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この患者にはどの薬を使用すべきか、プロピルチオウラシル(PTU:チウラジールまたはプロパジール)かメチマゾール(MMI:メルカゾール)? |
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この質問に関しては、さらに多くの質問がでてくる。例えば、どちらの薬がより効果的で、より早く作用するか?どちらの薬が、副作用が少ないか?どちらの薬が、規則的に服用が可能か?どちらの薬が、より経済的か?どちらの薬が、放射性ヨード治療の効果を減弱させるか?抗甲状腺剤は放射性ヨード治療後に投与すべきか? |
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どちらの薬がより効果的であるか?
メルカゾール30mg/日(朝、昼、夕10mg;66例)とPTU300mg/日(朝、昼、夕100mg;17例)を投与した場合、甲状腺ホルモンが正常になるまでの期間を比較した後ろ向き試験がよく引用される(7)。この研究結果から、メルカゾールがPTUと比較して甲状腺機能をより急速に正常化させることが示唆された。しかし、この研究は無作為対照試験ではないため、メルカゾールを投与された患者とPTUを投与された患者の治療前の甲状腺機能が同程度であったかどうかが不明であり、どちらの薬物を投与するかをどのような基準で決めたのかも不明である。PTUとメルカゾールが比較された3つの前向き無作為対照試験があり、結果は優劣をつけがたいものである。1つの小規模試験では、29人の患者が無作為にメルカゾール30mg/日(一回服用)とPTU300mg/日(朝、昼、夕100mg)を受けるよう割り当てられた(8)。22人の患者が、甲状腺機能を毎月検査され、試験を終了した。メルカゾールを投与した患者で、血清フリーT4とT3は早く正常化したが、統計学的に有意だったのは血清T3値だけであった。別の研究において、94人の患者が無作為に12、8、6時間ごとにメルカゾール10mgまたは12、8、6時間ごとにPTU100mgを服用するよう割り当てられた(9)。評価基準は、治療12週後の血清フリーT4値である。両方の薬で一番少ない量を服用した患者を除いて、12週後にはほとんどすべての患者はフリーT4値が正常になっていた。結論は、両方の薬は有効性に関して同等であった。しかしながら、本研究では血清T3値は測定されておらず、効果の比率も評価されていない。3番目の研究では、71人のバセドウ病患者を無作為にメルカゾール15mg/日とPTU150mg/日に割り振り、12週間投与した(10)。フリーT4とT3が毎月検査された。予想通り、フリーT4とT3値はメルカゾール服用群において、すべての時点で低値を示した。多分、PTUの投与量が多くの場合治療量以下だったことが原因であろう。事実、12週後、PTU治療をうけている患者の19%だけが甲状腺ホルモン値が正常になったのに対し、メルカゾール治療をうけている患者の77%は甲状腺ホルモン値が正常になった。要約すると、メルカゾールの方がよりいくぶん効果的だったにもかかわらず、治療上同等量で2つの薬を臨床的に適切な時点で効果を比較しているのは、現時点では1つの小さい前向き無作為化試験があるのみである。 |
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どちらの薬が、副作用が少ないか?
PTUとメルカゾールは、約1〜5%で軽い副作用がみられる(発疹、じんま疹、胃腸障害)(11,12)。ウェルナーらは、PTUとメルカゾールの高用量と低用量で治療された389人の甲状腺機能亢進症患者を対象として、副作用の発生頻度を検討した(12)。関節痛、発疹、胃腸障害などの軽度の副作用に関しては、PTUとメルカゾールには統計学的な差は認められなかった。しかし、メルカゾールでは、副作用は投与量と関連しているように思えるが、PTUでは、副作用は投与量とは関係ないと思われる(1)。したがって、低用量のメルカゾール(例えば、5〜10mg/日)は、PTUに比べて軽度の副作用は少ないかもしれない。同様に、PTUとメルカゾールによる無顆粒球症の割合は0.2〜0.5%であるが、この重大な副作用はメルカゾール10mg/日以下を服用している患者では、非常に稀である(13)。さらに、薬物性肝炎とMPO-ANCA陽性血管炎などの稀な重大な副作用は、ほとんどPTUを服用している患者にみられる(11)。要約すると、特に軽度〜中等度の患者でメルカゾール10mg/日以下が投与されている場合、メルカゾールの方が安全な薬であるように思える。 |
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どちらの薬が、規則的に服用が可能か?
