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正常では甲状腺は軟らかいために触知しない。もし、甲状腺を触れたら甲状腺の病気を持っていると考えて間違いない。診察の第一歩は、甲状腺の触診をしっかりすることである。基本的には2つのポイントがある。男性と女性では甲状腺の位置が違うこと、輪状軟骨を確認することである。びまん性甲状腺腫にしても甲状腺結節にしても、大きいものは目で見て分かる。 |
- 『男性と女性では甲状腺の位置が違う』
男性は女性と比べて、甲状腺の位置が低い【図1】。そのため、触診が難しいことがある。
- 『輪状軟骨の確認』
甲状軟骨の下にある輪状軟骨をまず確認する。両手の親指の腹を輪状軟骨の下で気管の両側にあて、気管壁に沿って下へ移動させ、気管壁の外壁がたどれなくなったときや左右差を感じたら、その部位から辺縁をたどっていく。びまん性の小さい甲状腺腫は、気管壁をたどっていって厚みを感じたら、そこで患者さんに唾を飲み込んでもらう。甲状腺腫が気管と一緒に持ち上がってくるので、確認できる。燕下運動で上下しないものは甲状腺以外のものである。シコリ(結節)の場合は、指に左右差を感じるので分かりやすい。
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【図1】 |
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現在では、超音波でびまん性甲状腺腫や甲状腺結節の体積が簡単に測れるようになっている。しかし、触診による甲状腺腫の大きさをカルテに記載すべきである。この大きさが、今後の経過をみていく上で基準となる。びまん性甲状腺腫では、甲状腺両葉の縦径と横径の長さを、甲状腺結節では、縦径と横径の長さを記載する。
次に、びまん性甲状腺腫と甲状腺結節の触診所見について簡単に述べる。 |
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若い人では甲状腺腫は軟らかいことが多く、中年以降は甲状腺腫が硬いこともある。男性は、胸鎖乳突筋の発達した人は触れにくいので、燕下などしてもらって注意深く触診することが必要である。このことは全ての甲状腺腫の触診で共通した注意事項である。 |
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基本的には、甲状腺腫は硬い。表面の凹凸があったり、結節のように触れることもある。そのような場合には、超音波で確認する必要がある。 |
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軟らかく小さな甲状腺腫である。慢性甲状腺との鑑別は、触診では不可能である。 |
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痛みを伴う甲状腺腫なので、診断は簡単である。しかし、稀に痛みのない亜急性甲状腺炎がみられ、この場合は硬い甲状腺腫を触知し、甲状腺癌との鑑別に穿刺吸引細胞診を必要とする。 |
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甲状腺以外の腫瘍は、燕下運動で動くことはない。甲状腺結節の触診で良性・悪性の鑑別には、結節の大きさ、硬さ、周囲組織との癒着、表面が平滑か不正であるか、形が球状であるか不整であるかなどであるが、例外も多い。結節が、単発性か多発性かは良性・悪性の鑑別には重要である。結節が多発している場合は、癌のことは少なく、たいていは腺腫様甲状腺腫である。 |
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球形をしており、表面が平滑で、上下によく動く。ほとんどは単発性である。大きなもの、最近大きさが増大してきているものは濾胞癌の可能性がある。 |
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嚢腫はしばしば周囲炎や内部への出血を繰り返すうちに硬度を増し、気管と癒着して動きが悪くなり、癌と間違いやすい。しかし、一般的に表面が平滑である。 |
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しばしば両葉に結節を多発性に触れる。単発性のこともある(腺腫様結節)。甲状腺がびまん性に腫大して触れることもあり、慢性甲状腺炎との鑑別が触診では難しいことがある。腺腫様甲状腺腫では、時として大きく腫大することがあり、前縦隔に腫大が及び、甲状腺下縁を触知出来ない。このようなことは、慢性甲状腺炎ではめったにないので、腺腫様甲状腺腫の可能性が高い。 |
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触診上、癌を疑わせる所見としては、硬い、可動性がないこと、転移リンパ節を触れるなどである。しかし、硬い、可動性がないことなどの点から癌と紛らわしいものとしては、結節状に触れる慢性甲状腺炎、痛みのない亜急性甲状腺炎、発生してから長期間経っている嚢腫がある。
乳頭癌は上記の癌の触診所見が一番みられるものである。濾胞癌は触診上では、良性結節の所見を呈し、触診で癌を診断することは難しい。髄様癌は頻度も少なく、触診で診断するのは困難である。未分化癌は急速に増大し、受診時にはすでに気管圧迫症状として呼吸困難などが出現していることがある。 |
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急速な甲状腺腫大が特徴である。甲状腺腫大は片葉のこともあり、両葉のこともある。未分化癌と比べて、炎症所見がないことも特徴である。慢性甲状腺炎を発生素地としているので、慢性甲状腺炎と触診所見が似ており、紛らわしいことがある。 |
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