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放射性ヨード治療はバセドウ病に対する第1選択の治療として使われることが多くなってきており、また抗甲状腺剤による治療後に甲状腺機能亢進症が再発した場合にも選択される治療法である。放射性ヨード治療の目的は甲状腺機能亢進症を治すに十分な甲状腺組織を破壊することである。甲状腺機能亢進症が残るリスクに対する医師の考え方にもよるが、治療の目標は患者を甲状腺機能正常状態または甲状腺機能低下症にさせることである。
放射性ヨードの量を調節することで、甲状腺機能正常状態を得ることに多大な関心を集めているが、もっとも適切な投与計画ということに関しては、ほとんど意見の一致がない。使用される投与法には、少量(2mCi)を繰返し投与する方法、5mCiから10mCiの固定線量を投与する方法、また甲状腺のサイズや放射性ヨード摂取率、あるいはヨード-131の半減期を元に計算する方法がある(41-47)。放射性ヨードの線量を計算して投与しても5mCiまたは10mCiの固定線量投与に比べ、利点がないことがはっきりしており(48)、計算した線量の放射性ヨードを投与するのは面倒であり費用がかかるという欠点がある(放射性ヨード摂取率を計算する必要があるため、1回の来院ではすまない)<注釈:3時間後の放射性ヨード摂取率から投与量を計算するやり方だと短時間で終わる>。トレーサー量の放射性ヨード-131を投与して、甲状腺のヨード摂取率を測定することは、患者がバセドウ病(あるいは多結節性甲状腺腫)の場合、放射性ヨード治療の必要条件ではない<注釈:放射性ヨード摂取率を測定して投与量を決める方が安全と考えています。これは医師によって、考え方に違いがあります>。
バセドウ病に対する一般的治療法は、5または10mCiの1回線量を投与することである。甲状腺機能亢進症が治らない場合は、同じか、またはもっと高い線量を6ヶ月以内に再度投与する必要がある。線量を増やす必要はめったにない。一部の医師は、ほとんどの患者に甲状腺機能低下症を意図的に誘発させるため、最初にもっと高い1回線量を投与する方を好む(15mCi)(49)。この治療法の欠点は、患者がT4<注釈:チラーヂンS>で治療を受ける必要が生じることで、その量が多すぎると骨密度の減少のリスクと骨粗鬆症による骨折が起こるリスクが付随して生じ、また量が少なすぎると高コレステロール血症のリスクと虚血性心疾患が起こるリスクが生じる(50-53)。職場復帰や子供との接触があることに関し(イギリスでは15mCiの放射性ヨードを投与された幼稚園の先生は3週間職場から離れることが勧告されている)、厳しい安全規制(特にアメリカ以外の国では)が科せられていることから、より低い線量を使う方が便利である<注釈:日本では外来で治療する場合には、13.3mCiまで使用可能です>。 |
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放射性ヨード治療により、甲状腺機能亢進症が治り、1回線量または複数回の投与を受けたほぼすべての患者で甲状腺腫の大きさが小さくなる(41,42)。一旦、甲状腺機能正常状態が得られたら、甲状腺機能亢進症が再発することはめったにない(54,55)。治療後、最初の6ヶ月以内に起こる甲状腺機能低下症は一過性の場合もあれば、永久的な場合もある(56)。軽度の甲状腺機能低下症のある患者をT4<注釈:チラーヂンS>で治療する場合は、後で治療を中止し、治療を続ける必要があるか再度調べるようにする。永久的な甲状腺機能低下症が、放射性ヨード治療の唯一重大な合併症である。これは高線量の投与を受けた患者の少なくとも50%に治療後1年経過するまでに起こり(49)、低線量の投与を受けた患者の少なくとも50%に治療後25年経過するまでに起こる【図2】(41)。これは線量依存性であり、治療後長年経過しても発生率は毎年2〜3%のままである(41,57)。血清TSH濃度が上昇し、血清フリーT4濃度が正常であれば、甲状腺機能低下症の可能性がある(潜在性甲状腺機能低下症)(58)。長期的なフォローアップが欠かせない。 |