甲状腺機能亢進症患者がどれくらい規則的に抗甲状腺薬を服用しているかについての研究は、今まで誰も行っていない。しかし、甲状腺機能亢進症患者がきちんと抗甲状腺薬を服用していないことは容易に想像できる。メルカゾール30mg/日単回投与(10例)とPTU400mg/日投与(4回分割投与;6時間毎、12例)を比較した無作為対照試験が1つだけある(8)。3ヶ月後月、ちゃんと服用している例(錠剤を数えて80%以上服用している場合を「ちゃんと服用している例」と定義した)は、メルカゾール服用例で83%、PTUでは53%であった(P<0.01)。おそらく、メルカゾールを一日1回服用した場合、クスリの効きが良いのは、PTUに比べてメルカゾールの服用率が高いことに因るところが大きいと思われる(14)。 |
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どちらの薬が、より経済的か?
小売価格が異なっていることや患者の自己負担率も違うために、この質問に答えるのは難しい。全国チェーン店を持つ会社とインターネット注文できる会社の価格をWeb
siteで調査、比較した(この調査は2003 年6月3日に行った)。その結果が以下である。
PTUの場合、通常、治療開始量は300mg/日であり、1ヶ月の服用量は180錠で21.81ドルとなる。
タパゾール(ブランド品;メルカゾールと同じ)を一日30mg(3回に分割)服用した場合、1ヶ月のコストは平均86.08ドル(83〜90ドル)で、後発品<注釈:ゾロ品またはコピー薬といわれる>の場合、1ヶ月のコストは平均62.30ドル(61〜63.13ドル)である。
一般的にメルカゾールとPTUの薬効は10:1と言われているが、実際は30:1と考えられている(1)。もしそうなら、治療開始量としてメルカゾール10mg/日とPTU300mg/日が同じ効果を発現することになる。この場合は、タパゾールの1ヶ月のコストは平均28.69
ドル(27.67〜30ドル)で、後発品の場合、1ヶ月のコストは平均20.85ドル(21.05〜20.33ドル)である。したがって、メルカゾールの低用量では、メルカゾールとPTUのコストは同じであるが、メルカゾールの高用量では、メルカゾールはPTUと比べてより高価である。 |
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どちらの薬が、放射性ヨード治療の効果を減弱させるか?
抗甲状腺薬が放射性ヨード治療の結果に影響を及ぼすことは数十年前から分かっていた。にもかかわらず、アメリカ甲状腺学会会員を対象とした調査で、約30%の会員がアイソトープ治療を行う前に甲状腺機能を正常にするために抗甲状腺薬を全例に使用していることが分かった(15)。
さらに、抗甲状腺薬でまず治療を受けて、抗甲状腺薬を中止後に再発し、アイソトープ治療を受ける患者が多い。これらの患者も、アイソトープ治療前に抗甲状腺薬をずっと服用していたわけである。 |
PTUがアイソトープ治療の効果を有意に減弱させるといういくつかの後ろ向き研究は報告されているが、前向き無作為対照試験はいまだ行われていない(16-19)【図1A】。一方、メルカゾールをアイソトープ治療前に使用した場合と使用しなかった場合での効果の比較検討をした2つの後ろ向き研究(18,20)と2つの前向き無作為対照試験(21,22)が行われている【図1B】。4つの研究全てで、メルカゾールはアイソトープ治療に影響を与えないと言う結果であった。したがって、もしアイソトープ治療前に抗甲状腺薬を使用する場合は、メルカゾールが好ましいように思われる。メチルチオウラシル<注釈:PTUに似た抗甲状腺薬>で前治療した古い研究(23)でも分かっているが、PTUがアイソトープ治療の効果を減弱させる作用を克服するために、PTUで前治療を行う場合には、アイソトープの投与量を25%増やすべきである。 |