節および分化型甲状腺癌患者の治療ガイドライン
甲状腺の不規則な腫大(シコリ)と良性結節
甲状腺のしこりと腫瘍
甲状腺結節の説明
甲状腺検査について知っておくべきこと
わたしの治療方針
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