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放射性ヨードで治療を受けた患者は、抗甲状腺剤またはβ遮断剤でも治療を受けることが多い。数ヶ月間は甲状腺機能正常状態が得られないことが多いが、若い患者や軽度の甲状腺機能亢進症である患者は放射性ヨードだけで治療を受けることがある。放射性ヨード治療の効果発現が遅いこと、高齢者や重症の甲状腺機能亢進症患者の不整脈や狭心症のリスクが低いながらあることから、放射性ヨード治療を受ける前にほとんどの患者に対して抗甲状腺剤またはβ遮断剤で数週間治療をすることが望ましい。標準的な方法は放射性ヨード治療の3〜4日前に抗甲状腺剤を中止し、治療後3〜4日して投薬を再開するというものである。ある試験で放射性ヨード治療後8日以内に抗甲状腺剤治療を開始すると甲状腺機能低下症になる率が低く、甲状腺機能亢進症が残る率が高くなるという結果が出ているが、放射性ヨード治療の前後に抗甲状腺剤を投与することで、この治療に対する反応に影響が出るかどうかは定かでない(59)。甲状腺機能低下症は別として、放射性ヨードにはほとんど副作用がない。時に、放射性ヨード治療後最初の2週間以内に一過性の甲状腺機能亢進症の悪化がある。これは放射線照射による甲状腺炎のためである。これは甲状腺の痛みや圧痛、腫脹も起こす。甲状腺クリーゼを起こすほどひどい放射線性甲状腺炎になることは極めてまれである。 |
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バセドウ病患者の治療において論争が続いている問題は、抗甲状腺剤治療とは異なる影響を眼症に及ぼすということである。大規模な後ろ向き研究で、抗甲状腺剤のみで治療した患者、手術、放射性ヨードで治療した患者には眼症の発症や悪化に差がないことが明らかとなった(60)。反対に、無作為にメチマゾール、手術あるいは放射性ヨード治療を振り分けた35歳以上の患者で行なわれた最近の研究では、放射性ヨードで治療を受けた患者に眼症が発症したり、悪化したりする頻度が高くなっていた(61)<注釈:最近の研究で、副腎皮質ホルモンを併用することにより放射性ヨード治療後の眼症の悪化を予防できる可能性が示唆されている>。放射性ヨードの影響が大きいことの理由は、甲状腺機能低下症の発症や放射線性甲状腺炎による甲状腺抗原の放出がある。眼症の悪化は治療前の血清T3濃度が高いことと関係がある(61)。これは眼症の臨床症状の発現が甲状腺機能亢進症のコントロールが難しい患者に多いことと一致する。我々は、活動性、進行性の眼症がある患者には放射性ヨードの投与を避け、代わりに眼症が安定するまで抗甲状腺剤を投与している。 |
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放射性ヨードで治療を受けた患者で時たま甲状腺癌の記載があるが(62)、数件の大規模な研究(63)では放射性ヨードと癌の間に関連性は見出されなかった。同様に、胃癌を除き、白血病や充実性腫瘍の発生率が増加するという事実もない。胃癌は治療後10年以上経過してから発生率が増加する(標準罹患率は1.33)。また、乳癌は治療後30年以上経ってリスクが増加する(ただし有意性はない)(64-66)。
放射性ヨードと先天性異常のリスクについては、直接的な情報は少ない。妊娠は放射性ヨード治療の絶対禁忌である。不注意で胎児の甲状腺が発達した後に(妊娠10週以後)治療を行なってしまうと、胎児の甲状腺を破壊してしまうことになり、そのため先天性甲状腺機能低下症となる(67)。妊娠可能年齢の女性には、生理開始後10日以内、あるいは生理が不順な場合は妊娠検査が陰性と出てから放射性ヨードを投与すべきである。そして4ヶ月間は妊娠を避けるようにしなければならない。放射性ヨードで治療を受けた女性の子供に先天性異常の発生率が高くなるというような証拠はない(68)。女性と男性の放射性ヨード治療に起因する遺伝子異常の理論的リスクは0.005%であり(69)、当然ながら、そのようなリスクは臨床試験で実証されていない。 |