英国のFranklynらのグループは、813例の甲状腺機能亢進症患者(バセドウ病と中毒性結節性甲状腺腫:日本に比べるとヨーロッパではシコリが甲状腺ホルモンを過剰に作る機能性結節【中毒性結節性甲状腺腫】の頻度が高い)に対して5mCiと10mCiという2つの固定したアイソトープ(131-I)投与量で治療を行い、治療効果の予測について検討した(J
Clin Endocrinol Metab 86; 3611-3617, 2001)。結果は、5mCi(一回で治る率66.6%)に比べて10mCi(一回で治る率84.6%)を投与した方が、一回の投与で治る確率が高いことが分かった。しかし、当然のことながら、一年後に甲状腺機能低下症になる確率が高かった(5mCi:41.3%、10mCi:60.8%)。他の要因としては、男性、甲状腺ホルモンが高い症例(症状が強い)、中等度〜大きな甲状腺腫(目で見える大きさのもの:因みに小さな甲状腺腫とは目で見えないが、触診でわかるものと定義している)を持つ患者が、一回の投与で治る確率が低いことが分かった。結論として、男性、甲状腺ホルモンが高い症例、中等度〜大きな甲状腺腫を持つ患者に対しては、10mCi以上を初回に投与することを今後検討すべきであるとしている。
欧米の医師は、甲状腺機能亢進症(特にバセドウ病)のアイソトープ治療に対する最終目標は甲状腺機能低下症にすることと考えている人が多いようです。本などを読んでいても、アイソトープ治療のゴールは甲状腺機能低下症と書いています。ある本では、「日本の医師はアイソトープ治療を楽しんでやっている」とからかった言い方をしている医師もいます。これは、国民性の違いと医療制度の違いが大きいと思います。すなわち、日本では患者さん自身が大きな変化を望まない、言い換えれば、即、甲状腺機能低下症になることを好まないということです。10年後に半数の人が甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモン剤を飲むという治療なら、納得していただけます。少量のアイソトープを分割して投与するやり方です。時間がかかりますが、こちらを好む方が多いようです。日本は、世界に類を見ない国民皆保険という制度がある国です。最近は、その制度も限界がきているようですが…。
一方、欧米(特にアメリカ)では、基本的に医療費は自費であり、高いですから一回で治すことを要求されます。これは患者さんのニーズです。いつの世でも、患者さんのニーズに応えるのが医師の勤めです。今回の論文も、一回のアイソトープ治療でどれくらい効果的に治るかを検討したものです。この情報が、日本には当てはまらないことは分かっていますが、外国の現状も知って欲しかったのです。 |